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果テの先  作者: 加水
第三話
10/14

第五話『一人多いかくれんぼ』(1)

皆さん、ごきげんよう。シャドーです。次のお話、何だと思いますか?


貴方もきっと、幼少の頃に遊んだことがあるでしょう。『かくれんぼ』のお話を今回はご紹介したいと思います。

かくれんぼと言っても、普通のかくれんぼではありません。一人多いかくれんぼです。これは、人形を一体用意し、その人形と共にかくれんぼをする遊びなのです。聞いたことはありませんか?ありませんよね?この遊びは、何かが起こると言われている遊びなのです。ですから、知らなくて当然です。


では、その方法をまずはご説明いたしましょう。

用意するものは、人形、水、塩、鏡です。そして、できれば鏡を割るものとして鋭利なものが必要です。もちろん落として割っても平気なので、必ずいる物とは限りませんが。

そして、用意ができましたら、人形に水をかけます。後にもう一度使用するので限りがある場合は半分を目安にかけて下さい。次に、人形を鏡に映します。それから、人形に名前をつけてください。鏡に映したまま、「君は○○。」と人形に三回自分の名前を覚えさせるように言い聞かせてください。その後、残った水を人形にかけます。鏡は割っておいてください。これで準備は完了しました。

いよいよかくれんぼです。人形を誰かが持ってかくれんぼを行います。初めは必ず人形は隠れる方に参加させてください。その後、いつでもいいので鬼の方にも参加させてください。ある程度回数をこなしたら、今度は人形だけを鬼として、全員隠れてください。

これで、一人多いかくれんぼの始まりです。貴方は上手く、逃げ切れるでしょうか?


それではお話の始まりです。お楽しみください。





一人多いかくれんぼ。それを遊ぼうとする子供達がいた。

まだ年端もいかない子供五人が、いつもの公園に集まり、こそこそと何か話している。女の子が二人、男の子が三人の五人組だ。


「ねぇえ?この人形でいいのぉ?」


間延びしたような声で人形を掲げるのは、もり 春歌しゅんか。垂れ目で髪を肩まで伸ばしている少女だ。


「クマのぬいぐるみか。結構大きいの持ってるんだね。」


春歌よりもいくばか年のいった少女、金城かなぎ まりが、春歌の持つ人形をしげしげと見つめた。どこにでもあるようなくまのぬいぐるみ。しかし、春歌が小さいせいか、人形はやたらと大きく見えた。


「鏡と塩は俺が持ってきたぜ!」


手鏡と、袋に入った塩を取り出したのは斉藤さいとう 悠太ゆうた。毬と同い年の男の子だ。結構なおしゃべり屋さんで、口を開いたら閉まらないとさえ言われている。


「水は、水道でいいよねぇ。」


にっこりと笑顔を浮かべ、水道を指差すのは悠太より一つ年下の斉藤さいとう 一樹かずきである。兄とは違い、いささか優しげな感じを持っている。

最後に、一番年下の春歌の幼馴染の浜木はまき 耕輔こうすけが春歌に後ろから顔を出し、皆の様子を伺っていた。


「じゃあ、やってみようか。私と悠太でやるから、三人は見ててね。」


年上である毬が、悠太の襟根っこを掴みながら他三人にそう告げた。それに、はーいと返事を返し三人は二人がすることを黙ってじっと見ている。

二人はまず春歌から人形を受け取ると、水道のところまで場所を移動した。


「なぁ、逃げないからさ。いい加減襟首離せよっ!」


悠太がいつまでも襟首を持っている毬へと声をあげた。毬は不満そうに口をへの字にしたものの、あっさりと手を離した。


「じゃあ、人形持ってるから水かけてよね。」


「わぁったよ。」


毬の言うことに、口を尖らせながらも従う悠太。水道を悠太がひねると、人形に水がかかる。人形がびしょ濡れになると、悠太は水道の水を止めた。


「あ、そうだ。この子の名前何にする?」


毬が人形を体から離し、持ち上げると全員に人形を見せながら問いかけた。悠太は答えずに鏡の準備をしている。


「あ、あのね。ハナって名前なの。」


毬の問いに答えたのは春歌だった。毬はそれを聞くと笑みをこぼし、悠太が持っていた鏡に人形を向かせた。どうやら、名前は決定したらしい。


「君はハナ。君はハナ。君はハナ。」


毬が人形に囁くように言い聞かせる。他は固唾を呑んで見守るだけ。毬は手際よく水道を捻りまた人形に水をしみこませる。

悠太がその横でビニールに鏡を入れ、思い切り地面に叩きつけた。バリンという音とともに、鏡はあっけなく砕け散った。


「準備完了だね。」


今まで傍観を決め込んでいた一樹が笑顔で台詞を吐く。皆が頷いて、毬は皆の前に人形を持ってきた。びしょ濡れになった人形。皆一斉に凝視するが、特に変わったところはない。


「なんか、凄いびしょびしょだし、絞っちゃおうか?」


毬が徐に発言する。しかし、賛同するものはおらず、皆互いに顔を見合わせるだけ。


「一樹、手伝って。ほら、足元持つ!」


しかし、すぐさま仕切り毬は一樹に人形の足を持たすと、自分は手を持って人形をねじり始める。ボタボタと水は滴り落ちていく。ある程度絞ってから毬は人形から手を離す。


「……ハナが……。」


春歌が小さな声をあげる。人形が、毬と一樹の手を離れ春歌のところへと戻ってきているが、形は先程と随分違い、手足が少し伸び異様な形をしている。

泣き出しそうな春歌の顔を見て、毬は気まずそうに頬を掻いた。


「大丈夫だよ。乾けば元に戻るって。さて、始めようか。かくれんぼするものこの指止まれ、はーやくしないと電気が消える消える。ローソク一本きーえた。後から来るものいーれない。」


悠太が春歌に笑って言い、人差し指を一本突き出した。それから、遊び始める前の人数調達の歌を歌い始める。

全員が悠太の指へと手を伸ばした。悠太の指は既に手に覆われて見えない。耕輔がさり気なく人形の手をその全員の手が乗っている場所へと触れさせた。これで人形も参加することになる。


「いよっし、じゃあ初めの鬼は俺がやってやる!」


悠太が元気良くそう言った。人形が居てはじゃんけんができないからだろう。


「じゃあ、春歌。お人形よろしくね。」


毬は言うが早いか、すぐさま駆け出して何処かへ行ってしまう。隠れる場所を素早く確保するためだ。


「じゃ、お兄ちゃん。数えてよね。」


一樹も悠太に言うとどこかへ行ってしまう。残された悠太は春歌と耕輔に背中を向け、目を隠して数を数え始める。


「春歌ちゃん。僕らも隠れようよ。」


「う、うん。ハナは私と一緒よ。ルールがわかるまで一緒にやって覚えようね。」


耕輔が春歌の手を引き、彼等もどこかへ隠れるため、悠太の元を後にした。

春歌はいつもと同じように人形に話しかけてから、ゲームを楽しむのである。

幾度か、鬼を交代してかくれんぼを行った。これから、いよいよ人形が鬼の番になる。今度は春歌ではなく、悠太が持って鬼をやることになった。

しかし、すぐさま悠太は全員を見つけてしまう。


「悠太って、見つけるの早すぎ!」


毬が文句をたれるが、悠太はさらに胸を張ってしまう。一樹が苦笑ってから、人形へと視線を移す。


「まぁ、それよりも。いよいよ人形が鬼。ってことだね?夕方だし、ちょうどいいかも。」


空を見上げて冷静に言う一樹の言葉に、全員が空を仰いだ。確かに、空は真っ赤に染まり、もうすぐ日が沈むことを示していた。


「じゃあ、これが最後ってことね。もし、何も起こらなければ辺りが暗くなった時点でお終い。ここに戻ってくること。でいいかしら?」


毬が提案をする。それに全員が頷き、異論がないことを現した。


「じゃあ、ハナが鬼よ。」


「今度は一人でやってみてねぇ。」


毬と春歌が人形に言い放ってそそくさとその場からいなくなる。

悠太は二人を見送った後、鞄から先程の鏡が入った袋を出し、中から鏡の破片を取り出した。


「何をするのさ?お兄ちゃん。」


「人形に持たすんだよ。戻ってきたら、あいつら驚くだろ?」


一樹の問いに、悠太はにししと笑い、人形の手の部分に尖った鏡の破片を突き刺した。クマのぬいぐるみには指がないので、そうしないと持っているように見せることができないのだ。


「じゃ、俺達も行くか。耕輔、お前も今度は一人で隠れるんだぞ?」


悠太が耕輔に言い残して去る。いままで、耕輔は他の誰かと必ず一緒に隠れていたのだ。引っ込み思案で、気が弱いため誰かの後ろに引っ付いていたのだ。

悠太にそう言われたものの、耕輔は指をいじりながら声を発さずに一樹を見上げた。一樹はそっと耕輔の手をとると、にっこりと笑みをこぼす。


「さ、行こうか。耕輔。」


耕輔は一樹の手をぎゅっと握り、一緒にその場から離れた。

残された人形は地面に座り込み、ただ彼等を見送るのだった。

こくこくと日は水平線へと進む。




耕輔と一樹は、公園に茂る木々の中に身を潜めていた。そこからは、人形が小さくだが確認できるはずの位置。

人形から隠れなければいけないのだが、耕輔がどうしても嫌がったため、人形が見える位置で隠れられる場所になったのである。


「ほら、耕輔。見てごらんよ。動かないよ?」


一樹は肩を震わせながら蹲っている耕輔に、優しく声をかけ、人形が座っている方向を指差した。まだ赤い夕焼けの中、人形は地面に座り込んでいる。


「……ほんと?」


耕輔は顔を上げて、人形を見る。何の変哲もない人形がそこには自分に背中を向けて座っているだけ。


「うん。今はね。」


一樹がにっこりと笑ってそう言った。耕輔は目を見開いて戸惑いの表情を見せ、一樹を見上げた。一樹は笑って腰を屈めながら木の陰に隠れていた。夕焼けがだんだんと暗さを増し、一樹の顔の影もよりいっそう暗くなる。


「夕焼けと夜の間、紫色へ変化するほんの短い時間。この時間帯は、何かが起こる時間なんだよ。耕輔。ほら、見てないとどっかへ行ってしまうかもしれないよ?」


夕焼けがくらみを増し、赤紫へと周りが変化していく。耕輔は慌てて人形へと視線を戻した。まだなんともない人形。

何故一樹の言葉を耕輔が信じたのか。それは、一樹がこのかくれんぼの話を持ってきたからだ。人形を鬼にするのも、さり気なく一樹がこの時間まで引き延ばしていた。

と、すれば。ここらが本当の一人多いかくれんぼの始まりになるはずなのだ。赤紫がだんだんと紫へと変わっていく。


「っ!!」


耕輔は声にならない悲鳴を上げた。瞬きをした一瞬で、人形はなんと、向きを変えて耕輔たちの方に正面が向いていた。

見られていると、耕輔は感じていたが、視線がどうにも離せない。

一樹も人形に見られているせいか、一言も言葉を発そうとしない。耕輔は、なんとか人形から視線を外し、一樹を見た。一樹は、目を見開いて驚いているものの、口元は怪しく笑っていた。

普通の笑い方ではない。耕輔は人形と一樹に挟まれて、今すぐにでもこの場から逃げ出したかった。けれど、体は硬直したまま動かない。


「耕輔、行こう。」


一樹が自分を見ている耕輔に、目もやらずに一言そういうと、這いつくばって気に隠れながら徐々に移動していく。

耕輔が、人形が居た場所に目を戻すと、そこにはすでに何も存在していなかった。人形が消えたことに、耕輔の頭はまたもや真っ白になる。しかし、頭で考えるよりも先に、耕輔の目は一樹の視線の先を追っていた。

一樹が見ていたのは、正しく動く人形だった。丸い足で立ち上がり、ゆっくりだが一歩一歩前へと進んでいる。耕輔たちには背中を向けていることから、どうやら耕輔たちには気付かなかったようだ。


「ね、ねぇ。一樹兄。何が起こったの?」


耕輔は一樹の服の裾を引っ張りながら震える声で彼に聞いた。しかし、一樹は人差し指を口につけ、耕輔を見る。

人形をちらりと垣間見てから、一樹は耕輔に顔を近づけて小さな声で説明を始めた。


「僕等は、儀式を行ったのさ。人形が動いて、一緒にかくれんぼができるようにね。まず、人形を水に濡らすことで媒体としての機能を上げる。水にはよく寄って来るっていうだろう?それから、鏡に映して名前をつけるのは人形に自分が生きていると思い込ませるため。これで人形は意思を持つから、かくれんぼの方法を教えればルールを覚えるわけだ。だけど、肝心な動く動力源がない。最後のきっかけは、お兄ちゃんが指した鏡の破片。人形は差されたことで、恨みという動力源を得る。人形を粗末に扱うと仕返しされるとか言われるだろう?これで、動く人形の出来上がり。ってこと。」


固まったままでいる耕輔に、一樹は笑みを浮かべたまま彼を凝視している。

今の耕輔にとって、動く人形も十分怖いが、何よりもそれを作り出すよう仕向けて笑っている一樹のが怖かった。恐怖で歯がガチガチと鳴りそうなのを、耕輔は必死に抑えていた。物音を立てれば、人形に気付かれてしまうかもしれない。その理性がなんとかいまの耕輔を制御していた。


「な、なんでそんなことしたの?」


「僕はね、一度やったことがあるんだよ。この遊びを。だけど、終わりを迎えた時、僕以外は誰一人いなくなっていた。そして、僕は誰と一緒にかくれんぼをやっていたのかわからないんだ。一人でやってたのかもしれない。相手がいないから、人形と一緒にかくれんぼをしたのかもしれない。だけど、なんだか違和感を感じてね。だからもう一度。やってみようと思ったのさ。」


涙が溢れ出しそうな耕輔を、一樹は顔から笑みを消して見下ろした。もし邪魔をするなら容赦はしないとでも言っているかのようだ。

一樹からの威圧感に、耕輔はその後言葉を発することができなくなってしまった。我慢していた歯も、ガチガチと音を立てて鳴ってしまうし、額からは冷たい汗が噴出した。


「大丈夫だよ、耕輔。君にはこのかくれんぼの終わらせ方を教えておくから。」


恐怖に青ざめた耕輔の顔を見て、一樹はカラカラと笑い、ポケットから悠太が持っていたのとは別の袋に入っている塩を取り出した。

一樹は塩が入った袋を耕輔の手を開かせて持たせるようにのせる。そして、耕輔の手を上から握り、耕輔に袋を握らせた。


「鬼に塩をかけて、人形にタッチして『もう、かくれんぼは終わり。』とひたすら言い聞かすんだ。だけど、見つかる前に塩をかけるのとタッチは行わなければならない。」


ポケットから今度はペットボトルに入った水を一樹は取り出した。


「それには、塩水を口に含んで人形に近づけばいい。塩水を含んでいれば人形に見つかることはないんだ。」


一樹はペットボトルを耕輔の小さな鞄に押し込めた。ペットボトルに入っている水が塩水なのだと、なんとなく耕輔も理解はしていた。しかし、なぜ一樹が自分にそこまで話し、道具をくれたのかが耕輔にはわからなかった。

まだ口を開けたまま自分を見てる耕輔に、一樹は頬を上げにっこりと笑ってみせる。


「僕用は僕用であるんだよ。今度は一人でこのかくれんぼを終わらす気がない。っていうだけさ。」


耕輔は一樹の言葉にほっとした。けれど、その言葉の裏に、何人がここに置き去りにされるのかという疑問が存在しているはずなのだが、耕輔は気付けていない。

耕輔は安心したように一樹の手を取る。きっと帰れると思っているに違いない。


「じゃあ、追いかけようか。終わらさないと帰れないからね。」


一樹も耕輔の手を握ると、ゆっくりと身を潜めながら移動するのであった。

すでに人形の影が一樹たちが見える場所から姿を消していたが、とりあえず人形が行ったであろう方向へと足を進めるのであった。


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