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噂のゆうれいやしき

夏と言えば怪談!

ってな訳で、街にはびこる奇妙な噂のお話です。

「ねぇ、こんな噂、知ってる?」

 その話を持ち出したのは、その手の話が大のつくほど好きな愛莉であった。

「噂?」

 夏休みだというのに律儀に平日毎日活動をしている我が翼探偵社にて。しかし今日は取り立てる程の事件が無い、というかほぼ毎日事件は無いので時間を持て余しているあたし達にとって、雑談は業務の最も大きな部分を占めていた。

「そうなのー。あのね、近所の小学生から聞いた話なんだけどー」

 そう言って、彼女は嬉々としてその妙な噂を話し始めた。小学生から聞いた、という時点でもうちょい疑ってかかれよ、とは思ったが、まぁ暇つぶしぐらいにはなるだろうとそのまま耳を傾ける。何も言わない所を見ると、どうやら他の二人も同意見、ないしは反論する気が無いのだろう。不毛な会話と斬ってしまえばそれだけだが、夏休みの宿題もとうに終えてしまった今、中身の無い会話でもある方がありがたい。

 聞いた話をそのまま伝えているからだろう、あっちこっちに脱線していたが、それでもなんとか彼女の話をまとめるとこうだ。その愛莉に話をしに来た小学生は、友達から幽霊屋敷の噂を聞いたらしい。そこで気になって友人と一緒に町内を捜索してみると、偶然街のはずれにあるそれらしき建物を見つけてしまったのだとか。恐くて中には入れなかったらしいのだが、幽霊の影を見たという子もいて、それで愛莉に退治してほしいと依頼が来たようだ。

『……で』

 粗方聞き終わりしばしの沈黙の後、辰弥と湖山が口をそろえて切り出した。

「ん?」

「それを僕らにどうしろ、と」

 どうやら彼らは、愛莉の真意を測りかねているらしい。そんなどうしろも何も、彼女の性格を考えたら分かるはずなのに。

「解決、とまではいかないけど、調査する事は出来ると思うの」

 待ってましたとばかりに、にこやかに笑う愛莉。確かに、彼女は自他共に認めるお人好しだし誰よりも優しいから、時折人の言う事を鵜呑みにして突っ走ってしまう事もある。しかし、それでもこんな噂話を信じるほどに馬鹿では無い。それで子どもが怖い目にあったというなら話は別だが、今回はそのような深刻な事態にも陥ってはいない。だから“調査”なのだ。

「何をだよ」

 そういう事にはてんで鈍い男性陣が、順番に質問していく。

「まず、そんなお屋敷が本当にあるのかどうか。次に、本当に幽霊屋敷なのか」

「ある訳ないだろ、そんなの」

「だから調べるんじゃない」

 この暑い中、腰が重くなっているのは知っている。だから彼女は、最も効果的であろう台詞を、とびっきりの笑顔で披露する。

「どうせ皆、時間あるよね?」

『……』

 これを言われてはぐぅの音も出ない。何故ならそもそも、この話をしていた事自体、暇を持て余していた証拠である。

「でーもなぁ……」

「まぁ、良いんじゃないの?」

 流石にそろそろ話をまとめないと、ややこしい事になりそうだ。そう思ったあたしはようやく助け船を出す事にする。何故か愛莉が言い出さない、だが彼女の一番の心配事を切り札にして。

「噂が変に広まって、その家に入っちゃう子がいるかもしれないしね」

「あー……」

 たかが子どもの噂話、とそこまで深く考えが及ばなかったのだろう。途端に辰弥の顔が気まずそうになった。同時に、愛莉の顔が少しほっとしたようになる。大方、自分の心配のし過ぎだと思って言い出せなかったのだろう。あたしも大して自信がある訳ではないが、可能性としてはありうるレベルだ。提示しておいても良いだろう。

 ここで、しばらく聞き役に徹していた湖山が思考を終えたらしく、口を開いた。

「よし、じゃあ聞いてみるだけ聞いてみるか」

 一応所長である奴の許可が下りた。ふぅ、これでもうひやひやしないで済む。

「そう言ってくれると思ったー。皆ー、もういいよ、入っておいでー」

『はーい』

 愛莉が珍しく外まで届くほどの大きな声を出すと、明るい元気な声と共にぞろぞろと数人の小学生が中に入ってきた。実は彼ら、先程からずっと影に隠れて待っていたのである。

「……桃香、お前知ってて黙ってたな」

「何がかな?」

 とぼけても意味が無い事は分かっているが、ここははぐらかしておく。言った所で悪い方向にしか転がらず、それはただ無意味に騒ぎを大きくするだけだ。水を差すのは趣味ではない。

「さぁ皆、このお兄さんとお姉さん達に、皆が見たって言う幽霊屋敷の事、もう一回教えてくれるかな?」

 湖山があたしにからんでいるうちに、愛莉はてきぱきと小学生を束ねた。この辺り、日ごろの面倒見の良さがうかがえる。

 愛莉の話はともかく、当事者の話は変にまとめると話がずれてしまう事がある。そこで、彼らの言葉はそのまま聞き入れる事にする。曰く。

「ぼろきれに包んであるのー」

「ういている影が見えたの! あれはゆうれいだよきっと!」

「宇宙人がくっついてた!」

「色んな線が引いてあったよー」

 他にもがやがや色々言っていたが、おそらく重要なのはこのぐらいだろう。

「あとはお姉さん達に任せてね。絶対、幽霊退治してあげるから」

 どうにかこうにか興奮する子ども達をなだめ、嵐が去った事務所にて。子ども達の証言を聞き、これまでずっと考えていたらしいにもかかわらず、

「……なんのこっちゃ」

三人とも訳が分からないという表情をしているのが、逆に不思議だった。

「え、分からないの?」

 童心にかえって、と言ってもほんの数年ばかしだが、考えてみればすぐに思い当たるはずなのに。

『え』

 むしろなんでお前は見当が付いているんだ、とでも言いたげな顔をしている彼らに、あたしは言った。

「兎に角、現場に急行してみよう。百聞は一見にしかず、って言うでしょ?」

 確証は無かったし、流石にここからでは見えない。照りつける日差しは強敵だが、夏を感じておくのもまた一興だろう。ちゃちゃっと荷物をまとめて、あたし達は街へと繰り出した。

 なんだか探偵役が板についてきてしまったなぁ、と反省しつつ。


 子ども達に教えてもらった地図と説明を頼りに探す事、三十分。目的の建物は彼らの言う通り、街の少し外れに位置していた。

「ここね」

『……え』

 その屋敷を見た途端、あたしは自分の推理が合っていた事を確信し、他の三人は何が何だか分からないといった表情で固まっていた。

「ただ工事してるだけじゃない……」

「宇宙人とか幽霊とか、一体何だったんだ?」

 そう、そこはただ工事をしているだけの一軒家。ただし、周りを囲っている石塀や門が若干古ぼけており、屋敷と言っても良いほどの広さを兼ね備えている事から、子どもにとってそのように見えてしまった要素は十分持っていた事になる。

「見たら分かるじゃない」

 来るまでは推測の域を出なかったが、実際に見てみれば分かる。成程、彼らの言う事ももっともだ。しかもよく観察している。子ども子どもとあなどってはいけないのだ。

『どこが!?』

「想像力が足りないなぁ。いい? 頭を小学生の時に戻すのよ?」

 それぞればらばらにうなづいたのを見て、あたしは謎解きを開始した。


「さて。まずは“ぼろきれに包まれている”。これは普通に分かるわよね?」

 首を傾げる二人、そっぽを向く一人。

「……今はピンと張られているあのシート、あれがもし、一カ所でも外れていたとしたら」

「ひらひら揺れて、ぼろきれに見える、と」

「正解」

 ああー、と納得する愛莉と辰弥。この二人の想像力が心配だ……。

 ともあれ、ここでいつまでも立ち止まっていては迷惑なので、影に隠れていたインターホンを鳴らし、形だけは整えてから中に入る。あたしからは見えているが、他のみんなの視力では多分、近づかないとあれは見えない。

 敷地内に入るだけならまだしも、流石に人の家に無断で近付き過ぎるのはどうかと思ったので、ぎりぎり見えるぐらいの位置で止まり、指を差した。

「“宇宙人”はおそらく、あれ」

「壁になんか張り付いてる!?」

 まだ工事が終わっていないらしい一角に、それは存在した。全長二十センチメートル程の、ロケットのような形をした容器が、辰弥の言う通り壁に設置されている。もっとも、吸盤等で張り付いている訳では勿論無く、ただテープで貼り付けられているだけだったが。

「ああやって、植物に栄養剤入れるみたいに、壁のひび割れに詰めてるのよ」

 あたしも、家の近くでマンションの改修工事をやっていたからこそ知っていた事だ。これは見覚えが無くて当然だろう。しかし、工事をしているという時点で思いついてほしかった物だ。見た事も無い機械は、彼らにとっては未知の生物のように見える、と。

 そしてその器具の周りには、色とりどりの線が引かれていた。赤、黄色、青、緑。それらはある規則性を持って、ペンキもはがれてしまった壁に模様を描いていた。

「で、この線は儀式用……ではないだろうな」

「うーん、ひび割れに沿って書いてあるから、何かの位置を示しているのかな?」

「そうそう。青がひび割れ、黄色が深くて埋めなきゃいけないひび割れ、赤が欠けているとこ、っていう風に色分けされているみたいね」

 これも現場の知恵である。なんでも、工事を始める前に全体を点検し、修繕個所を見極めてから作業に入るんだとか。

『なんだ~』

 不可思議な線が実用的な物だと知り、ちょっとがっかりしたように溜息をつく愛莉と辰弥。

――なんだ、そんなに心霊現象が良かったのか!? それとも悪魔召喚の儀式でもやりたかったのか!?

「でもまぁ、そうなったら僕達に対処する事は出来ないんだ。これで良かったんだろう」

 幽霊の正体見たり、枯れ尾花。解明されてしまえば何でもない、というように余裕を取り戻した湖山がまとめに入る。

『でーもーさー』

 尚も食い下がる二人。まぁ最期に確かに一つ、大元が残っている。この屋敷が何と呼ばれていたかにも関わる、重要な目撃証言の検証が。

「幽霊って?」

「まだ見てないよね?」

――だからそんなに目を輝かせて言うな! これだから心が痛むんだよ……。

キラキラとした純粋な瞳に見つめられながら、心の中だけでつっこみをする。それでもそこに謎がある限り、事実を明らかにするのが探偵の仕事である。

……UFOを検証する科学者ってこんな気持ちなのかな、と思いつつ。

「それは多分」

「わしの事じゃよ~」

『うわああああああああああああ!』

 突然の登場には、流石の湖山も驚いていた。その後、冷たい視線が送られたが無視する事にする。というか、あたしの立ち周りが科学者から心霊番組の司会者、あるいはネタの前振り係にシフトチェンジした気がするが、そこは触れてはいけない所であろう。

「ここに住まわれている方ですね?」

 皆呆然としてしまって使い物にならないので、あたしが代表して質問する。

「いかにも。なんだ嬢ちゃん。驚かないのかね。可愛げがないのう」

「生憎、慣れてますから」

 この無駄に広くなってしまった視界の所為で、どこにいようが隠れていようが、一定距離ならばあたしの目は全てを見通す。慣れるまではあちこちにぶつかったり、不便な事も多かったが、仕組みを理解してしまえばこっちのものである。

「人が住んでいたんですね……」

「ああ、ずっと住んでおったよ。しかしな、この街に息子夫婦が引っ越してくると言うので、どうせだったら一緒に住もうと言う事になったんじゃよ。幸い、土地だけは余っておったのでな」

「それで工事を」

「こんな屋敷に、大事な孫を住まわせられんからの」

 門や塀を見れば、この家がどんなに歴史を経ているのか分かる。孫は特別可愛いと言うし、古ぼけた埃っぽい館より、ピカピカの明るい家の方が良いと思ったのだろう。

「でも、なんであんな奇妙な噂が?」

 そこでようやく核心をつく質問をしたのは、辰弥であった。そう、誰も工事現場を見ただけでは幽霊屋敷とは思わない。誰かが噂を流し、その先入観から思い込みが起こったと思う方が普通だ。そこまで分かっていて、何故その先に思いいたらないのかは疑問だが。

「決まってるじゃない。おじいさんが流したのよ」

『えええええええええええええええええええええええええええええええ!?』

 そんなに意外な事だろうか。このおじいさんがお孫さん思いな事や、何よりあたし達の前に出てきてこうして説明をしに来てくれている事を考えれば、すぐ考えついただろうに。

「お前さんにはなんでもお見通しじゃのう。そうじゃ、わしが言いふらしておったんじゃよ。あの家は幽霊屋敷、怖いから近づかない方がええ、とな」

「でもなんで?」

「危ないから、か」

「そーいうこと。やっと頭が回るようになったわね、湖山」

 あたしの嫌味に軽く顔をしかめた奴だが、事実も事実だったのでそのまま黙った。

「工事中の建物ほど、子どもの遊び場になりやすい物もないしの。ましてやここじゃ、広すぎて入り込まれても気付けないかもしれん。そうなった時、安全は保障できないからの。だから、入らないよう噂を流したのじゃよ。なるべく徘徊もするようにしての」

「そうだったんですか……」

 幽霊の影は、家の中から見回っていただけ。二階などから見れば、シート越しなので宙に浮いているようにも見えたのだろう。何度も目撃されているようだから、よっぽど目を光らせていたようだ。

 しかしそれだけ気を回しても、上手くいかないのが噂という人々の大好物の難しい所だ。それを指摘したくて来たようなものなので、あたしは思い切って切り出す。

「でも、噂が広まり過ぎています。このままでは」

「面白半分の子が来るって言うんじゃろう? それなら大丈夫じゃ」

 まるであたしの考えはお見通しだ、と言わんばかりに、堂々と胸を張って彼は言った。

「工事は今週いっぱいで終わり。来週からはピカピカの家になっているからの」

 華麗にウィンクを決められ、あたしは大人しく肩をすくめるしかなかった。

――どうりで、あの一角以外綺麗なはずよね。

 ふわりと舞い上がったシートの隙間から覗く白い壁が、やたらとまぶしく映った。


 工事が終わったら遊びに行くと約束し、元気でパワフルでハートフルなおじいさんに見送られ、すごすごと踵を返した帰り道。

「……あのおじいさんの方が、一枚上手だったな」

 さっきの仕返しだというように、湖山がにやりと告げる。

「そうだねー」

 対してあたしは、はなから相手などしていない風を装い、さらりと受け流す。元々、年長者に勝ってやろうと思うほどの野心など、持ち合わせていないのだ。

「まぁこんな終わり方もありだよな」

「だね~」

 しみじみとかみしめるように、一歩一歩踏みしめる。そう、今日は八月三十一日。明日からは新学期が始まる。

「よし、じゃあ花火でも買って帰るか! 皆でやろうぜー」

「いいねー」

「でも、どこで?」

『……』


 こうして、あたし達らしくぐだぐだな感じで、中学生最後の夏休みは幕を閉じた。


中学生にしては可愛げがないかもしれませんが、探偵としては謎があったら解いちゃうんですよね。性です、性(笑)

あと、今回ちょっとだけ、桃香の能力についても書かせていただきました。

他の三人の力もこれから明らかにしていく事にしましょう。


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