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期末でばとる

少しタイミング外してしまいましたが、期末テストに関するお話です。

少し短めですし、幕間程度に楽しんでいただければ幸いです。

「ふっふっふっふっふ……」

 誰もいないはずの教室に、不敵な笑みがこだまする。

「ついに、ついに僕の季節がやってきた……!」

 少年は笑う。普段は無感情で冷徹な美貌を、精一杯歪ませて。

「これまでとは違う。必ず、必ず、お前を負かして見せるぞ……」

 強い意志を持って、確かな自信をその身に宿し。彼は高らかに、その名を口にする。

「水嶌桃香ぁ!」


 一学期期末試験――それは、中学生にとっては乗り越えなければならない壁であり、同時に自分の能力を試す勝負の場でもある。そう、本来ならば試験というのは己との戦いなのである。相手は自分自身であり、それを打ち破ってこそ、明るい未来が開けるのだ。

 ところが。世の中には、“好敵手”と勝手に自分の中で決めつけた相手に勝つ事だけを目標にしている輩がいる。彼らはふとしたきっかけ――例えば自分と同等で周りからはやしたてられてとか、はたまた格下でも一度屈辱的な敗北を受けたやら、あるいは格上相手への憧れ等――で、相手の事を認識する。その後はただひたすらに、相手の事しか考えられなくなる。その感情の強さは恋にも似ているが、残念ながらそこは必ずしもイコールではない。それと同時に、相手が自分を意識しているかも場合によりけり。片思いか、それとも両思いか。成程、その辺りもまさしく恋愛事のようである。

 さて、前置きが長くなったが、今回の主人公であるところの少年――湖山優は悲しいかな、完全に片思いのケースである。確かに、桃香の方も優を敵対視してはいるのだが、それはあくまで委員会の時など、共に活動している時に限られる。成績に関しては、彼女の眼中に彼はいないのだ。何故なら。

「この連敗の歴史に、今回こそは一矢報いるのだ……!」

 今まで行われたテスト中、優が勝った事は一度も無かったのだから。何故か常に王者に君臨する少女、それが桃香だったのである。まぁ本人に言わせれば、勝負強いだけらしいが。ここぞという時に体調を崩したり、頭が真っ白になったりする事の多い作者にとっては、羨ましい限りの話である。とまぁそれは置いといて。

「くそっ、僕のどこがいけないんだ。容姿も完璧、人望に溢れスポーツ万能、何をやらせても人並み以上なこの万能人の何が悪い……!」

 いや、そうやって自分の事を過剰に評価するのが悪いんじゃないっすかねつまりは正確に難ありだ! とか言いそうになったそこの貴方。……ぴんぽんぴんぽーん、大正解。

 自分では隠し通しているつもりのようだが、桃香と辰弥には勘付かれているように、一部生徒と大多数の教師には、彼のこの天上天下唯我独尊の性格はばればれなのである。つまり。彼は教師受けが非常に悪いのだった。まぁ、流石にそれで評価が付くほど教師達もひいきはしないが、損をしているのは事実である。おかげで、教師と仲の良い愛莉などは、試験に出そうな所やポイントなんかをそれとなく教えられているというのに。そういう所も、優の可愛げのなさと言っても良いだろう。

 しかし、本人としてはその事には気が付かない。よって、毎回良い所までは行くのだが、ひっかけ問題に狙い通り、ものの見事にひっかかるなど、惜しい所で得点を逃している。ちなみに、彼はケアレスミスをしない事でも有名であり、そこも可愛げがないとみなされている。

 要するに、彼はなまじっか能力があるだけにつっこみづらいというある種一番面倒な、ナルシストなのだ。

「さて、嘆いていても仕方が無い……。行動に移らねば」

 そんな彼なので、今までただ闇雲に戦っていたという訳ではない。得点上位者の勉強方法をリサーチし、自分なりに応用して利用するなど、そこそこ工夫をして勉強をしていた。しかしそれでも、何故か彼女には届かない。不動の女帝が桃香なら、万年二位の男、それが優である。

 その為、今回も新しい作戦を考えて臨みたい所ではあるが、もうすでに策は尽きている。

「仕方ない……。また、奴に頼るか」

 困った時の神頼み、とはよく言うが、見るからに信仰心の薄そうな男がすがるのは、実在する人物である。


「ちょっと良いか?」

 そんなこんなでとある日の放課後。同じクラスになったのを良い事に、彼はある人物を呼び出した。

「またかよ……。もうネタないぞ」

 適当な空き教室に連れ込まれた彼――辰弥の方も心得ているのか、温厚な彼にしては珍しく、明らかに迷惑そうな顔をしている。一応、テスト期間中は探偵社の活動を休止にしているので、彼女にばれる心配も無いのであった。

「そこをどうにかするのがお前の仕事だろう」

 対する優は、すでに辰弥には自分の本性がばれているからか、普段とは違って横柄な態度を隠そうともせず命令する。

「しっかしなー。あ、そうだ」

「ん?」

「お前、仮にも所長なんだから、推理で問題当てちゃえばいいんじゃねーの?」

「ほう」

――成程。それは盲点だった。何て事だ。俺は今まで、自分の能力を生かしきれてなかったのか……。

 盲点を突かれ、黙りこむ優。その内面は新しい発見と、友人の慧眼への驚きと感謝で震えていた。

「意外と良い線まで行けるかもなー。まぁヤマはるだけにしとけよ? お前頭良いんだから、普通に勉強した方がまだ……って聞いてんのか?」

 勿論、お察しの通り辰弥はこの話をさっさと切り上げる為に冗談で言っただけなのだが、追い込まれ藁にもすがる思いだった優は最後まで聞かずにその提案に飛びついてしまった。

「そうか、その手があったか……」

「……どーなっても知らないからな、俺」

 こうなってはもうどうしようもない事を辰弥も知っているからか、こっそりひっそりと友人の身を案じるに止めた。一方の優はそんな事耳に入る訳が無いので、

「流石親友! 僕達の絆は永遠だ!」

などと大真面目に手を握りながら言っていたりする。

 流石にこれにはドン引きした辰弥は思わず、ぼそりと呟いた。どうして彼はその回転の良さを、真っ当な方向に使わないのか、という嘆きを込めて。

「大丈夫だろうか、こいつ」


 翌日から、優の捜査は始まった。

 まずは今更ながら、教師達との仲を深める事から始めた。優が質問に来るなど珍しい事だったので、一部教師からは何か企んでいるのではないかと疑われていたが、それでも大半の教師には素直に受け入れられた。

 そうして、今まで掴みきれていなかった教師の性格と、ちらりと見せてもらった過去問、さらりと言われたヒント。出来得る限りありとあらゆる情報を入手し、そこから傾向と対策を練る。受験生も真っ青の手口である。

「ふふふふふ。これで完璧……!」

 こうして、寝る間も惜しんで確率計算等々にいそしんだ彼は、不敵かつ晴れ晴れとした表情でテストを受けたそうな。


 そして――

「わーすごいすごーい」

 全ての答案が返され、友人同士で一喜一憂する教室。掲示板というシステムは個人情報保護の観点で廃止されているが、それでもテストの結果は個人個人に、プリントアウトされ届けられるのである。そして、当然のごとく人気が集中するのは、成績上位の者である。

「また桃香が一位だな」

「へっへっへー」

「今度勉強教えてー」

「おっけー」

 そんな賑やかな様子を影でうかがいながら、歯をギリギリと食いしばる男が一人。

「な、何故だ。何故なんだ……!」

 やるだけの事はやった。全力は尽くした。それなのに……。紙に打ちだされた数字は『2』。優はこの時ばかりは、信じないと決めた神すら呪ったそうな。

「く、くそう。今度は必ず……!」

 彼の名は湖山優。打倒桃香に執念を燃やし続ける男。

 入学当初から始まるこの見えない一人戦争は、またしても彼に黒星をつけたまま、続いていくのであった。


今回は文体も変えてありますし、何よりお笑い要素が強いですね。

優には当初からその要員として働いてもらおうと思っていたので、個人的には満足です。

次話はちょっとまともに夏休みバージョンの捜査でもお楽しみいただけたらと思っています。

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