エピローグ 『灰色の夜明け』
バトル後と宴会
ナイトメアの拠点――地下ハンガーに、勝利の余韻が静かに広がっていた。
XRX-03は整備ドックに固定され、損傷した装甲からまだ微かに赤い粒子が漏れ出している。
整備士たちが慌ただしく動き回り、ガイルが自ら工具を握って左腕のヴォイド・リーパーを点検している。
カイは興奮冷めやらぬ様子でストーム・ランナーのスラスターを撫で回し、セラは無言でシャドウ・ストライカーのセンサーアレイを拭いている。
リナがブリーフィングテーブルに肘をつき、ホログラムに映る戦績データを眺めながら言った。
「報酬の粒子合成炉コア、到着したわ。
これでネメシアの安定性が上がるはず……隊長の負担も、少しは軽くなる」
レオンは壁に寄りかかり、腕を組んでいた。
顔色は青白く、額に汗が浮かんでいる。
だが、口元には薄い笑みが浮かんでいた。
「よくやったな、みんな」
その言葉に、カイが飛び上がるように反応した。
「隊長! 俺たち、勝ったんですよ! ナイトメアが! エクリプス・シティの権利も全部俺たちの!」
ガイルが笑いながら肩を叩く。
「これで予算も潤うぜ。次はみんなの機体に新パーツだな」
セラが小さく頷く。
「……生きて帰れた。それで十分」
扉が開き、足音が響いた。
入ってきたのは、エコーだった。
ブラッド・クロウの制服を脱ぎ、ただの黒いジャケット姿。
ゼロ・グラビティはすでに解体され、クロノスのコアだけが回収されて運び込まれている。
彼は静かに頭を下げた。
「ナイトメアの皆さん……そしてレオン。
改めて、俺たちの降参を認めてくれてありがとう」
一同が息を飲む中、エコーは続けた。
「ブラッド・クロウは、もう存在しない。
残ったメンバーも散り散りだ。
……そこで、俺から頼みがある」
彼は視線をレオンに向けた。
智将らしい、冷静で揺るぎない瞳。
「俺を……ナイトメアに入れてくれないか。
ゼロ・グラビティのデータも、クロノスの知見も、全部提供する。
俺の頭脳を、君たちの悪夢に使わせてほしい」
カイが目を丸くする。
「え……マジで!? 敵のエースがっすか!?」
リナがデータパッドを操作しながら、話始める。
「……本気ね。
彼の戦術ログ見たら、確かに使える。
おそらくブラッド・クロウの敗因は、彼の指示を無視したことだったわ」
ガイルが腕を組んで笑う。
「面白いじゃねえか。智将が俺たちの味方かよ」
セラが静かに言った。
「……信用できるかは、時間でわかる」
レオンはゆっくりと歩み寄り、エコーの前に立った。
「歓迎する、エコー。
だが、一つだけ約束しろ」
エコーが頷く。
「何でも」
レオンが手を差し出す
「次は……一緒に、もっと大きな悪夢を見せようぜ」
エコーが小さく笑って手を握る。
初めて見る、穏やかな表情。
「……約束するさ」
一同が歓声を上げ、握手が交わされる。
ハンガーに、新しい風が吹き始める
ハンガーエリアの奥、普段は機体整備用の広いスペースが、今夜は臨時の宴会場に変わっていた。
赤と青のネオンライトが天井から吊るされ、簡易テーブルがいくつも並ぶ。
ガイルが持ち込んだ古いスピーカーから、低めのロックが流れている。
テーブルには、近隣の街から仕入れた酒瓶、缶ビール、インスタントのつまみ、そして珍しく新鮮な肉の串焼きが山積みだ。
粒子合成炉の報酬で少し予算が潤ったおかげで、今日はちょっと贅沢。
「かんぱーい!」
カイが一番に立ち上がり、缶ビールを高く掲げた。
周りがどっと笑い、グラスや缶がぶつかり合う音が響く。
レオンはテーブルの端に座り、グラスを軽く傾けながら皆を見回した。
顔色はまだ少し青白いが、痛みは薬で抑え込んでいる。
今日は……無理をしないと決めた。
ガイルが大声でエコーに絡む。
「おい智将! お前、酒強いのか?
ブラッド・クロウの連中、飲むとすぐ弱くなるって噂だったけどよ!」
エコーは静かに微笑み、グラスを口に運ぶ。
「噂は半分本当だ。
俺は……飲むより、観察する方が好きだった」
セラが隣で小さく笑う。
「今は観察じゃなくて、飲め。
仲間になったんだから」
エコーが軽く肩をすくめ、グラスを空けた。
「もちろんさ。……乾杯」
リナがデータパッドを置いて、珍しく髪を下ろした姿で皆に酒を注ぎ回る。
「今日は仕事禁止。
隊長の命令よ」
レオンが苦笑する。
「俺が命令した覚えはないが……まあ、いい」
カイが興奮気味にエコーに話しかける。
「エコーさん! ゼロ・グラビティの飛行データ、いつか見せてくださいよ!
あれ、めっちゃカッコよかったです! 俺のストーム・ランナーにも飛行機能つけたいっす!」
エコーが穏やかに頷く。
「クロノスのことは全部共有する。
ただ……飛行はエネルギー効率が悪い。
お前の機体なら、短時間バーストで十分戦えるはずだ」
ガイルが肉の串を頬張りながら割り込む。
「それよりよ、エコー。
次はどんな作戦立ててくれんだ?
俺のアイアン・フォートレス、もっと派手に暴れたいぜ!」
エコーが静かに笑う。
「派手さはレオンに任せる。
俺は……影から支えるよ」
セラがグラスを置いて、珍しく口を開く。
「……歓迎する。
あなたがいれば、私たちの生存率が上がる」
一同が頷き、再びグラスが上がる。
レオンは静かに皆を見ていた。
虚空の痛みが、時折胸の奥で疼く。
だが、今はそれさえ、遠い記憶のように感じる。
彼は立ち上がり、グラスを掲げた。
「俺たちナイトメアはこれから、もっと大きくなる。悪夢への準備はいいか?」
全員が一斉に立ち、声を揃える。
「ナイトメア!」
みんなの声が、ハンガーに響き渡る。
宴は夜更けまで続いた。
笑い声、冗談、過去の戦いの武勇伝、そしてこれからの夢。
エコーは最初は控えめだったが、次第に皆の輪に溶け込んでいく。
カイに戦術を教え、ガイルと機体のカスタムについて熱く語り、リナとはデータ共有の約束をし、セラとは静かにグラスを合わせる。
レオンは少し離れたところで、それを見守っていた。
やがて宴が一段落し、皆が少しずつ酔いつぶれていく頃。
レオンは一人、ハンガーの隅に移動した。
XRX-03の脚元に座り込み、静かに目を閉じる。
神経ポートの奥から、冷たい疼きが這い上がってきた。
レッドポイントの後遺症――虚空の痛み。
視界の端が赤く滲み、耳元で低く唸る声が聞こえる。
「……まだ、飢えている」
レオンは左腕を強く押さえ、息を吐いた。
汗が額を伝う。
体が震え、指先が痺れる。
それでも、彼は小さく笑った。
「……お前は、俺の悪夢だ。
だが……今は、仲間がいる」
虚空の声が、少しだけ静かになる。
レオンはゆっくり立ち上がり、機体を見上げた。
青い目が、優しく瞬く。
「もう少し……付き合ってくれよ」
ハンガーの奥から、皆の笑い声がまだ微かに聞こえてくる。
ナイトメアの夜は、
静かに、温かく、続いていた。
ここまでで第1期を終わりとします。まあ区切りいいからね。
新章はエコー編を書こうと思います。(結構、終盤まで書き終わってる。テコ入れ中)
どんどん書いて投稿したから分かりにくいところたくさんあったと思います。自分も書いていてコイツどんなキャラやっけ?ってなること多くて笑
ここまでありがとうございました!!
次はもっとよい作品ができるように頑張ります!




