影の代償
倉庫の奥は、埃と油の匂いが濃く立ち込めていた。
薄暗い非常灯の下、クロノス・スタビライザーが埃をかぶって静かに置かれている。
円筒形の金属ケースに、青白い冷却ランプが微かに点滅していた。
エコーはゼロ・グラビティを降り、ケースに手を伸ばした。
指先がケースに触れた瞬間――
ピーッピーッピーッ!
施設全体に赤い警報音が響き渡った。
壁のスピーカーから、無機質な合成音声が流れる。
「警告、警告、最終自爆シーケンス起動。
残り時間:180秒。
全人員は即時退避せよ」
レオンが即座に通信で叫んだ。
「自爆装置だ!
エコー、スタビライザー取ってすぐ撤退しろ!」
カイがストーム・ランナーで駆け寄り、
「エコーさん! 早く!」
エコーはケースを掴み、機体に戻った。
重力制御で浮上し、倉庫の出口へ急ぐ。
だが、天井がすでに崩れ始めていた。
コンクリートの破片が落ち、床に穴が開く。
「くそ……!」
エコーは機体を加速させた。
残り時間:120秒。
レオンがXRX-03で先導し、カイが後ろからカバーする。
通路はすでに瓦礫で埋まり始め、
3機はスラスターとブースターを全開にして抜け道を探す。
残り時間:60秒。
天井が大きく崩落した。
巨大なコンクリート塊が、エコーの機体に直撃しそうになる。
「エコーさん!」
カイが叫び、ストーム・ランナーを急加速させた。
ツイン・プラズマガンを捨て、機体を盾のように構えてエコーの上に覆いかぶさる。
ドゴォォン!
瓦礫がストーム・ランナーを直撃。
機体が悲鳴のような金属音を上げ、
脚部と背部スラスターが完全に潰れた。
カイのコックピットが火花を散らし、通信が途切れる。
「カイ!」
レオンが吼え、XRX-03で瓦礫をヴォイド・リーパーで切り裂きながら駆け寄った。
エコーはスタビライザーを抱えたまま、崩落した瓦礫の山を見つめた。
「……カイ……」
残り時間:30秒。
レオンがエコーを掴み、強引に引きずり上げる。
「エコー、行くぞ!
カイは……生きてるはずだ!」
エコーは抵抗しなかった。
ただ、瓦礫の山を一瞬見つめ、
静かに呟いた。
「……俺のせいだ」
レオンは強く言った。
「違う。
お前は仲間を信じた。
カイも……お前を信じて動いたんだ」
施設が激しく揺れ、爆発音が響き始める。
レオンはエコーを抱え、XRX-03で全力疾走。
エコーの機体もブースターを限界まで回し、出口へ向かう。
残り時間:10秒。
出口のゲートが見えた瞬間、
背後で大爆発が起きた。
炎と煙が施設を飲み込み、
衝撃波が3機を外へ吹き飛ばす。
輸送機が急接近し、回収ポッドが降りてきた。
レオンとエコーはポッドに収容される。
爆発の光が灰色の空を赤く染めた。
ポッド内で、エコーはスタビライザーを握りしめたまま、
膝を抱えて座っていた。
顔に血が流れ、瞳が揺れている。
レオンが静かに言った。
「カイは……生きてる。
ストーム・ランナーのコックピットは頑丈だ。
捜索チームを出す」
エコーは小さく頷いた。
声が震えていた。
「……俺は……また、仲間を危険に晒した」
レオンはエコーの肩に手を置いた。
「違う。
お前は、初めて……仲間を信じて戦った。
カイはそれを知ってたから、動いたんだ」
エコーは目を閉じた。
涙は出なかった。
ただ、胸の奥で、何かが熱く疼いていた。
輸送機が上昇し、廃墟を後にする。
灰色の空の下、
炎の残光がゆっくりと消えていく。
エコーはスタビライザーを胸に押し当て、呟いた。
「……カイ。
待ってろ。
俺の機体が完成したら……必ず、迎えに行く」




