熱と影
廃棄施設の深部は、暗く湿った空気が重く淀んでいた。
コンクリートの壁はひび割れ、ところどころから古い配管が剥き出しになり、
滴る水音だけが静かに響く。
エコーはゼロ・グラビティの残骸機で先頭を進み、
レオンとカイが左右からフォローする形を取っていた。
スタビライザー保管庫まではあと200メートル。
だが、敵の罠が待ち構えていた。
突然、床からEMPパルスが炸裂した。
青白い閃光が広がり、3機の機体が一瞬硬直する。
「くそっ……!」
カイのストーム・ランナーが膝をつき、スラスターが不規則に噴射を始める。
レオンのXRX-03もネメシアの出力が乱れ、ヴォイド・リーパーのプラズマ刃が一瞬消えかかる。
エコーは即座に判断した。
「EMPトラップだ。
俺の機体は重力制御が独立してるから影響が少ない。
レオン、カイをカバーしろ。
俺がサーバーを探して無力化する」
レオンが低く唸る。
「一人で大丈夫か?」
エコーは短く答えた。
「大丈夫だ。
お前たちは……信じてる」
カイが負傷した脚を押さえながら叫ぶ。
「エコーさん……! 無理しないでくださいよ!」
エコーは機体を浮上させ、暗闇の通路を急加速で駆け抜けた。
背後で、レオンはカイを援護しながら、
敵の無人監視ドローンを次々と撃ち落とす。
エコーはサーバールームに到着した。
古いコンソールが並び、赤い警告灯が点滅している。
指先で素早くキーボードを叩き、ハッキングを開始。
(……ブラッド・クロウでは、こんな時、味方を置いて逃げた)
過去の記憶がフラッシュバックする。
崩壊した戦場。
味方の機体が炎上し、通信で「助けてくれ」と叫ぶ声。
エコーは冷静に「生存率が低い」と判断し、撤退を選択した。
その日以来、仲間は彼を「冷たい影」と呼んだ。
コンソールにアクセス完了。
EMPトラップの制御コードを入力し、無力化。
施設全体のトラップが停止し、照明が回復する。
エコーは息を吐き、通信を開いた。
「トラップ無力化。
レオン、カイ、進んでくれ」
レオンの声が返ってきた。
「よくやった、エコー。
今、合流する」
だが、その瞬間――
サーバールームの奥から、重い足音が響いた。
スカベンジャー連合の残党機体。
中量級の実弾特化機が、ガトリングを回しながら現れる。
「スタビライザーは渡さねえ!
お前ら、悪夢ごっこはここまでだ!」
エコーはゼロ・グラビティを旋回させ、ジェネシスをチャージ。
だが、残弾はあと1発。
ここで使えば、スタビライザー確保後の帰還が危うくなる。
(……ここで、俺は)
過去の自分が囁く。
「撤退しろ。生存率を優先しろ」
だが、今のエコーは違う。
彼は通信で叫んだ。
「レオン! カイ!
俺が引きつける!
お前らはスタビライザーを取ってくれ!」
レオンが即答する。
「無茶だ!」
カイの声が震える。
「エコーさん……!」
エコーは機体を敵の正面に突っ込ませた。
ジェネシスを撃たず、ブースター全開で敵の注意を引きつける。
ガトリングの弾幕が機体をかすめ、装甲が火花を散らす。
(……これが、無茶か)
ブラッド・クロウでは決してしなかったこと。
だが今は、仲間を信じられる自分がいた。
レオンとカイが倉庫へ突入する音が聞こえる。
エコーは敵のガトリングをギリギリでかわし、
機体を急旋回させて背後に回り込む。
「終わりだ」
ジェネシスを撃たず、代わりに翼状ブースターで敵の脚部を蹴り飛ばす。
敵機がバランスを崩した瞬間、レオンのヴォイド・リーパーが横から斬りかかり、
機体を両断した。
戦闘終了。
カイがスタビライザーを抱えて駆け寄ってきた。
「エコーさん……! 無事っすか!?」
エコーは機体を着地させ、ハッチを開けた。
顔に血が流れているが、笑っていた。
「無事だ。
……お前たちのおかげだ」
レオンが近づき、エコーの肩を叩いた。
「よくやった。
お前はもう、影だけじゃない」
エコーは静かに頷いた。
「そうだな。
これからは……仲間として、無茶もするよ」
3人はスタビライザーを抱え、施設を後にした。
灰色の空の下、
エコーの胸に、初めての温かさが広がっていた。




