告白は突然に
結城組コウ組長がまた饅頭の入った風呂敷包みを持ってやってきた。
「これをお納めください」
いつものセリフだ。俺はいつもなら受け取った饅頭の箱は後ろに控える美里に渡すのだが、今回はそうはせずに目の前の机に置いた。「ちぃ」何やら舌打ちしたような音が聞こえた。
「ふふふ」俺の唇からも音が漏れた。
コウ組長はそんな俺と美里をちらっと見たが、あえて気にしないようにし、言葉を続ける。
「こちらが、昨日承った薬屋のリストです」
俺は一通り目を通す。ゴーラ様から渡されていた暗部が作成したリストより1軒多い。
「これは、どのような薬屋だ」
「行商の元締めです。この町からは少し離れた別の町に拠点がありますが、販売目的の店舗を持たずに行商だけで薬を売っています」
もしかして、薬の売人と呼ばれている者達か。ゴーラにも来ていたな、そいつは違法薬物所持で逮捕されていた。今もゴーラ様の屋敷の地下で人体実験にされているか、運よく死んでいるかだ。
こいつは真っ黒かも、ゴーラ様に報告したら、また虐殺が起こり不良物件の不動産が発生する。それは俺の仕事が増え、当分家に帰れなくなると言う事だ。かと言って見過ごすことはできない。それこそ薬中患者が増えて、余計な仕事も増える。
「結城さんは、これについてどう思っている」
「社長が思っている通り、真っ黒だと思います」
仕方ないな。確認した後でゴーラ様に報告しよう。
結城組組長が帰った後、里見達と今後の予定について話し合う。
「面倒くさい事になった。この町から東に3日ほど行ったところにミリタムと言う商業都市がある。そこの倉庫街に薬の売人の拠点があるらしいから、ちょいと行って調べてくる。ついて来たい者はいるか」
「はい」
手を上げた者は里見だけだ。里見は支店長として、ここに残ってもらいたいと考えていたが、近隣の都市を見せておくのも必要かもしれないと思い、承諾する。
里見は拳を握りガッツポーズをとる。何がそんなに嬉しいのか解らない。
そして、里見の指示が飛ぶ。
「智子と信子は私に就いてこい。仁太上等兵は副支店長として近所のあいさつ回りと、残りの者とともに製薬工場の管理をしておけ。私たちは10日程でもどる」
「「はっ!」」
「・・・・」
凄い、カッコいい。危なく俺まで「里美隊長に就いて行きます」と言いそうになった。
旅の支度は美里に任せてある。準備出来次第出発だ。
「大体の準備は整いました。社長もこの衣装に着替えて下さい」
美里たちの衣装は旅の渡世人。縞の合羽に三度笠だ。
「何故、その衣装にしたのだ」
「良いでしょう。結城組に借りてきました。犯罪組織を調査するにあたり、アラジのヤクザが取引をしたいと言う事にすれば良いと思いました。それに伴い道中にある各親分さん達に挨拶していこうと思いまして」
ああ、時代劇に出てくる「御控え下さい・・」とか言う仁義切りをやりたいだけだろ。それであんなに喜んでいたのか。それ俺も好きだよ。楽しい道中になりそうだ。
4人の渡世人が街道を進んで行く。三度笠を斜めに傾け風を遮りながら、一列で足早に東に向かっている。
夕方になり、彼らがたどり着いたのは、寂れた町の街道沿いにある古びた屋敷。
門口に立って里見の口上が始まる。
「入谷の貸元の御宅はこちらでございますか」
屋敷から家の者が出て来た。
「手前です。お入りなされ」
「お屋敷居内、御免下されまし。親分様でございますか」
「若い者でござんすから、お頼み申します。自分より発します。御控え下さい」
「どういたしまして、御控え下さい。旅のしがない者でござんす。御控え下さい」
「下拙も当家のしがない者でござんす。御控え下さい」
「さよう仰せられ。お言葉の重なるばかりでござんす。御控え下さい」
「再三のお言葉に従い控えます。間違いがありましたら御免下さいまし」
「早速御控えあってありがとうござんす。自分にはアラジは結城一家若い者里見と発し、御賢察の通、しがなき者にござんす。後日に御見知り置かれ行末万端御熟懇に願います」
仁義切りを終えた里見はまだ真剣な顔をしているが、腹の中では快感にひったっているのだろうな。次の貸元では俺がやりたい。
ここでは一宿一飯を受け、行く先の親分の名を教えてもらった。
仁義を切ることにより、身元が保証され、寝床とただ飯にありつける。飯の時に親分からアラジの様子を詳しく聞かれた。これがヤクザのネットワークシステムなのだろう。
これを3回繰り返して目的地のミリタムに着いた。時代劇で見たヤクザ社会を十分に堪能した里見は上機嫌だ。智子と信子も道中、色々な食べ物を食い歩き、嬉しそうにお喋りに夢中だ。姦しい事この上ない。
今も旅館に眺めのいい部屋を取り、この地方の料理を堪能しているところだ。
「隊長。随行者に私たちを選んでくれてありがとうございます。こんなに美味しい旅だとは思いませんでした」
「この前ヤクザ達を制圧した時、特に手際が良かったからな、ご褒美だ」
「あんなの朝飯前です」
「そうか。成長したな。今後も私に、いや腹いっぱい飯を食わせてくれたリン太社長に感謝し仕事に励め」
「「はい!隊長」」
彼女らの服従心は俺ではなく美里にあるようだ。それは当然であり、良い事だと思うけど、何か釈然としない。それは里見との距離感が近づいたせいだろう。最近やたらと里見を近く感じる。
里見がちらりと俺にふり返る。俺も何か言えと言いたそうだ。
「智子と信子。お前たちはよくやっている。これからも里見を支え勤務に励め。美里お前は、・・・これまで通りに」
「・・・」
美里は何やら言いたそうな顔をしている。
「社長、いいえリン太さん、私はリン太さんが好きです。私を第4夫人にしてください」
里見は真っ赤な顔をして目が真剣に俺を見ている。
「「きゃー」」
智子と信子は、口元を両手で隠し驚いている。
俺も大変驚いた。何が起きている。俺は今プロポーズを受けているのか。落ち着け俺。しっかりしろ俺。
「俺も美里が好きだ。俺の嫁になってくれ」
「「キャー」」
智子と信子は抱き合って喜んでいる。
抱きついて来た美里を俺は柔らかく両手で包み込み、優しく言葉を続ける。
「でもまだ早い。お前が15才になったら結婚しよう」
「・・・」
「聞いている?」
その時足元でごろりと何かが転がる音がした。
そこには、空になった徳利がころがっていた。
「・・・すうーすうー」
腕の中では可愛い寝息をたてている里見がいた。
またやってしまったと思う。




