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風が吹けば饅頭屋が儲かる

 詳しく調べた結果、結城組はアラジに根付いた(てき)()、まあヤクザで間違いないだろう。そして本家結城組は腐れヤクザだった。もういないけど。

 結城組の収入は、縁日の露天商、興行、日雇いの口利き、おしぼり等ヤクザの基本業に加え、運送業を営んでいる。宿場から発展した町だから、それが本業だったのだろう。その構成員は半分がチンピラだ。と言う事は、半分はまともな奴だと言う事だ。見方を変えれば町の問題児を受け入れ仕事を与えているともとれる。これは必要悪というよりも、必要機関だ。社会からはみ出た者を更生させるシステムのようなものだ。

 それでも更生できない者達が分裂して、最終的にゴーラ様によって駆除されている。本家結城組のように。本当に合理的なシステムだ。

 この町にも行政機関である役所はあるが、あまり大きな力は持っていないようだ。事務的な仕事のみ実施している。その他の治安維持や、消防関係は町の者たちに任せている。結城組のような者たちにだ。

 アラジ支店を開くための手続きに立ち寄った役所は、玄関を衛兵2人守らせているが、その衛兵はどこかの会社を定年退職し再雇用したような爺さんだ。中に入ると受付のお姉さんが一人、奥に壮年の男性が一人いるだけだ。

 小さな政府の見本のようだが、警察等、武力を民間に任せているのは、中央政府であるゴーラ様の威光のお陰である。

 これでは、悪代官と越後屋の物語は生まれない。

 しかし、外部からの攻撃は存在する。ここアラジの様な、役所に武力を持たない町は、結城組の様な既存の勢力に代わってこの町を牛耳ようとする者がでてくる。縄張り争いのようなものだ。

 結城組は、その抗争で負けた事がない。町の人たちから、ある程度の支持があるのだろう。

 戦争などに代表される、争いごとに必要なのは後方支援である。補給のない部隊は直ぐに殲滅される。結城組は少なからず支援してくれる住民が存在すると言う事だ。

 そこに中央政府の息のかかった集団、ゴーラ&リン㈱アラジ支社が現れる。武力だけ見れば、里美支店長率いる鬼人1個分隊は圧倒的である。

 結城組の組長コウは恐れているだろう。「自分の実の弟さえ御せない者にこの町を任せられないと、お上は判断したのかもしれない。俺たちはこれからどうなるのだろう」などと思っているに違いない。

 本当の所は何も心配いらないのだけどね。俺たちは事件の後処理に来ているだけで、物件が売れたらさっさと帰るつもりだったが、売れそうにないから仕方なくゴーラ&リン㈱の支社として運営することになっただけだ。

 彼らの昨日の来店は、そんな俺たちの事を探りに来ていたのだろう。少しは安心したかな。

 さて俺に今日の予定は何もない。里美の部下たちがマーケティングリサーチをしているので、その報告を待っている。里美は五月雨式に入ってくる情報を分析判断し部下に指示を与えている。俺はその隣で茶をすすっている。

 俺いらないんじゃね。ゴーラに帰ろうかな。でもあっちでも俺のやることないし、などと考えていると、西部地区をマーケティングしていた忠太が表から駆け込んできた。

「隊長大変です」

 ゼイゼイと息を切らした忠太は座り込んで美里を見上げる。

「なんだ。落ち着け、落ち着いてサッサと報告しろ。のろま」

 忠太は美里の優しさの欠片もない言葉に一瞬固まったが、落ち着いた口調で報告する。

「街はずれに100人程の武装した集団が、こちらに向かっています。なりから判断するにヤクザのようです」

 美里は報告を聞き俺に顔を向ける。とても嬉しそうだ。

 予想していた事が始まったのだ。本家結城組が壊滅した事を知り、このチャンスを物にしようとして近隣のヤクザが攻めてきたのだ。

 美里が喜ぶ理由は、成長した自分たちの実力を試したいのと、そのヤクザ達の服装だ。(しま)合羽(かっぱ)三度笠(さんどがさ)。この近辺のヤクザはみんな異国の時代劇が大好きなようだ。

「里美、皆殺しはするなよ。半分は生きて返せ」

「はい、承知しています。使えるものは使えですね。半分を生かして使うつものなのですね」

 仲間を半数も殺されたヤクザが、俺たちに帰順するとは思えない。皆殺しにしない理由は、潜在的脅威を半減させるためだ。

 戦力が半減した、そのヤクザ団体は、また別の勢力に攻められる。攻めた勢力も無傷ではすまない。そうして潜在的脅威は自然に衰退するのだ。

「使えるのなら使ってもいいが、見逃してやった半数の奴らは、そう長く生き残れないと思うぞ。それより皆殺しより半殺しの方が難しいと思うが大丈夫か」

「大丈夫です。人数は100対9ですが、戦力は100対900ですので、全く問題ありません」

「そうか、今後の会社運営のために一瞬でやるなよ。最低でも2回から3回にに分けて実施するように」

「承知しました。結構面倒ですね」

 里美は分隊員を集めると街はずれに移動した。


 渡世(とせい)(にん)風の団体がアラジの郊外を進んで行く。

 対する里美たちも、結城組から急遽借りて来た、野武士の衣装。七人の侍をまねているな。コンセプトを守るために戦力を削るとは。それに結城組もよくこのような衣装を持っていたなと思う。

「親分、前方に7人の小汚いガキ達が道を遮っています。なんでしょうね」

「あれは野武士の衣装だな。この町にも好き者がいるらしい。少し脅せば逃げ帰るだろう。気にするな」

「おい、お前らぶっ殺されたくなかったら、そこを・」

 怒鳴っていた男は突然倒れて動かない。

「てめい、何をしやが・」

 また倒れて動かなくなる。

「最後までしゃべらせて上げないの。人生最後の言葉なのに」

「人生最後の言葉にしては、陳腐なので可哀そうだと思って」

 智子と信子がしんみりとした雰囲気で話している。

「てめいら、何もんだ」

 明らかに怯えているのが見て取れる。

「隊長、予定どおり恐怖を与えたと思います。後はチャチャとやっていいですね」

「ふむ。社長からは最低でも2回から3回にに分けて実施するようにと言われている。チャチャではなく、チャチャチャぐらいでやれ」

 その後の展開は小さな規模であるが地獄と呼べるものが繰り広げられ、きっちり50人が虐殺され、50人が逃げ帰った。逃げ帰ったところで弱ったヤクザの運命は知れている。

「社長、片づけました。残された(むくろ)は可哀そうなので道端ではありますが塚を築いて弔いました」

「ふむ。良くやった。その塚はヤクザ達にとって良い教訓になるだろう。教訓が生かされる事はないだろうが」


 明くる日、結城組の組長はまた部下を二人連れて訪れた。饅頭の入った風呂敷を携えて。

「社長、お礼に参りました。この度は危ないところを助けて頂きありがとうございました。これを収め下さい」

 ヤクザのお礼参りではない、昨日ヤクザ達を半殺しにした件だろう。美里を見ると、顔が見る見る内に喜びに輝く。どうせ山吹色の饅頭を想像しているのだろう。そんな事はあり得ない。結城組の経済状況を考えれば解かるだろう。構成員だけは多いが羽振りが良いわけではない。

「ああ悪いな。気を遣わせたようだ。それと塚を作るのにも手伝ってくれたそうだな」

「いえ、社長がいなければ今頃、私共は生きていません。どうして助けて下さったのですか」

「そうですね、この機会にコウさんとは話し合っておきましょう」

 ゴーラ&リン㈱の目的、この町の郊外に建てた製薬工場の事、結城組のしのぎに手を出すつもりがない事等を説明し、違法薬物の根絶に協力を求めた。

「勿論協力は惜しまないつもりですが、具体的には何をすればいいのですか」

「取敢えずは本家結城組が卸していた薬屋を教えてもらいたい」

「それはかまいませんが、中には真っ当な薬屋もいます。それにゴーラ様の薬に似せて安く売っている薬屋もありますが、住民たちにとって必要な薬屋です。見逃してくれませんか」

「真っ当な薬屋なら心配ない。偽物を売っている薬屋も少しは目をつぶっていてもいいが、そいつらは、本物のゴーラ様の薬が入手できなくなり、近い将来店を(たた)む事になるぞ」

「それなら大丈夫です。その薬屋は本物をおいていませんから」

 庶民の味方の薬屋とでも思っているのだろう。安い薬を売るのは問題ないが、偽物を売るのが問題だ。本物の価値と信用が損なわれる。ゴーラ様のしのぎを邪魔している自覚がないのだろうな。教えてやるべきか。

「そうか大丈夫か。なら心配ないな。ちなみに結城組のしのぎを卑怯な手で邪魔する同業者が現れたらどうしているのかい」

「生かしちゃおかない・・・・・。社長、少しは目をつぶると言うのは」

 コウ組長は察しがいい。

「今日までの事は調べない。明日からの事は生かしちゃおかない」

「急用を思い出しました。薬屋のリストは明日届けます。失礼します」

 コウ組長は慌てて帰って行った。身内か親戚に薬屋がいるのだろう。

 応接室をでて事務所に入ると美里たちはお茶を入れて饅頭を食べていた。饅頭の入っていた箱は既に空である。里美に目を向けると、両手に持っていた饅頭を抱え込むように隠す。俺が取り上げるとでも思ったのか失礼なやつだ。饅頭ごときで目くじらを立てたりしない。

 明日、コウ組長はまたやってくる。その時の饅頭は誰にもやらない。俺一人で食ってやる。

 虐殺と抗争の嵐が吹き荒れる中、一つ確かな事はこの町の饅頭屋が儲かっている事だ。



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