金貸し屋
ついさっき目を閉じたと思ったが、目を開けるともう明るくなっていた。朝がきた。今日は昼頃狢BANKに行くのだから、少しだけでも小綺麗にしておいた方がいいよな。
俺は近くの小川で水浴びと洗濯をするついでに、食べる物を探すことことにした。魚とまではいかないとしても、何か口にできる物がほしい。
洗い終えた服を木の枝に干した。ふりチンになった俺は、そのまま川の中に入り、水中の岩の陰などを探索した。魚は泳いでいる。でも簡単には捕まえられそうな魚はいない。それで貝類を捕る事にした。
それを数個拾って鍋にいれて干し野菜と一緒に煮てみた。最後は塩で味を調える。
美味い。心が幸せを感じている。腹ペコだとこんな食事でも幸せを感じることができる。
少し、心に余裕ができた俺は、ふりチンのまま川岸で食事をとる。
川の流れを眺めていると、ふと川に関する物語を思い出した。ゴブリン村で聞いた話だ。
遠い国では昔、お婆さんが小川で洗濯をしていると大きな桃が流れて来たそうな。その桃を割ると中なら元気な男の子が出てきた。その子は成長してサル、犬、キジと供に海を渡り、鬼を退治したそうな・・・。とても物騒な話だ。
これは鬼族に対する教訓だな。警告だ。川を流れて来る桃は、強力な戦闘ユニットになる。決して人間の婆に渡してはならない。
それとも川で洗濯すれば食い物が流れてくるかもしれないから、いつも衣類は洗濯し綺麗にしましょうと言う衛生管理的な話かもしれない。
しかし、先ほど洗濯したが何も流れてこない。いつまで待っても食い物が流れてくる様子はない。
所詮おとぎ話だ。
食事に使用した鍋を川辺の砂砂利を使って洗い流していると、目の前に桃が数個流れてきた。
まさか本当にと思いながらも、慌てて桃を回収した。5個の良く熟れた桃だった。
この幸運に鼻歌を歌いながら、乾いた衣服を身に着け荷物をまとめていると、目の前に一人の女性がやって来た。背には大きな籠を背負っている。中には野菜が入っているようだ。俺が拾った桃を見て何か言いたそうだ。
直ぐに分かった。この桃はこの人の物だ。野菜を洗っている時にでも川に落としたのだろう。
「これは貴方の桃ですね。どうぞ受け取って下さい」
俺の魔物語は通じないだろうが、拾った全ての桃を彼女に渡した。以前の俺なら絶対に拾った桃を返しなどしなかっただろう。今は就職が決まり、今日の昼から食事や、寝泊りの心配はしなくていい。衣食足りて礼節を知るとはこの事だ。
でも良いのかな?おとぎ話によると、この桃から桃太郎が生まれ、俺たち鬼を退治するかもしれない。
アホな事を考えていると、彼女は笑顔になって嬉しそうに一つの桃を俺につきだした。
「ありがとう。大変助かりました。良ければ一つ差し上げます」
やはり、人語で語りかけてきた。人語は解らないが、態度で言っている事は十分に理解できる。
「ありがとう。では遠慮なく頂きます」
俺が桃を受け取ると、彼女は何度か手を振りながらこの場を去って行った。
あの物語は本当だった。これからも川で洗濯しようと思った。もらった桃を一齧りすると口の中に甘く良い香りが広がった。とても美味しい。
全部食べたが、桃太郎は入っていなかった。入っていたら人食い鬼になってしまう。残った種はどうしょう。植えたら桃太郎が生えてくるのかな。
また、アホな事を考えていると、ちょうど昼に近かったので貉バンクに行く事にした。
貉BANKに着いた俺はバンを呼んでもらった。
「ああ来たかリン太、まずは寝起きする部屋へ案内してやる。ついて来い」
俺はバンの後をついて行った。店の最上階4階が従業員の居住区になっていた。大部屋が2部屋、中部屋と個室がそれぞれ1部屋だった。全て同じ広さなのだが住んでいる人数が違っていた。大部屋は9人、中部屋は2人、個室は当然1人である。
俺は大部屋につれていかれ3段ベットの一番下のベッドをあてがわれた。
部屋には、3段ベットが3台、共用のハンガーが2台、個人用の蜂の巣のような棚が9個壁に設置されていた。残りのスペースは9人が横に並んで着替えができるギリギリの広さである。
荷物を棚に置いて、ハンガーに掛けてあった俺に用意された従業員用の服に着替えた。
「サイズはあっているな。古着だが丁寧に使えよ。この服を着ている者は社員食堂の飯がタダになる。汚いと食堂から追い出される。」
「素晴らし服ですね。」
町を行く人達と比べ、少しダサイと思うが言わないでおく。沈黙は金なり。
「そうか、それは良かった。だがタダで食わしてくれると思ったのなら間違いだと直ぐに気付くだろう。」
「脅かさないで下さい。僕、頑張ります。」
「では早速だが頑張ってもらおう。リン太、今からお前の仕事は清掃だ。この店の全ての場所を清潔に保つことがお前の仕事だ。清掃係のリーダーを紹介してやるからついて来い。」
「はい!」
やったー。こんなに綺麗な店、もう何処も掃除するところなんかないじゃないか。楽勝だ。ゴブリン村の巣穴と比べれば、何でも綺麗に見える。
バンと俺は階段を下り三階フロアの事務所に入る。このフロアもピカピカだ。
「シズさん、昨日言っていたゴブリン村から来たリン太をつれて来たよ。しっかり仕込んでやってくれ」
「分かったよ。リン太、おまえ見どころがあるんだって、私がコッキー使ってやるから頑張りな」
「よろしくお願いします」
少し不安になってきた。シズさんは犬の半獣である。年齢はおばさんと呼んでも怒らないぐらいだと思う。そして何よりも目が鋭い。眼鏡の奥で光る眼力が怖い。
そしてエロい。犬のおばさんなのに色っぽい。タイトなスカートが形の良い尻を見せつけている。
「では、ここの生活と清掃作業について説明するから良く聞きな。質問はその都度でいいから何でも聞いていいぞ」
この店の基本的な清掃は大部屋の従業員達が実施する。朝6時に起きると同時に始まり、20分ぐらいでやってしまう。シズさんはその監督者であること。朝の清掃以外の清掃作業はシズさんの整備計画によるメンテナンス的な作業が行われる他、各部署からの要望にも対応している。これらの作業はアウトソーシングであったり、各部署から作業員を徴収する事により実施している。
そして俺はシズさんの手足となり働くこのになった。怖いけどエロいので嬉しい。
「朝の清掃作業については部屋の者に聞いてもらうとして、今から早速実施する事はこの建物の設備と物の点検だ」
シズさんは机に図面を広げ説明を続ける。
「この図面は今お前がいる三階フロアの図だ。この部屋には机と椅子の並びが3条あるだろう。向こうから融資鑑定部、総務部、人事教育部と並んでいる。壁を隔てて役員室がある。何の事かさっぱりだろうが直ぐに場所と名前は覚えてもらうぞ」
そして、1階の営業部、2階の食堂、会議室等、その場所と役割を簡単に説明された。
図面を手に取るとシズさんはついて来いと言う。すでに俺の頭の中はいっぱい、いっぱいであった。
ふらふらしながらシズさんの後を付いて行く。シズさんは図面に何かを書きながらどんどん進んで行く。字が読めない俺はシズさんが何を書いているが解らない。多分設備や物品の状態を記入しているのだろうと思う。俺はその場で働いている人たちをちらちらと見ながらシズさんの後を付いて行く。
大体半分は女性が働いている。それもみんな綺麗な女性である。やっぱりここに来て正解だ。想像していた強面のお兄さんはいないらしい。取り立てはアウトソーシングかな?




