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海鮮丼の試食会

 ロランがラーベにむけて出発してから1週間になる頃、事務所の前に荷馬車が止まる。ロランが帰ってきた。

「社長、ただいま戻りました。ありがとうございました」

 元気溌剌だな、良い物をたらふく食ってきなに違いにない。海鮮丼だろう。羨ましい。

「お帰り。奥さんたちは元気だったかい」

「はい、お陰様でみんな元気です。腹の子も順調です。嫁たちはとても喜んで社長に感謝しています。」

「それは良かった。仕事の方はどうだった」

「はい、それも問題ありません。嫁たちが市場で働いていたので買い付けも問題なくできます。これがラーベの海産物一覧表です。季節によって水揚量と値段は大きく変化しますが、この表から大きく外れる事はないそうです」

「これは市場の人から貰ったのか。随分詳しく書いてあるな」

「これは嫁が作った物です。市場仕事に必要だったから今までメモしていたものがあり、それを表にしました」

「これは商売にとても役立つ、ロランお前も奥さんも凄いな」

 ロランの顔が輝く。

「お役に立てた様で嬉しいです」

 俺は窓越しから荷馬車に目をやると荷台に山積みになっているトロ箱に気が付いた。

「ロラン、その箱はもしかして、あれか」

 さっきまで輝いていたロランの顔は悪戯な顔になる。

「そうです。海鮮丼の材料、鮮魚です。領主様と社長たちにと思いまして仕入れてきました」

でも凄い量だな。これはPRに使えそうだ。

「領主様以外にゴーラにいる主要な店主たちを呼んで海鮮丼パーティをしよう。海鮮は鮮度が命だ、今晩開催する。俺はすぐに登城してゴーラ様の許可をもらう。場所は改装が終わったばかりのここのレストランだ」

「社長、そんな急にしても客は集まるでしょうか」

「店主がだめなら代理でもいいと伝えろ。ゴーラ様も入らっしゃると言えば無理をしても来るだろう」

「では、早速、店舗廻に行ってきます」

カナコが事務所を飛び出して行った。

「あとは適当に手分けしてやってくれ」


 俺は登城した。

「ゴーラ様、そう言う訳でお願いします」

「リン太は横暴だな。従業員の苦労が忍ばれる。私にも今晩の予定がある」

 もったいぶっているな。

「そうですね。当然ゴーラ様にはご予定が有りますね。申し訳ございませんでした。ラーベで食べた海鮮丼があまりにも美味しかったので取り乱しました。今回の海鮮丼は身内だけで頂きます」

「何を言っている。私の予定は変更する。当然だろう。ゴーラ&リンのオーナーとしての責務でもあるからな」

 本当に面倒くさい領主様だ。絶対に海鮮丼が食べたいだけだ。

「ありがとうございます。では本日午後8時に御越し下さい。できれば開催の挨拶も頂ければ幸いです」

「分った、引き受けよう。会社のPRだな」


 俺は会社に戻った。

 準備具合を見ると会場設定はほぼ完了している。招待客への連絡も終わっている。ウエルカムドリンクも用意できている。酒類も続々と運び込まれている。こんなに早くできるものなのか。不自然だ。

 もしかして俺、誰かに考えを読まれている。ロランが大量の鮮魚を仕入れてくるのも計画的だったかも知れない。俺の考えそうな事を予想して先に準備する。誰の計画だ。

 奴しかいない・・・ヒロミだ。

 あいつが計画したのだ。あいつなら可能だ。俺の考えを読み、副社長たちを丸め込み、男どもをこき使う。

 でも何故、目的は?そうか、仲間に入れてほしいのだな。一度断ったから言いづらくて、こんな真似をして俺の機嫌をとろうとしているのだろう。

 もしかしたら、こいつも海鮮丼が食べたいだけかもしれない。

「ニナ」

「はい」

「ヒロミは今何している」

ギク!

 当たりだ。

「ヒロミは多分調理場に居ると思う。どうして気付いたの」

「準備が早い」

「それだけでヒロミに行きついたの」

「ヒロミが俺の考える事が分るように、俺もヒロミの考えが読める」

「やっぱり仲のいい兄妹だから分るのね」

 そうなのかな?俺はあいつのことを危険分子として警戒しているから観察にも力が入る。あいつも俺を利用してやろうと常日頃から観察しているのに違いない。

「ニナ悪いけど、ヒロミを呼んできてくれないか。俺が行くと誤解して逃げるかもしれないから」

「うん、いいよ」

 ニナはトコトコと小走りでヒロミを呼びに行った。


「ヒロミ、リン太が呼んでいるよ」

「げっ、もうばれた。それで兄貴どんな顔していた。怒ってなかった?」

「全然怒ってないよ。ああやっぱりと言うような顔をしていたよ」

「そう。なら一番いいタイミングでばれたみたい。直ぐに行く」


 ヒロミがやって来た。悪戯がばれた子供のような顔をしている。

「兄さん、気がつくのが早いよ」

「それでヒロミはどうしてこんな真似をした。仲間に入りたきゃいつでも入れるのに」

「キナ臭い時、一度断っていて、状況が良くなってから入りますは、流石に周りの目が気になると言うか、入社してからの立場が悪くなるとか、あるじゃない」

「それで俺の無茶ぶりを利用して従業員の心を掴む作戦を立てたのか」

「流石、兄貴、全てお見通しだ」

 全てお見通しは、お前の方だろ。

「するとヒロミが欲しいポジションは企画とかPR辺りだな。いいよ、任せる。いつから正式に内の社員になるのだ?」

「実はバン営業部長には話しているの。いつでもいいって」

「分った。明日にでもお詫びを兼ねて挨拶してくるよ。日付は来週月曜日で話してくる」

「ありがとう兄貴。じゃ私一度貉BANKに帰ってバンに報告してくるね」

「ついでにバンに伝えてくれ。内の会社の当座口座を貉BANKに作るからよろしくお願いしますと。それから少し寄り道して今の馬車と同じ物を2台注文して来てくれ」

「分かった。・・社員になると決まった途端、こき使われる」

ブツブツ言いながらもヒロミは出て行った。


 夕日が西に沈むころ、続々と馬車が門を潜ってくる。

 領主様の御威光は凄いな。それとも海鮮丼の威力かな?

 俺と副社長たちの4人は、会場の入り口に立ってお客たちのお迎えをしている。

「カナコ、何人ぐらい来る予定だ。大分入ったぞ、50人くらいか」

「20社に声を掛けたから、もう終わりかなと思う」

「そうだな、もうぼちぼち、領主様が到着されるころだ。俺は玄関まで迎えに行く。お前たちは中で客の相手をしていてくれ」


 定刻8時になった。

「ゴーラ様、御入場です。拍手でお迎えください」

 盛大な拍手の中、ゴーラ様は中央のテーブルまで来ると片手を持ち上げる。一層大きな拍手が上がり直ぐに静かになる。

「まずは、突然の呼び出しに集まってくれたことに礼を言う。今日はラーベから届いた鮮魚をふんだんに使った海鮮丼の試食会だ。期待していいぞ。存分に堪能してくれ。では乾杯」

「「乾杯」」

 あれゴーラ様、会社のPRは無かったけど。やはり海鮮丼食いたいだけだったんだ。

 直ぐに海鮮丼が続々と運ばれてくる。客たちは直ぐに食らいつく。

「「うめ~」」

「ラーベで食った海鮮丼だ」

 客たち全員が舌鼓も打っている中、サヌキ屋の女社長が人をかき分けて俺の所に来る。

「リン太社長、ゴーラEXPRESSの開業おめでとうございます」

「サヌキ屋さんは耳が早いね。どうです、この海鮮丼、いい魚でしょ」

「とても新鮮ですね。毎日欲しいくらいです。でも毎日は無理でしょ」

「そうですね。今のところ毎日は無理です。月、水、金の週3回がいいところです」

「それで何時に受け取れるのですか」

「天候が荒れなければ、大体午前10時から11時ぐらいには届けられると思いますよ」

 サヌキ屋と海鮮丼を食べながら商談していると、ワイングラスではなく、丼を持ったままの人が集まってくる。

「ゴーラ&リンさん、俺の所にも卸してくれないか」「社長、俺の所も頼む」

「分っている。注文は明日から受け付けるので会社に来てくれ」

 こうなると思っていた。でも、他の業者は今まで何故鮮魚の輸送をやらなかったのだろう。



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