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ロランの罪と罰

 ニナと二人で馬車の旅、もちろん御者は俺、隣にニナ、夫婦になって初めて二人きり、すんなり行けば一泊二日の旅程だ。

 夫婦なのに、まだ手も繋いだ事がない。一度だけ腕を掴まれたことはあるけど、それっきり何もない。

何としても、この旅行でキスまでは行きたい。

 ゴブリンの神様、俺に勇気を下さい。

 馬車は草原の中、真っ直ぐな道をゆっくりと進んで行く。俺の顔は赤みを帯びて、ピンク色になっていることだろう。隣を見るとニナもほんのりと赤くなっている。気持ちは俺と同じだ。

「ニナ」

 俺は手綱を片手で持ち、もう片方の手でニナの手を握る。

「ダメ」

 ニナは俺が掴んだ左手をとっさに外そうとする。俺は思わず右手に力が入り手綱を右に引いてしまった。

 ガタガタ

 馬車は道から大きく外れる。俺は慌てて馬車を止める。

「ごめん。大丈夫だった?」

「大丈夫。私こそごめん」

「「・・・」」

 俺は今だと思った。

 ニナの体を引き寄せ、彼女の唇に俺の唇を重ねる。

 柔らかく、甘い香りがした。

 ・・・・


 少しだけ、鼻息が荒いと感じた。

 目を開けると馬の顔があった。 ・・・ ・・・ ・・・ 何だこれは?

 先ほどのキスは夢か、その上馬とキス?

 俺は御者台から落ちて気絶していたのだ。

 状況を理解した俺は、慌ててニナを探すと、すぐ隣で倒れていた。

「ニナ」

「うーん」

「ニナ、大丈夫か」

 俺は彼女の体を抱き起し様子を見る。

「うん、大丈夫、びっくりした。リン太は大丈夫、怪我はない?」

「良かった、俺は大丈夫だ。ごめん。君を危険なめにあわせた」

 本当に良かった。ニナの無事を確認して緊張が解けた。

 街道の並木にとまるカラスはこちらを見ている。すぐ隣の馬も俺たちの様子を見ている。

 ゴーラ様が覗いている。そう思った瞬間、凄く恥ずかしくなった。

 俺が慌てて姿勢を正すと、馬もカラスも目をそらした。

 馬車を道に戻し、進みだす。もう一度ニナの手を握る。今度は拒否されなかった。

 俺の気持ちは少しだけ、落ち着いた。


「ニナ、お母さんと会ったらどうするの」

「お母さんに会ってみないと分からない。幸せに暮らしているのならいいけど、そうでなければ連れて帰りたい。でもアパートは引き払っているから」

「その場合は俺たちと一緒に住めばいいじゃないか。もしかしたら、もしかしたらだよ。俺たちに子供が生まれたら面倒を見てもらいたい。俺たち共働きだから。そもそも社宅に従業員の家族が住むのは当たり前」

「うん。ありがとう」


 馬車はナーベ市に到着した。

 ゴーラ様から教えていただいた住所は、港から少し丘に上がった所だ。

 ゴトゴトと丘を登って行くと、白い綺麗な家が見えてきた。

 物干し竿にはシーツがさわやかな風を受けてはためいている。すぐ傍に一人の女性が洗濯物を取り込んでいるのが見える。

「あっ、お母さんだ。お母さーん」

 ニナは御者台に立って手を振る。

 ニナの声に気が付いた女性は手から洗濯物を落としたが、そのままこちらに駆け寄ってくる。


「ニナ、突然どうしたの」

「お母さんこそ突然いなくなって、私、散々探し回ったのよ。心配したのよ」

「うそ、ここに来ることはロラン様が執事から伝えていくと言っていたのに」

「やっぱり、ロランの奴か」

 口を挟む気はなかったが、つい漏れてしまった。

「ニナ、この方は」

 ニナは少し赤くなって

「私の旦那さん」

「えー、あんた結婚したの?本当に」

「うん。昨日ゴーラ様にも祝福してもらった」

「はじめまして、リン太と言います。お許しも得ずにニナと結婚しました。お母さん、よろしくお願いします」

「はじめまして、ニナの母アナです。リン太さんニナ結婚おめでとう」

 まったりとした空気に成り始めたが、ニナがはたと気が付く。

「私たちの事は後でいいのよ。今はお母さんの事。詳しく話してよ」

「そうね。中で話しましょう」

 家の中に案内された俺たちは居間に通された。家の中は誰もいないようだ。

「ロランは留守なの」

「ロラン様は漁に出ています。なぜか最近になって働き出したのよ」

「お母さん、ロランに様はいらないよ。奴のせいで大変な思いをさせられたのだから。お母さんも騙されていたのよ」

「そうね、ここのところ、お給金も貰っていないのよ。一緒に来た3人のメイドも港で働かされているし」

「あいつね、次期当主なのに全ての責任を放り投げて逃げたのよ。それでブレーメン伯爵家はお取り潰し。お屋敷で働いていた人達は全員解雇、私は行き倒れになっていたところをリン太に助けてもらったの」

「あらそれが縁で結婚したの。悪い事ばかりじゃないじゃない」

「それは、そうだけど。ロランの奴は許さない。一歩間違えれば死ぬところだったのよ」

「そうね。それは許せないね」

「ねえリン太、ゴーラ様からロランの扱いについて何か聞いている」

「ああロランは元ブレーメン伯爵家の金とメイドを盗んで逃げた泥棒だから逮捕して棒叩きの刑にするそうだ。抵抗したらその場で殺していいと言われている」

「ロランはゴーラ様の血族でしょ。本当に殺していいの」

「泥棒の罪より、伯爵の職務を放棄して逃げた罪の方が重いのだろう。本来なら確実に死刑だな」

 周りの雰囲気が少し重くなったその時、ドアが開く。

「ただいま」

 小さな声で男が入ってきた。どうやら先ほどの話を聞いていたらしい。

「お前がロランか、話を聞いていただろ。大人しく逮捕されるか、それともここで死ぬか、選べ」

「お前に俺が殺せるとは思わないが、逮捕されよう。城での棒叩きの刑はほぼ死刑と同じだが、色々沢山の人に迷惑を掛けたようだから、せめてもの償いに受けよう」

 こうもあっさりと事が済んでしまったら、逆に落ち着かないな。

「金はどうした。この家を買ったら無くなったか。それに他のメイドはどうした」

「金はその通りだ。もう無い。メイドの3人は港の市場で働いている。言っとくが彼女たちの給金を搾取などしていないぞ」

「当たり前だ。偉そうに言うな。アナさんの給金を払っていないだろ」

「すまない」

 バカで、へなちょこで、男前なのは気に入らないが、死ぬ覚悟はできる奴なのか。ゼノンたちとは少し違うタイプだが使えるような気がする。刑の執行猶予をゴーラ様にお願いしてみようか。でもこいつは刑の執行を受けると言いそうだ。死なれては使えない。それなら借金で縛るか。殺すのは少し惜しい気がする。

「詳しい話は城に帰ってからだな。明日の朝、城にむけて出発しよう。ロラン、拘束しないが逃げるなよ。それから刑執行後、万が一生きていても暫くは帰ってこれないからメイド3人にはこれからの事、話しておけ」

「分かった。恩に着る」

 これまでの俺とロランのやり取りを見ていたアナは感心したようにニナに小声で話す。

「あんたの旦那、カッコいいね。いいのを捕まえたね」

「えへへ」

ニナは、にはにかむ。

 今晩はここに泊まる事にした。あれから暫くして市場から帰ってきたメイドたちはロランから遅くまで説明を受けていた。ロランの謝る声が聞こえていた。


 朝早くから俺たちはゴーラ市に向けて出発した。御者は俺、俺の隣はニナに変わってロランが座っている。これから死刑になる者に掛ける言葉はない。

と思って黙って馬車を進める。するとロランの方から話しかけてきた。

「リン太さんはゴーラ市では何をしている。領主様に使われているようだけど」

「俺は、お前の住んでいたブレーメン伯爵屋敷跡の再開発事業をやらされている。面倒な事だ。全てお前のせいだ」

「すまない。色々迷惑を掛けているようだ」

「本当にすまないと思っているのなら、刑罰の後、生き残っていたら、この仕事手伝ってくれるか」

「勿論すまないと思っている。生き残ったら好きなように使ってくれ」

「そうか、でも期待はできないな。お前じゃ棒叩きで100%死ぬ。使えねーな」

「だろうな。あはは」


 馬車は夕方に城に着いた。

 ロランは元伯爵家嫡男であり、ゴーラ様の血族だから直接ゴーラ様が取り調べることになった。

「ロラン久しいな。元気であったか」

「はい、元気です。ゴーラ様もご健勝のご様子、お喜び申し上げます」

「さて、お前は次期当主でありがなら職務を放棄し金とメイド数名を持ち逃げした。死罪だ。だが今は貴族ではないから金とメイドの持ち逃げの罪で棒叩き10回だな。持ち逃げした金は返したのか」

「いいえ、私は文無しです」

「ならば働いて金を返してもらおう。棒叩きはその後だ」

「私はどこで働いてお金を返せばいいのですか」

「それなら、お前の知っているリン太の所だよ。あいつの所にはお前のような奴らが働いている。あいつは嫌がるだろうがお前を引き取らせる」

「承知しました」

「取り調べは終わった。こいつをリン太の所へ連れて行け」


 憲兵に連行され、ロランが俺の事務所に来た。

「リン太さん、ゴーラ様からここで働けと言われた。あなたが手を回してくれたのだろ。恩に着る。やはり死ぬのは怖かった」

「生きて出て来たか。約束通りこき使ってやる」

 俺は社員全員を呼んでロランを紹介した。

「これから一緒に働くロランだ。知っていると思うが彼は元ブレーメン伯爵の息子だ。今はただのロランだ。ゼノン、プラトンお前たちと同じだ。先輩として面倒を見てやれ」


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