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社宅運営

 (にぎ)やかな女の子たちの声で目が覚めた。

 そうだった。昨日みんなが引っ越して来たのだった。昨日の事をぼんやり思い出しながら、ベッドから起き上がろうと力を込めると、体中の筋肉から痛みが走る。寝ぼけてボーとしていた意識は、痛みにより覚醒した。

 筋肉痛を我慢しつつ、自室からリビングに移動し、台所で立つ彼女らに声を掛ける。

「傷たた、おはよう、みんが元気だね」

「「おはよう、リン太」」

一斉に振り向く彼女たちは一様にTシャツ、ショートパンツだ。白い太ももが眩しい。眼福、眼福、年寄りのような単語が脳内を流れる。また意識があやふやになりそう。

 天使たちが楽しそうに飛び交う。そんな幻想を見ているようだ。

 しかし、そんな至福の時は長続きしない。一人の羽の黒い天使が近寄ってくる。よく見るとその羽は蝙蝠の羽に似ている。

 あっ、この天使知っている奴だ。ヒロミとか言うたちの悪い・・・俺の妹だ。意識が現実の世界に引き戻された瞬間、ヒロミの指が俺の脇腹をグリグリ。

「ぐはっ!やめろヒロミ、傷たた、やめてくれ」

「ご飯できたよ」

「普通に呼んでくれ」

 ヒロミは可愛いい。だから今回も許してしまう。口惜しい。

「兄貴が、鼻の下を伸ばして、でれーとしているから、昨晩のようにみんなから嫌われないようフォローして上げたのに、少しは妹に感謝してよね」

 嫌われてないし、警戒されただけだし、その警戒もヒロミのせいだと思うのだけど。

 テーブルの上には昨晩と同様、あふれる程の料理が並んでいる。子豚の丸焼きと思われる物までテーブルの中央に鎮座している。今は朝だよね。これが朝食なのか。

 社宅として使い始めた屋敷だが、シェアハウスの寮とも言える。寮であるなら賄いつきであるべきだ。狢BANKの寮と比べ住人の数が少ないので賄いのおばさんを雇うことは出来ないが、食材は家主であり社長である俺が用意すると言った覚えがある。

 これが朝夕毎日続くのか。焼き肉大王の店長の気持ちが解った気がする。食材にかかる費用が恐ろしい。俺が想像していた朝食はパンとコーヒーにサラダ、たまにはベーコンがある日も、そう思っていた。

 しかし、現実は違っていた。見ての通りである。

 俺の「いただきます」の合図?とともに食事が開始された。言葉にすれば可憐な少女たちはお喋りを愉しみながら和気あいあいと朝食を楽しんでいる。

 そうその言葉に間違いはない。または絵にすれば艶やかな朝食の一つのシーンだが。動画にすれば理解してくれると思う。テーブルの料理が一つ、また一つと、瞬きするうちに消えている。まるで怪奇現象。10分もしないうちにテーブルの料理は全て無くなった。

 中央に置かれていた子豚の丸焼きは、博物館に展示されている標本の様に、白い骨が残っているのみである。極めて食品ロスの少ない食事だ。

「あれ、リン太。料理足らなかった?」

 ミサコが少し心配そうに聞いてくる。

「大丈夫だ。美味しかったよ」

 お腹も心も一杯一杯だ

「リン太は今日、何か予定があるの?」

 カナコが聞いてくる。

「特にないよ」

「私たち生活に足らないものとかを買い物に行くのだけど、付き合ってくれない」

「いいよ。荷物持ちかい」

「流石、リン太察しがいい。昨日、使っていた荷馬車をまた借りて来てほしいの、あれなら5人全員乗れて荷物も運べるでしょ」

「俺は御者というわけだね。任せな、昨日で随分上達した。それに食料も買わないと心許ない」


 俺たちは商業地区まで歩いて行き、レンタカー屋さんで荷馬車を借りた。

 女の子たちはショッピングを楽しむため時間がかかる。俺は暫く時間を潰して、後から店を回って行く事にした。

 レンタカー屋にこの商売は儲かるのかいと聞くと。

「需要はあるが、馬車を盗まれるリスクがあるので大して儲からない」と言う。

 なら御者も付けて貸し出せばいいじゃないかと思ったが、御者の人件費が高くて採算が合わないらしい。

 買い物をする度に荷馬車を借りるのは費用が嵩むので、町を巡回している馬車は無いのかと聞くと、町の中は無いが、町と町を結ぶ定期の馬車ならあるらしい。領主様が薬の運搬に定期的に馬車を出しているので、その馬車についていく馬車がある。領主様の馬車を襲う盗賊はいないため、ついて行けば護衛は最小限で済むからだ。

「それは領主様の馬車の護衛をあてにしているのかい」

「それが領主様の馬車には護衛がいないようだ」

「それでは、いくら権威のある領主様の馬車でも襲ってくる盗賊はいるだろう」

「昔はいたらしいが、今はいない。何度か襲ってきた盗賊は全て領主様の馬車に連れていかれたそうだ。後ろからついて行った馬車の御者から聞いた話だと、領主様の馬車を取り囲んだ盗賊は、一瞬でその場に倒れ、下りてきた御者に馬車に運び込まれ、それっきりだそうだ」

 馬車の中に凄腕の吸血鬼がいたのだろう。そいつに盗賊たちは血流を止められ失神したに違いない。そして城の地下で臨床実験に使われているのだろう。

 この町の運送業者は領主様の御蔭で低コストの商売ができている。でも定期便以外の運送はどうしているのだろう。

 「運送業者は、そんな仕事は受けていない。荷主自身が、うちのようなレンタル会社から馬車を借りて、御者と護衛をその都度雇っている」

「その仕事はよく有るのかい」

「めったにないな。最近ではリン太社長のお屋敷とダイコク屋の別邸に住んでいた奴らの夜逃げに貸し出したな。あっ、これ内緒な」

「・・・」

 社宅運営、主に食材の経費のため、新しい収入元に運送業と思ったが、かなり厳しそうだ。

 しかし、急ぎの輸送が夜逃げしかないのは変だな。急ぎの輸送が高リスクなため、諦めているだけかもしれない。

 海の町ウズカからの鮮魚、牧場からの生肉、農耕地からの野菜等々、需要はありそうなのに。現状は生産者、例えば農家が野菜を作り、それを農家自身が町に運び、更に農家自身が露店で売っている。効率が悪い。分業すればコストを抑え、利益が増えると思う。知らんけど。


 今の状況では運送業は難しそうだから、小売業に進出しようか。生産者が物を持ってきて露店に並べて売っている。この非効率なやり方を変える。

 売り場は一つの大きなテントに集中させ、専属の売り子に売らせる。生産者は物を作り売り場まで運ぶまでが仕事、品代はその時受け取る。売値は今までの6割程度になるが売れ残りがないうえ、店番をしなくていいから生産に集中できる。

 生産者が小売りをすると商品の運搬は朝の1回きりになる。それは店番をしていたからだ。だから商品があるのは朝だけである。それ以外の時間だと商品が品薄になり、購買意欲が低下し客足が遠のく。これが定着して朝の開店時しか客は来ない。

 生産者が小売業をやらない事で、朝1回の出荷を午前に数回、午後に数回できることになる。店の棚にはいつ来ても商品が並ぶことになる。これが常態化すれば客はいつ来ても欲しい物を購入できるようになる。生産効率が上がり販売効率も上がる。更にお客の利便性も上がるため売上も向上すると思う。知らんけど。

 ここまで考えた俺は、荷馬車に乗って露店広間に行く。

 広間に近づくとヒロミたち一つのテーブルを囲んで果物を頬張っているのを見つけた。朝あれだけ食っているのに、また食べている。

「兄貴、こっちこっち」

 ヒロミが俺の馬車を見つけて両手を振っている。

 俺はヒロミたちのいる露店の前に馬車を止めた。すると奥から厳つい男が出てきて怒鳴り出した。露店の店主だろう。

「おい、そこに馬車を止めるな。客の邪魔になるだろう。裏に回せ」

「すみません。すぐに移動させます」

「リン太ドジだな。怒られてやんの」

 カナコ嬉しそうだ。怒鳴っていた露店の店主は顔を引き攣らせる。

「リン社長ですか。失礼しました。奥様たちからのご注文の品は全てご用意できています。馬車の移動と荷積みは私どもがいたしますので、こちらで果物でも召し上がってください」

 こいつらが食べてたのは、店の主人が進めた物だったのか。俺も食べたい。それはそうと「奥様たち」と言うのは何だ。カナコ、ミサコ、ニナみんな否定しないのか。それでいいのか。だが聞くのが怖い。肯定されたらどうしよう。

 そのことについて俺は気が付かなかった事にした。


「食材はこれで全部だな。次はどこへ行く」

「次は雑貨屋さん。その次は鍛冶屋さん」

「雑貨は解るけど、鍛冶屋は何で」

「こんな感じの馬車必要でしょう。これからも頻繁に使うと思うよ」

「そうだな。注文しとくか」


 御者台に座る俺の後ろは姦しい。でも悪い気はしない。買い物を終え、我が家に帰る、ただそれだけなのに楽しい。でも明日はカナコとミサコの初出勤、不安だ。ランスに副社長の事どう説明しよう。




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