土建屋黒豚組
仮事務所を立ち上げてから数日後、黒豚組の者たちがやって来た。
「黒豚組です。お世話になります。この度、旧伯爵家の跡地再開発についてお手伝いをさせて頂きます」
「やはり来たか、弊社は御社とは取引しない。帰ってくれ」
「そんなはずはありません。うちの組長と御社のランス様との間で話はできていると聞いています」
「そのランスが私だ。これは社長の指示だ。この後、来客の予定がある。早く帰れ」
訝しげに帰って行った黒豚組の者たちを見送った後、ランスは俺たちに話し出す。
「みなさん気を付けてください。黒豚組はいい仕事はするのですが、少々強引で乱暴なところがあると聞いています」
「あの組長からは、そんな感じがしたな。でも返って都合がいいかも知れない。黒豚はここらでは断トツだろ。少し力を削っておくいい機会だろ」
「社長、削りすぎないようお願いします。土木建築力の資源はこの町に必要です」
「・・・」
俺の心配よりそっち。
仕事を終えて帰り道、貴族街を抜けたところで1台の馬車が止まる。
「おい、そこのゴブリン、お前がリン太か」
3人のオークが俺を取り囲む。
「そうだ。お前たちは黒豚組の者だな」
「察しがいいな。馬車に乗れ、ここでやっちまってもいいんだぜ」
近くの木を見ると例のカラスがこちらを見ている。
「分った。組長の所に案内してくれるのかい」
馬車に乗せられ、連れてこられた場所は黒豚組の事務所だった。中に入り、通された部屋は神棚のある応接室のようだ。昔見た紙芝居、極道の妻たちのと同じだ。
奥のソファーには組長の黒蔵が座っており、ソファーの周りには屈強なオークたちが並んでいる。脅す気満々な様子だ。
俺は、組長が座る対面のソファーに腰を下ろす。
「リン太社長、ごねずに旧伯爵家の仕事我々に手伝わせてく下さいよ」
組長はふんぞり返ったまま言う。俺も同じ態度でかえす。ますます極道の妻たちと同じだ。少し楽しい。ミサコに見せてあげたい。
「ランスから聞いていないのか。あの仕事はお前たちにはやらせない」
「リン太社長、ゴブリンはうちの組にもいるが直ぐに死んでしまう。まあ変わりはいくらでもいる」
「それは仕事をやらせないと俺を殺すと言う意味か」
「さっきからそう言っているだろ」
「なら断る」
「なめるなよ。ぶっ殺す」
俺の後ろにいたオークが俺の襟首を掴む。が直ぐにその場に倒れた。
「何をした小僧」
組長の後ろにいたオークたちも俺に飛び掛かるが直ぐに倒れる。
「いったい何をした。いやどうやった」
組長は立ち上がりあとずさりする。
「正当防衛だよ。囲まれて逃げることもできない状態で殺されそうだったため、やむを得ず殺した。組長、お前は殺人教唆だから今は殺さない」
この罪の罰は何だったかな。後でランスに聞いてみよう
「お前ゴブリンではないな。どうやったかは分からないが生きて返さん」
まだやるのか。ランスからやりすぎるなと言われているのに困ったな。
そこに兵隊が雪崩れ込んできた。ゼノンたちの時と同じパターンだ。
兵隊の隊長らしき人から声を掛けられる。
「少し遅かったようですね。リン太さんお怪我はありませんか」
「私は大丈夫です。それに遅くありませんグッドタイミングです」
黒蔵組長は逮捕され、事務所は家宅捜査されることになった。
俺は次の日、領主様にお礼を言うため登城した。
「また危ないところを助けて頂きありがとうございました」
「黒豚組を皆殺しにされても困るからな。それはそうとリン太、魔法の腕を上げたな。あれはどうやったのだ」
「あれは離れた場所にあるローソクに火をつける感じです。ローソクに火をつける火力なのでピッでしょうか。今回5人でしたからピッピッピッピッピッです」
「なるほど最小限の火力で脳幹を焼いたのだな。しかし人は魔力の膜で覆われているから、簡単には燃やせないのだが」
「なるほど最初に感じたプッチとした感覚は魔力の膜の抵抗だったのですね」
「・・・まあいい。会社の方は順調か」
「はい、お陰様でボチボチやっています。ショッピングモールはやめて大学を作るつもりです」
「そうか全てお前に任せる。適当に楽しんでやれ。見ている方も楽しめる。下がっていいぞ」
「ではこれで失礼します」
俺は仮事務所に戻ってきた。ランスが珍しく午前から出社しており、俺を見るなり詰め寄って来た。
「社長、あれほどやり過ぎないようお願いしたのに」
「えっチンピラ5人片づけただけだ」
「彼らは黒豚組の幹部5人です。現場が回らなくなり、工事が滞ります」
思い出してもチンピラにしか思えない。あれが幹部ならだれでもいいんじゃない、と思う。知らんけど。
「それはすまなかった。一瞬の出来事だったから判断できなかった。次は気を付ける」
「次もあるのですか?こういう事が無いようお願いします」
周りを見るとゼノンとプラトンが遠巻きにこちらを見ている。顔色から察するに、自分たちの事を思い出して、あの時兵隊が来るのが少しでも遅かったら自分たちも黒豚組幹部のように殺されていたと確信しているのだろう。
「みんな今回の件で動揺しているのは解るが、気持ちを切り替えて仕事に取りかかろう」
俺が言った直後、ドアをノックする音が響く。
「黒豚組の若頭していますトン次郎言います。この度のお詫びに参りました」
お礼参りでなくお詫び?まあ俺が被害者である事は間違いないが被害が大きいのは黒豚組の方だと思う。幹部5人殺され組長は逮捕されている。俺が黒豚の若頭だったら仕返しに行くことはあってもお詫びになど絶対行かない。
「何の真似だ。まだ懲りていないようだな」
「違います。本当にお詫びに来ました。今私どもの事務所は家宅捜査が行われています。その捜査官に知り合いがいまして、その者からダイコク屋のようになりたくなければ早いうちに詫びに行けと言われました」
「ちっ、分ったその詫びは受け取ってやる。だが詰まらない噂を流すなよ」
「ありがとうございます。でもこの手の噂は自然に広まります。誤解しないでで下さい」
「ああ分かった、分ったからもう帰っていいぞ」
「ありがとうございます。お詫びの気持ちは後日形にしてお届けします。では失礼します」
また周りを見ると社員たち全員が目を丸くして俺を見ている。
「誤解があるようだから言っておくが、俺とダイコク屋の事件については少ししか関係ないからな。ダイコク屋が皆殺しになったのは俺とは関係ない」
「ダイコク屋は皆殺しになったのですか」
「それを社長がやったのですね」
「お前たち俺の話聞いているのか」
少しずつ、俺のイメージが悪くなって行く。だから社長なんか、やりたくなかった。全部ゴーラ様のせいだと思う。




