求人活動
掲示板に求人広告を貼っていると、学生たちがわらわらと集まってくる。その中にカナコとミサコもいる。
「リン太、何をしているの」
「求人広告を貼っている」
「それは分かるけど、何でリン太がそんな事をしているのかと聞いているの」
「ゴーラ様に頼まれて、会社を作ることになったから、従業員を募集している」
「ゴーラ様って領主様のことだよね。何がどうなっているの」
「分かった。これ貼ったら説明するから」
俺は教室に入り、カナコとミサコに昨日の事を話した。人に話すと最近の自分の事が、冷静に把握できた。ずいぶんいい加減な事を言ったせいで大変な事になっている。
「それで、ミサコ、カナコ手伝ってくれないか。今以上の給料は保障するから頼むよ」
「え~ 今までお世話になった会社に悪い気がする。リン太が社長でミサコはもしかして社長夫人になるの?何か差をつけられた感じで嫌だな」
「肩書きが欲しいなら好きなのをあげる。でもやる事は従業員と大差ないよ」
「本当?なら私は副社長がいい」
「良し決まりだな。ミサコはどうする?」
「私はリン太と結婚するなんて決めていない。変な事言わないでよ。私も副社長がいい」
「良しこちらも決まりだな。副社長が2人いてもいいだろう。2人とも今の会社退職したら、元ブレーメン伯爵の屋敷に来てくれ。仮の事務所がある」
仮の事務所には、昨日助けたニナと執行猶予中のゼノン、プラトンが事務所の開店準備をしている。
「ゼノンさんこの会社は何をする会社なの」
「実は俺たちも知らない。リン太さんが社長で領主様がオーナーである事しか聞いていない。そして我々が従業員であるらしい」
「ふーん、でも安心ですね。ゴーラ様がオーナーなら倒産する心配はないね」
「ニナはそうだろうけど、俺たちは違う。勤務成績が悪ければ社長に殺される」
「そんな、リン太社長は恐ろしい人なの?私はリン太社長に助けられたと聞いているのだけど」
「そうだな、リン太社長はゴブリンだ。そして倒れていた君を助けたのも事実だ。俺たちも助けられた。だから優しい人だと思う。でも決断が早く、容赦しない人でもある。リン太社長と君を殺すと言った俺たちの元同僚は、昨日殺された」
「・・・私はリン太社長に誠心誠意尽くします。たぶん」
「俺たちも同じ気持ちだよ。たぶん」
「「あはは」」
何かを諦めたような乾いた笑い声が、事務所に鳴り響いた後、和気あいあいと事務所開設準備は進められて行く。
寮に帰ってきた俺は、ハム太とヒロミに会社創設の事を伝え、一緒に働かないかと誘った。
「俺はやめておく。誘ってくれて嬉しいが、リン太の周りはきな臭い事が多くて少し怖い」
ネズミ族なだけに、危険に対して鼻が利くようだ。
「ヒロミはどうする」
「私もやめとく。ここに来て間もないし、ハム太さんの言っているとおり、きな臭いと思う」
「そうだな、少しからず社会構造の現状を変更しようとする事業だから、抵抗は当然あるよな。事業が軌道に乗ったらまた誘うから考えておいてくれ」
ハム太たちと話を終え、食堂から出て廊下を歩いていると、会議室のドアから明かりが漏れているのが見えた。まだ会社のお偉い人達は働いているようだ。週末なのに大変だななどと他人事のように考えていると、突然そのドアが開きバンが出てきた。
「あっ リン太、丁度良かった。今呼びに行こうとしていたところだ」
げっ!見つかってしまった。面倒な事に違いないが・・・仕方ない。
「私も今そちらに報告に行くところでした」
ドアから会議室に入ると全員の視線が俺に集中した。穏やかな視線は一つもない。俺は一番奥の頭取に一礼したのち報告したい事があると告げた。
「リン太君待っていたよ。今日一日で情勢が変化した様だ。報告したまえ」
何だ、領主様が会社を創設したことを知っているのか、耳が早いな。それで会議をしているのか。
「はい。ゴーラ様は旧伯爵屋敷跡の再開発、薬の生産販売の認可制等の業務について会社を作り実施させる事を決めました。その初代社長に私が任命されるようです。この事については財務で細かいところまで検討済みです。私を速やかに城へ出向させる必要があります」
「やはり本当だったか。でもリン太君まだ貉BANKに席を残してくれるのかい。社長になるのだからその必要はないと思うが」
「ゴーラ様がその様な考えですので、これは領主様にも貉BANKにも双方に利益があるからだと思います。どの事業から進めていくのか、この情報だけでも貉BANKには利益がでると思います。また領主様側には事業別に安心して手伝ってもらえる信用のおける業者を貉BANKの紹介により知ることができます。公務員は仕事をスムーズに進めることを喜びます。外に会社を作ったと言っても所詮その資本は公金ですから」
「すると我々はリン太君から事業計画を頂き、それに沿った信用のある業者を紹介し、そこに融資をすればいいのだね」
「その通りです。まだ細部事業計画はできていないので、出来次第ご連絡します。最初は間違いなく旧伯爵屋敷跡の開発なので土木建設関係の業者を紹介してください。でないと入札になるので、銀行としての旨味は他行に持っていかれます。」
「よし分かった。月曜日の昼には土建屋の社長をつれていく。営業部長、聞いたとおりだ、直ぐにアポを取れ。会議は終わりだ。飲みに行こう」
終わりの見えなかった会議は一瞬にして終了した。さっきまで険しい顔をした役員たちは俺を救世主を見るような視線を送る。
喋った事は財務の資料にあったものだ。俺の考えなんて一つもないが俺は社長として一仕事終えた気持ちになった。これでいいよね。知らんけど。
頭取から飲みに誘われた。もちろん付いて行った。頭取がいやらしい顔をしていたからだ。期待どおり高級クラブだった。綺麗なねえちゃんがいっぱいいた。




