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不良物件

 バンのスパルタ教育に耐える日々が過ぎること数日、狢BANKの前に領主の馬車が止まる。

 また俺はその馬車に放り込まれ、お城へ連れて行かれた。

 お屋敷の玄関には、前来た時と同様イヌ族の執事が立っていた。案内された場所は前回の応接室とは違い領主の執務室だった。

 そこには大きな机に向かって少女が書類を読んでいる。俺が目の前まで歩み寄ると、彼女は直ぐに立ち上がる。

「よく来た。実はお前に頼みたいことがあって呼んだ。まあ座れ」

 執務室に備えられた豪華なソファーに腰を沈める。

「先週末、お前達は焼き肉大王と言うレストランで随分楽しんだようだな」

 良く調べている。まるでストーカーだ。何が目的なんだ。誘って欲しいのかな。

「はい。先日は仲間達と楽しく食べました。焼き肉大王の肉は安物で何の肉か解りませんが、焼き方さえ間違えなければとても美味しいのですよ。領主様も次回ご一緒しませんか」

「誘ってくれて嬉しいのだが、私が行くと店の者や周りの者に迷惑がかかる。でも折角のお前の誘いを無下にもしたくない」

 面倒くさいな。どっちなんだ。

「お前のとこの頭取から聞いたのだが、リン太、城の近くに一軒の家を買うらしいな。頭取を脅したのだろ。まあそんな事はどうでも良いが、私は城の近くに一軒持っているのだが、それを売ってやろうか」

 焼き肉の話は終わったのか。

「もしかして、不良物件をここで処分しようとしていませんか?何かの罪で一家惨殺、恨み辛み、呪い付の事故物件を私に押し付けるつもりでは」

「よく解ったな。恨み辛みは知らないが、呪いは付いていないぞ、私自身が見て確認したから間違いない。それにお前はそんな事気にしないだろ。どうせ頭取が金を出すのだろ」

「うちの頭取はあれで金融のプロですよ。そのような物件に手を出すことは無いです」

「そうだな、何か良い知恵はないかな、まあお前は悪い知恵の方か、何でもいいからあれをうまく処分したい。一等地の屋敷なのだが、あれがあるから周りの地価まで下がる」

「特に悪い知恵は必要ないと思います。個人に売却するのではなく、公共の施設として活用してはどうでしょう。例えば迎賓館、学校、病院、公園等々、いずれも大なり小なり改修が必要ですね。場所が高級住宅街であれば、最初は公園として開放し、時間を掛けながら小さな花屋、カフェ、サロン等を開店させていけばどうでしょう」

「ふむふむ、なるほど。時間がかかるが既存の建物を利用しつつ土地の再開発をすればいいのだな。よし分かったもう帰っていいぞ」

 ご馳走はでないのか?まさか釣った魚にエサはいらないつもりか。出向だから報酬は頭取からもらえと言う事か。

「・・・・・では失礼します」

 俺は来た時と同様、馬車に放り込まれて貉BANKに送られた。

 貉BANKには頭取が待っていた。馬車から降りた俺はそのまま頭取室に連れていかれた。

「リン太君、領主様は何の御用だったのかな。もしかして城外の物件勧められなかったか。領主様の所に君の出向の件を報告しに行った際、出向祝に一軒プレゼントすると言ったらとんでもない物件を押し付けてきたのだよ」

「頭取の仰る通りでした。でもお断りしておきました。代りにそこは再開発して高級住宅である周辺の住民たちが喜んで利用できる公園、花屋、カフェ、サロン等に作り替えようと提案してきました。領主様割りと乗り気でしたよ。我社が主導してはいかがでしょう」

 心配顔だった頭取の顔は見る見るうちに明るくなり吠える。

「うおー本当か、今度のボーナスは期待していてくれ。今日はゆっくり休むといい」

 頭取は慌てて部屋から出て行った。一人頭取室に残された俺は机まで歩き頭取の椅子に腰かけてみた。大して座り心地が良い物でもないなと思っていたらノックの音と同時にドアが開けられ秘書が入ってきた。直ぐ俺に気付いた秘書は小さく笑う。

「小さな頭取様ケーキは如何ですか」

 俺はソファーに移動して座る。

「頂きます。貴方も一緒に如何ですか。大きい頭取は当分帰って来ませんよ」

「では御相伴にあずかります。リン太君最近凄い活躍ですね」

「僕は大した事はしていないのです。下手なポスターを描いたり、領主様に悪知恵を出せと言われたので適当な事を言ったり、今日も不良物件を押し付けられそうになったので適当な事を言って逃げて来ただけです」

「そうなの?」

「そうです。それを周りの偉い人や金を持った人たちが、自分たちの利益になると騒いでいるだけだと思います。実際僕の妹以外誰も得をしていません」

「リン太君自身は相当得をしているよね」

「全くです。貴方のような素敵な人と美味しいケーキを食べれるなんて、思ってもみない幸運です。これからもがんばろうと思います」

「あら嬉しい、なるほどね。君の事少し解った気がする」

「そろそろお暇します。貴方の入れてくれたお茶、前回も思ったけどとても美味しいです。御馳走様でした」

 頭取から今日は休んでいいと言われたが別に疲れてもいないし、独り部屋にいてもつまらない。かと言って営業部に戻っても、今は再開発事業に参入してどれだけ利益を上げようかと議論の真っ最中だろうし、下手に近寄って面倒にまき来れたくない。少しの間考えたが、今話題のお屋敷を見物することにした。

 貉BANKの通用口から出てふと頭上を見上げると、ここ最近よく見るカラスが軒から俺を見下ろしている。少し気になる。歩いて町の中央方向にしばらく行くと高級住宅街に入る。貴族や金持ちの屋敷がある区画だ。

 こんな所を俺のようなゴブリンが歩いていて大丈夫なのかと思うだろうが、俺は貉BANKの制服を着ているので誰からも怪しまれない。ダサい制服だが身分証明になるのだ。

 そういう事で俺は堂々と奥へと足を運ぶ。見えてきたのはひと際大きい門構えのお屋敷である。領主様の言っていた屋敷はここに間違いない。門には衛兵が一人立っている。中に入るのは難しいようだ。

 俺は屋敷の塀に沿って歩いてみることにした。

 一つ目の角を曲がって、しばらく歩いたが二つ目の角が見えない。どれだけ広いのだこの屋敷は、と思っていると少し塀が窪んだ所に少女が座り込んでいる。近くまで行くと水色のワンピースを着た犬族の少女だと分かる。

 厄介事に関わりたくない俺は少し離れて通り過ぎる。通り過ぎた直後、ゴットと後ろから音が聞こえる。振り返ると想像した通り、少女が倒れていた。周りを見渡したが誰もいない。仕方なく少女を背負い、もと来た道を戻る。

 これ絶対面倒くさい事になる。俺は心の中でぼやく。なんとか門のところまで辿り着き、衛兵に事情を話して助けを求めた。

 衛兵は交代が来るまで持ち場を離れられないから助けてあげられないと言う。ならば、仲間を呼べばいいじゃないかと思ったが言わないでおく。彼も厄介事には関わりたくないのだ。俺と同じだ。

 途方に暮れそうになるが、関わってしまっただから後戻りできない。ため息を吐きつつこの場所から一番近い休める場所を考える。貉BANKかな、いや城が一番近い。

 俺は城に向けて歩き始めると、衛兵は慌てて呼び止める。

「おい、そっちは城しかないぞ」

 俺は足を止めずに答える。

「その城に行く」

 暫く俺を見ていた衛兵はハッと気づいた様子で

「まさかお前、君はリン太君かい」

 俺はちらりと衛兵を一瞥した後、城への道を急ぐ。

「ちょっと待ってくれ領主様からリン太君がこの屋敷に来たら便宜を図るよう指示がでている。仲間を呼ぶから待ってくれ」

 衛兵はポケットから笛を取り出して吹く。

 屋敷の中から二人の衛兵が駆け出してきた。

 二人は何をどう判断したのか、俺の前後に回り込み槍の先を突き付けてきた。

 俺はゆっくりと背中から少女を下ろし、衛兵たちと対峙する。

「何のつもりだ」

 最初からいた衛兵が慌てて走ってくる。

「槍を下ろせ。彼はリン太君だ」

「このゴブリンがそうなのか」

「早く槍を下ろせ。リン太君申し訳ない。屋敷に案内する。その子を休ませる場所がある」

「分かった。案内してくれ」

 俺と少女は屋敷内に設置された詰め所に案内された。少女をベッドに横たえ呼吸を確かめる。安定している深刻な状況ではないようだ。改めて衛兵を見る。

「リン太君申し訳なかった。仲間たちが勘違いして無礼を働いた。できれはこの事は内密にしてほしい」

「それは既に難しい。この一部始終を領主様は見ていたと思う。外にカラスが見えるだろ、多分あれは俺に付けられた領主様の式神だ。」

「こいつは何を訳の分からん事を言っている」

 もう一人の衛兵は全く状況が分っていない。

「今の状況を確認したいので僕から少し質問していいですか」

「何を聞きたい」

「ここの衛兵さん達は領主からの指示を無視したり、逆らったらどの様な罰を受けるのですか。それと二人で勤務しなければいけない場所を一人に任せ、二人がサボっている場合もどのような罰を受けるのですか」

 俺に槍を突き付けてた衛兵が答える。

「俺たちの事を言っているようだな。今回の場合だとどちらも棒叩き10回だろうな。だがここでお前たちを殺して埋めてしまえば何も起こらない」

「そうですか。考え直した方がいいですよ。直ぐに城からあなた達を捕えに兵が派遣されますから」

突然、表で大きな音がした。10人程の兵がなだれ込んできた。あっという間に三人の衛兵は逮捕されてしまった。

「貴方がリン太さんですね。領主様の命令で来ました。お怪我はありませんか」

「ありがとうございます。大丈夫です。そこの衛兵に殺され埋められるところでした」

 捕えられた衛兵があわてて叫ぶ。

「俺が言ったことは冗談だ。本気にしないでくれ」

 早くも自白してしまった。

「お前たちは勘違いをしている。俺たちが助けたのはお前達なんだぞ。放っておけばお前たちはリン太さんに合法的に焼き殺されるから早く行って逮捕してやれと言われた。間に合って良かったな。領主様に感謝しろよ。」

 ロープで縛られている3人は信じられない様子で俺を見る。

「領主様がお前たちを生かしときたいのなら仕方ないな」

 生かしておいても逆恨みしかしない連中だと思う。ゴブリンの様な種族に対する偏見も大きい。仕事についてもいい加減だ。門に二人立たなければならないところ一人しか立たず二人が中で遊んでいるようだった。そもそも役に立たないから無人の屋敷に配置されているのだろう。

 だが領主様の意向を考えると生かして活用する方法を考えなければならない、かもしれない。関わりたくない。



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