焼き肉大王
「俺の肉を取るなよ」
「何を言っている。ここは食べ放題の店だぞ、そんな心配いらないだろ」
「俺は、生が嫌いだ。じっくり焼いて食べる。お前は目につく肉が生だろうと口に入れる奴だからな。この線からこちら側は俺の領土だから侵入するんじゃないぞ」
ハム太が目を三角にして怒っている。少し盗りすぎたか。
「人聞きの悪い、そんなに目くじら立てなくてもいいだろう。心配しなくて良いからな。ミサコの分は俺が焼いてやるから、レアがいいのか?」
ハム太の剣幕に驚いているミサコに、俺は優しく話しかける。
「私はミディアムが好き。リン太は本当に何でもいいの?」
「あれはハム太の被害妄想だよ。俺もミディアムが好きだよ。ほら焼けたよ」
可愛い口でパクリ。ミサコの顔が開花する。
「美味しい。リン太は本当に肉を焼くのが得意なんだね」
ブン太の顔が引きつる。
「ミサコ姐さん。勘弁してください。反省していますので」
ミサコは何のことか解らずポケッとする。カナコはクスクス笑いながら告げる。
「ブン太もう気にしなくていいよ。リン太もミサコも恨んでいないから、仲良く食べよう。それからリン太、そろそろ妹さんを紹介してよ」
「そうだな。ブン太たちに対して悪い気持ちは持っていない。こうやって同じ釜の飯を食べたのだら仲間だと思っている。それからこれが俺の妹のヒロミだ。ほれ自己紹介しろ」
「みなさん初めまして、私はヒロミです。いつも兄がお世話になっています。今は兄と同じ貉BANKで働いています。よろしくお願いします」
すかさずガン蔵が手を上げる。
「はい。彼氏はいますか」
周りは一瞬にして静かになる。
「焼き殺されろ」「炭になりたいのか」「俺たちを巻き込むな」
ハム太、ブン太、ゴン次郎が呟く。
ハッとしたガン蔵は眼球だけ動かして俺を伺い見る。
俺は口元をほころばせた状態を崩さず、目は笑っていないかもしれないが笑顔を作る。誤解があるようだ。俺が友人達をヒロミに近づけたくない理由は、その友人達を大切に思っているからだが、ヒロミに関わった男達はろくな運命を辿らない。理解されないだろうが。
「いません。今大募集中です」
ヒロミは、花が開いたような笑顔で答える。
対照的に質問したガン蔵は、自分が今どの様な危険にさらされているのか不安になり、小さく頷くと、体を小さく丸める。
場の雰囲気が悪くなりそうなその時、大人しいミサコにしては珍しく立ち上がる。
「私はミサコよろしくね。ヒロミはどの様な男性が好きなの」
「ミサコさん、兄の彼女さんですね。私の好きな男性は誠実な方です」
俺は心の中で叫ぶ。「ナイス、ヒロミ。今のはファインプレーだ」
でも、お前の言う誠実な男性は何でも言うことを聞くパシリとかミツグくんの事だろ。
一瞬輝いた俺の顔にブン太が気付き、ミサコを女神のように崇め見る。
そんな中、カナコは発言する。
「ブン太たちが言っている、ミサコ姐さんの姐さんはもしかして極道の妻たちに影響されての事でしょう。ミサコもそのお芝居大好きだったよね」
ミサコの顔が赤くなる。そうなんだ。ミサコ姐さん、その呼び方満更でもないだ。
「私もそのお芝居知ってる。ゴブリン村では紙芝居で見たよ。でも主人公の姐さんの大事な旦那さんは組織の抗争で直ぐに死んじゃうだよね」
えっ、俺、死んじゃうの?
ヒロミの発言で、ブン太たち三人は真っ青になる。カナコは目から涙を滲ませながら笑い転げる。
何だかんだと言いながらも、ワイワイガヤガヤと場は盛り上がり、テーブルの上も空になった皿が積み上がる。
制限時間いっぱいまで食べた俺たちは膨れ上がったお腹を抱えて店を出る。
「ブン太にゴン次郎それからガン蔵、今日はご馳走さま。次回は俺に奢らせてくれ」
「それはだめです。3回の約束です」
「それはそうだが、妹までご馳走になってしまった」
「妹さんの分なら、いつでもタダです」
「そうやって不幸になって行く男達を俺は何人も見てきたが、ヒロミが誰と付き合おうと邪魔はしない。幸せになる事を願っている」
本当は不幸にならないよう願っている。
「話は逸れたが、次回の事は次回決めよう。また学校で会おう」
「お疲れさまでした。リン太兄貴、ミサコ姐さん」
ミサコを見るととても機嫌がいい。その呼び方とても気に入っているようだ。
「俺とハム太はこれから寮に帰るけどヒロミはどうする」
「私はミサコとカナコの所に行く約束したから、ここでバイバイ」
ハム太はカナコについて行きたそうにしていたが、俺が強引に連れて帰る。
「俺はカナコたちと遊びたかったのに何でお前と帰らなければいけない」
「今日俺が見る限りではカナコはハム太の事、苦手にしているようだった。あまり積極的に行くと嫌われそうだぞ」
「本当か俺はそんなふうには全く感じなかった」
「傍から見るとよく見えるのさ。カナコの事はすっぱり諦めて別の女の子に切り替えろよ。切り替えは得意だろ」
「切り替えたくて切り替えている訳ではないが、今回も・・・諦めるか。で次はだれを紹介してくれるんだ」
「早っ」




