総務部から営業部への配置換
昨夜、領主様に勧誘された事をバンとシズさんに報告した。
「昨日、妹のヒロミと一緒に北門の隊長に事件解決のお礼に行くと、そのまま領主に招へいされ、お城まで連れていかれました。その時、領主様から直接城で働かないかと勧誘されました」
「なんでそうなった」
当然の疑問である。当の本人である俺にも良く解らない。
「今回の事件で兄は領主様から素行調査を受けていた様で、その際に気に入られたのかと思います」
素行調査をされたのはヒロミの方で、俺はそのついでに調査されたのだと思うが、どうでもいいから黙っておく。
「それでリン太はどう答えたのだ」
「あまり行きたくない旨申し上げましたが、はっきりと断ってはいません」
「・・・分かった。仕事に戻れ」
何、今の間すごく嫌な予感がする。
もやもやする気持ちはあるが一日の仕事を終えて学校に行く。
学校に着くと直ぐに、オークのブン太やカナコ達に、食事の約束を守れなかった事を謝る。
「仕方ないよ。妹さんのストーカー解決できたのなら良いじゃない。ダイコク屋の壊滅と関係あるの?」
「あんまり関係ないよ。ストーカーがダイコク屋の人だったお蔭で、ついでに解決できたのさ」
「それなら良かったね。内はダイコク屋に事務用品を売っていたからその代金が回収できていないのよ。まあ少額だけどね」
「それは残念だね。今回の件は領主サイドが関わっているから変に突かない方がいいと聞いている」
「くわばら、くわばら、流石金貸し屋情報が早いね」
「たまたま同じように売掛金の回収ができないと言っている人が店に来ていたからね」
「嫌な話は止めて、みんなで焼き肉食いに行く計画しようぜ。リン太さんも妹さん連れて来てくださいよ。とても可愛いと聞いています」
昨日御馳走を食べたばかりだが関係ない。直ぐにその話に乗る。
「よし。この土曜のランチは焼き肉大王で決まりだな」
「「おー」」
全員一致で可決された。この教室には食いしん坊しかいない。
寮に帰ってハム太とヒロミに土曜のランチの事を話すと、これも直ぐにOKだった。いつもの日常が戻ってきた。
しかし、世の中は移り変わるものである。
二日後の朝、突然の辞令が下る。配置換えである。
「左記の者、本店営業部勤務を命ずる 総務部 リン太」
事前の内示もなかった。驚いてシズさんに説明を求める。
「先日お前から受けた領主様からの勧誘の件を頭取に報告した結果こうなった。頭取はこの機会に領主様と太いパイプを築こうと考えている。近い未来にお前をこの貉BANKから領主様の所に出向させるつもりだ」
「それと今回の辞令と何の関わりがあるのですか」
「今のお前のままだと貉BNKの職員としての価値はない。これから数か月教育して貉BNKマンとして出向させる。当分の間バン付きだな」
「僕の意見と言うか気持ちは考えてくれないのですか」
「勿論考えている。仕事のできる男=女の子にもてる。どうだ考えているだろ」
「喜んで拝命します」
「よし。私への挨拶はいいから、バンの所に行け」
「はい。今までお世話になりました。ありがとうございます」
飯の事ばかり考えていて初心を忘れるところだった。シズさんの言う通りこれはチャンスだ。仕事のできる俺を、ウットリとした目で見るミサコの顔が目に浮かぶ。
営業部のフロアに着いた俺は真っ直ぐに営業部長の前まで行き挨拶する。
「本店営業部勤務を命ぜられたリン太です。よろしくお願いします」
「期待しています。君はバンの下で勉強を頑張りなさい」
営業部長への挨拶が終わったタイミグでバンが話しかけてくる。
「これから大変だろうが私も全力で指導するから頑張れ。お前の机も用意した。私の隣だ」
バンの視線の先を見ると大きなデスクの隣に小さな机がある。その上には専門書のようなものが山積みされている。タヌキの頭取が俺にどれだけ期待しているのかが良く解った。
それと同時に、少し腹も立ってきた。これは頭取にも挨拶しておくべきだな。
「特別な計らいをして下さいました頭取にも御挨拶してきます」
秘書室に出向き頭取に挨拶したいと申し出る。秘書が取次、頭取室に呼ばれるかと思いきや頭取自身が部屋から出てきた。
「リン太君今回は大変だったね。まあこちらに来て掛けたまえ。冷えたお茶をたのむ」
俺は応接室に案内され、ソファに深々と座る。秘書がお茶をいれに部屋を出て行ったのを見てから口を開く。
「流石は頭取察しが良いですね。私の意思確認もせずに転職を出向に変更されたのですから、私は相当のご褒美を期待しています」
「見違えたよリン太君。領主様が欲しがるわけだ。私は順番を間違えたようだ。最初に君と交渉するべきだった。それで私は何をすればいい」
「私は多くは望みません。給料と待遇の改善、出向についても了承します。具体的には給料は中級公務員程度、待遇の改善については私とハム太を中部屋に移転させることです。今のままでは勉強ができませんから。ハム太は時間外の家庭教師として期待していますのでその手当もお願いします」
「そんな事で良いのか?多くを望まないと言う者に限って欲張るものだが、これしきりでは私の方が不安になる」
「では頭取が考えて下さい」
「ではお城の近くに家を一軒買ってあげよう。どうだ出向後、城勤めが楽になるぞ」
「期待以上です」
「そうか、それは良かった。恨みを持たれて領主様の所に行かれたら夜も眠れないことになる。リン太君には期待している。それにハム太から受けた小さな恩も律儀に返そうとする心意気がいいな」
ドアにノックする音があり、秘書がお茶を持って来た。
「ありがとうございます。誠心誠意努力して頑張ります」
「ふむ。妹のヒロミ君の事はいいのかい」
「はい。彼女は私より頭が良いので自分で何とかするでしょう。気に留めて下さいましてありがとうございます」
俺は退室して営業部に戻った。
直ぐに、バンのスパルタ教育が始まった。俺の教育係りは、優しくて素敵な女性にしてもらえれば良かったと、とても後悔した。




