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旅の妄想

 旅は何とか無事に進み、一か月が過ぎようとしていた。

 村長からもらった地図を広げて現在地を確認する。目的地まで後5日ほどか。

 この一か月をふり返ると、食料の確保が一番大変だった。最初のころはコオロギばかり食べていた。生のコオロギ、炒めたコオロギ、つくだ煮のコオロギだ。もはや俺の体の半分はコオロギの成分で出来ていると思う。

 でも慣れてくるにしたがい、割と簡単に魚や獣も捕れるようになった。

 今では食料確保にかかる時間と労力はあまり心配ない。更に十分に備蓄がある。

 この一カ月間、一人で獲物を狩り、加工し、調理しながら食いつないできた。腰には魚の干物が10枚以上ぶら下がっている。


 村を出たときは、腰に布を巻いただけの恰好だったが、襲ってきた猪をぶち殺してお肉と皮にすることもできた。今では上着を羽織っている。

 怠け者も、やればできることが分かった。少し自信がついてきたのだ。少しほんの少しワイルドになった俺を感じる。


 さて、半獣の町はどんな所なのだろう。また俺はどのような修行?労働?をさせられるのだろう。

 村長にもっと詳しく聞いとくべきだった。

 そう、あの時は、可愛い女の子と知り合いになる事が、すぐにでも現実になると思った。

 その上人間の言葉も話せるようになり、それは人間の可愛い女の子とも知り合いになれるいう事だろう。俺は種族を超えた愛を育むことができるのだ。いやだめだ、俺はただ一人の女の子を愛するのだ。いやしかし、向こうから沢山の可愛い女の子が来たらどうしよう。

 欲望が妄想を呼び。妄想が欲望を肥大化させていった。・・・・・


 だから村長から何も聞かずに今ここにいるわけだな。まあ仕方がない。悩んでも考えても答えは得られない。

 それに俺は大した事はできないし、見たまんま貧弱だから先方もあまり期待はしないだろう。

どこから見ても貧弱な子鬼。 ・・・でもこれってあまり良い事ではないよな。

 可愛い女の子に好かれるにはこのままではいけない。女の子に好かれるためには、当然貧弱は良くない。

 この貧弱な体は、沢山食べれば何とかなるかもしれないが、頭が良くないと女の子は寄ってこない。本当は馬鹿でも最低限、外面は賢そうな雰囲気は必要だ。反対に実際賢くても馬鹿のように見えたらだめだ。

 俺は他人からどの様に見えているのだろうと考える。たしか村長が俺の事「あまり頭は良い方には見えない」と言っていた。

 なるほど、今の俺は、貧弱で見た目もアホな奴という事になる。

 くそ、あの糞じじい、餞別もくれないのに、ろくなことを言わない。

 でも、糞じじいの言う事で落ち込む必要はない。「男子三日会わざれば括目して見よ」だよ。それに「(たで)食う虫も好き好き」と言う言葉もある。何とかなるよな。

 一人でいると詰まらないことをうじうじと考えてしまう。俺の悪い癖だ。

 残り数日の旅、もっと楽しい事を考える事にする。そう俺のサクセスストーリーを考えてみる。

 たぶん俺の今から行く町は狸を含め犬、猫等の半獣ばかりが住んでいる所だろう。慢性的に労働力が不足していると聞いている。ならばちょっとした経済圏を形成することができる規模があるに違いない。生産が追いつかないほど消費が大きいのだろう。もしくは正反対の限界村?

 また猫の手ならず子鬼の手でも欲している。それは魔物である子鬼が普通に生活できる環境であるという事。人間がいても子鬼を殺さない程度には共存しているはず。他の種族や文化を受け入れられる社会は発展する。

 しかし、価値観の相違や既得権の問題により、治安が悪化するのは困る。

 経済の発展条件の一つは治安の維持である。こんなことは13才の子供でも解ることである。でも何故その町はここまでごちゃ混ぜで治安が維持できているのだろう。もしかしてその町は今すごい勢いで発展しているのかもしれない。

 ま、状況の分析はこのくらいにしておく。俺としてはどうでもいい事だ。これからが俺のサクセスストーリーだ。

 と言う訳で、そんなこんなで俺は子鬼でありながら、何でもいいから特殊な能力に目覚め、何でもいいから何かしら活躍し、尊敬を集め、超飛び切り可愛い女の子と巡り合い毎日イチャイチャしながら暮らすのでした。めでたし。めでたし。

 色々と思考を廻らした結果がこれである。まったく具体性のないストーリーだ。ただ願望だけがあるだけ、行き当たりばったり、貧弱な想像力と純粋な欲望では自分のサクセスストーリーも貧弱で単純である。


 でも、これはこれで元気が出てきた。町まであと少しだ。頑張って歩こう。


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