違法薬物
仕事を終えた俺は、町の北門へ足早に歩いて行った。俺が初めてこの町に入った門も、この北門だった。期待していた通り、門番には知った顔の隊長さんが勤務していた。
「隊長様、お疲れ様です。僕の事覚えていますか?以前お世話になりました」
「やあ、一月ほど前に来た小鬼の少年だな。その服は貉BANKか、それにもう人語が話せるようになったのか、凄いな。それに精悍な顔つきになった。」
「ありがとうございます。僕リン太と言います。一生懸命勉強、頑張りました。今日はお願いがあって来ました。この張り紙を門の掲示板に貼らしてください」
「何だ。尋ね人の張り紙だな。お前の家族か?」
「はい妹です。ストーカーから逃げて僕の所に来る予定なのに幾ら待っても来ないので探しています。よろしくお願いします」
「それは心配だな。そこのボードに貼っておくがいい。そのストーカーはどんな奴なんだ」
「ダイコク屋の者だそうです」
「あの胡散臭いダイコク屋か。分かった、それも気に留めといてやる。見かけたら貉BANKに知らせてやろう」
「ありがとうございます。大変助かります」
「ああ、貉BANKならシズさんを知っているかい。会ったらよろしく言っといてくれ」
この隊長はシズさんと如何いった関係なんだろう。
「はい、シズさんは僕の直接の上司です。とても親切にして頂いた事、必ずお伝えします」
「そうか、君はシズさんの部下か、世間は狭いな」
俺は来た道をトボトボ歩いて帰った。
隊長さんには悪いが俺は嘘をついている。妹のヒロミは既に貉BANKで働いているし、この張り紙はダイコク屋からの追手を見つけるための罠である。
正直に話して協力してもう事も考えたが、正直に罠の事を説明すれば、隊長が部下たちに嘘をつかなければならない。隊長が嘘を付かずに部下にこの罠の説明をすれば部下たちがこの罠の嘘を一般の人たちに黙っていなければならないが、部下の中には友人や家族に話す人もいるかもしれない。こうやって罠の事を知る人が多くなれば効果がなくなる。
この罠は、落とし穴の様な対象以外の者が危険に晒されるわけではない。後でばれて隊長に悪く思われるが許してくれるだろう。
張り紙を張って3日後、隊長から連絡が来た。薬の行商人がこの張り紙について尋ねて来たので怪しく思い所持品検査をしたところ、違法薬物を所持していたため逮捕し留置場に入れているとの事だった。
余りにも予想外の展開だった。俺は直ぐに北門へ向かった。
「リン太早かったな。こいつが例の行商人だ」
隊長が鉄格子越しに指さした者は、ゴブリン村の村長からの手紙にあった者と人相が一致している。でもなぜ隊長はこの男が怪しいと思ったのだろうか。そしてなぜ俺に知らせてくれたのだろう。
俺が不思議そうな顔で隊長を見ていたのに気が付いたのか。
「リン太、張り紙の罠の事ならシズさんからこの前話をして気付いた。俺に本当のことを言わなかった事についても察しているから気にするな」
「すみませんでした。それからありがとうございます。早速ですが、この男はどうなるのでしょうか」
「こいつは取り調べをした後、死刑だな。違法魔性丹をこの町に持ち込んだ時点で死刑は確定している。我らの領主様は違法薬物に特に厳しい方だからな」
「領主様は領民をとても大切にされている優しい方なのですね」
「まあ半分は当たっている。ここゴーラは吸血鬼ゴーラ様が支配する町だ。この町の住人の義務には納税の他に献血がある。15歳になると年に500ml献血しなければならない」
「年に500mlなら大した事ないですね。でも成人住民全てから集めると大量になりますね。ゴーラ様はそんなに血液を召し上がるのですか」
「いやそんな事はない。ゴーラ様自身は、ほんの少量しか召し上がらない」
「ならどうして」
「この町の主産業は医薬品の生産なのは知っているかい。その多くが血液生成による物だ。吸血鬼は血液関係の魔法が得意なのは当然であるし、ゴーラ様は特に研究熱心な方だ。この町が多種族からできているのもゴーラ様が多種類の血液を研究するため意図的にされた事だ」
「ああそれで、住民の血液に悪影響がある薬物については厳しいのですね。でも僕たちはモルモットのようで少し複雑な気持ちです」
「まあそうだな、でもその御蔭で基本的には種族間の差別がない。それに本当のモルモットはこいつらなんだが」
隊長は少し憐れむような目で鉄格子の中を見ている。ここの死刑囚は簡単には死なせてくれないようだ。
「話は変わるが、こいつはダイコク屋の関係者だと思うか?リン太は何か知っているのか」
「僕もこいつはダイコク屋と繋がりがあると思います。でも確たる証拠を掴んでいるわけではありません。僕の妹がダイコク屋で違法魔性丹を見た事により身の危険を感じているのですが証拠になるものはありません」
「するとこいつはお前の妹の口を封じに来た暗殺者兼売人と言う事だな」
「ゴブリンの小娘を殺すのに凄腕の暗殺者は必要ないので、ダイコク屋は魔性丹の売買のついでに殺す心算だったのかと思います」
「・・・リン太お前、こいつを誘き出して、独りで殺すつもりだったのか」
「お察しの通り、そうなる可能性は考えていました」
「まあ殺しに来た者を返り討ちにするだけなので問題はないか。この件については、ゴーラ様も黙ってはいないだろうから、もうお前の妹が狙われる可能性は低い」
「どうなるのでしょうか?」
「ゴーラ様は悠長に待つ人ではないから、直ぐにでもダイコク屋を討伐するだろうな」
「でも先ほど言ったように証拠が無いのでは」
「違法薬物に関してゴーラ様は疑わしきは罰する人だから、アサシンを送り、討伐した後で証拠を探すだろうさ」
「恐ろしい。皆殺しですか」
「俺たちにできる事は、関係のない人達が少しでも巻き添えにならないように祈るだけだ」
「・・・・」
俺は、妹と俺自身を守るために、皆殺しを考えたが、領主は領民と国益のために、皆殺しを実施し、多少の冤罪は許容しているのだろう。やはり、恐ろしい。
数日して店に来た顧客の中に、ダイコク屋が潰れて売掛金が回収できないと、嘆いている者があると聞いた。
その人はとてもラッキーだと思う。ダイコク屋の巻き添えで、殺されなかったのだから。




