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ゴブリン村

「腹減った。お腹すいた。ひもじい」

 深い森の中、俺は当てもなく食べ物を探している。何も見つからないし、何も採れない。

 疲れた。帰る。村に帰って誰かの食い物をくすねよう。

 人には得手不得手と言う物がある。獲物を狩るのが上手い者、薬草など採取するのが得意な者、俺の場合は、人の物をくすねるのが得意だ。

 これは神様が下さった職業(ジョブ)だ。何ら恥じる事はない。

 しかし、甲斐性がないのも事実だ。

 村に帰ると、俺と同じような甲斐性なし達がトボトボと歩いている。

 あいつらも腹ペコなんだろうな。

 ここのところ何も捕れなくなった。何故か動物たちが森からいなくなった。森に異変が生じたのかもしれない?

 嘘です。森はいたって普通です。動物たちも普通に暮らしています。なんの変化もない平和そのものです。

 では何故何も捕れなくなったのか?俺たちの村に伝染病が蔓延している。

 いいえ、これも嘘、俺たちが腹ペコなのは普通です。毎日大体こんな感じです。やる気がない、その一言につきる。


 ここは「ゴブリンの村」と呼ばれている。子供、年寄、男、女全部合わせても500人にとどかない。

 住居は崖の中腹に横穴を掘って作っている。出入り口に(ひさし)を設けている事だけがネズミの巣穴との違いです。

 亜種とはいえ、人間の村とは言えないかもしれない。

 しかし村長はいる。歩くのがやっとの老いぼれです。行政の長ではない。

 ただ単に長生きしているから物を知っている、それだけと思う。彼が何かリーダーらしき事をしているのは見たことがない。


 この村には何もない。

 少しでも才能や、やる気のある若い者たちは村を見限って出ていきます。


 こんな最弱の小鬼たちがここで生きて行けるのには訳があります。この森の奥の奥、そこにドラゴン様がお一人住んでいらっしゃるのです。多くの魔物はドラゴンを恐れ、ここに近寄りません。

 我々小鬼は魔物でも最弱なので他の動物たちと同様ドラゴンの敵にはなりえないし、興味も持たれない。多分食べても不味いのでしょう。そういう事で、安心して暮らせています。

 しかし、たまに遠くの国から人間どもがドラゴンを退治しにやって来ることがあります。

 そして彼らは、命の他にも色々落としていきます。ドラゴン様には、魔法も奇跡も、ましてや宝剣の斬撃もまったく通用しないようです。

 彼らはドラゴン殺しの名声と財宝が目当てで来るのだろうが、どちらもテイクアウトできた者はいません。

 我々からしてみれば人間たちは上客です。彼らは高価な宝剣はもちろん色々なアイテムに医薬品、食料など多くの物資を残してくれる。大概がドラゴン様の一撃でみんな死んでしまうので丸儲けです。

 それにここのドラゴン様は宝剣等の光物以外は何の興味をもたれないのです。我々小鬼が物資を回収するのに邪魔もされませんし、文句も言われません。多分ゴミの回収に感謝しているのではないかと思います。


 大昔には、とある国の王が軍隊を引き連れて来たことがあったそうです。

 でも、これもドラゴン様のワンパンで終わり。この時のインバウンドはかなりのものだったそうです。

 でも、そう何度も上客が来るわけでありません。


 そう言う訳で俺たちはいつも腹を空かせている。やる気なし。甲斐性なし。

 しかし、食欲が代表する色々な欲は人並にある。


 俺今、13才。恋もしたい。

「ああ彼女ほしいな・・・」

 村の中には、もちろん女性はいる。

 いるにはいるが、大半の女性は、これからの女の子と昔々の女の子。7才未満と、何と表現すればいいのか無事女性を卒業された方々。男性も似たようなものだ。


 まっ、そのような感じです。

 なぜ?

それは強い雄はここを見限り、年頃の女の子を連れて行ってしまうから。みんな夢を追って、本能にしたがい出て行きます。

 鬼の社会は一夫多妻制です。才覚のある者が全てを自分の物とする所謂(いわゆる)山賊の社会です。


 俺としては一人の可愛い女の子と森の中で静かに暮らして生きたいと思っている。

それは弱いからなのでしょうか。俺は体も小さく弱い、頭も大して良くない。その上怠け者で情も薄い。

 それは、人間側から見た小鬼その物だと言える。

 考えようによっては、俺は小鬼の手本のようなものだ。もっと自信を持っても良いかもしれない。

ならば俺も夢を追いかけてこの村を出てみるべきかもしれない。

 でも俺の「夢」てって何?何も思い浮かばないのですけど。

「一人の可愛い女の子と森の中で静かに暮らす」

ああこれだ。俺の鬼らしからぬ願望。雄の鬼なら一夫多妻ハーレムを望むべきである。

 でも、俺は、やっぱり一人の可愛い女の子とイチャイチャする方が嬉しいよね。

「腹減った」

 色々考え、妄想したが腹が減るだけで何も得られない。体がだるい。帰って寝よ。妄想の続きは明日にする。



目が覚めた。

「腹減った」

目が覚めても当然何も変わっていない。

しかし、今日は村長のところ行ってこの村を出ると報告するつもりだ。

決意を伝えるのだ。

また餞別に何か食い物くれるかもしれない。


 俺たちの住居である洞窟の一番奥に村長の部屋がある。

 やはり奥に行くほど偉いのである。この村では村長が一番偉いのです。何の権限もないけど。

「村長 僕この村出ていきます。何か餞別を下さい。食べ物とか、美味しい物とか」

「先週も同じ事を言って食い物を取っていった奴がいたぞ。あれはお前ではなかったかの?」

 ちっ。まだ覚えていたか。

「でも今回は本当です。これから行く先々でこの森のことを宣伝してあげます。お手頃のドラゴンが住んでいるよって、そしたらまた昔の様に自称勇者や冒険者たちが集まって来て、この村も少しは潤うと思います。」

「小賢しい事を言うじゃないか。そもそもお前は人間の言葉を喋れないだろ。それにどっから見ても小鬼なお前じゃ、話す前に殺されるに決まっとろうが。」

「えっそうなの。人間は小鬼を食べるの? なんて野蛮なのだ。僕も肉なら何でも食べるけど。人間はあまり好物ではないけど。」

「いや人間は我々を食べない。そんなことも知らないのか。お前、村から出るのは止めといた方がいいのではないか。」

「僕には夢がある。僕は可愛い女の子と二人だけでずーっとイチャイチャしていたいんだ。それを成し遂げるためにどんなことも厭わない。」

 昨日思いついた事だけど。

「そんな大層なことか!まあいい、お前のような手癖の悪い甲斐性なしを村に置いといても食い扶持が増えるだけだ。好きにするがいい」

「はい・・・」

 手癖の悪い甲斐性なしとは、いつばれたのか?村長はもしや鑑定スキル持ちなのか?まったくそうは見えないが、人は見かけによらないと言うからな。

「でも生きてそのしょうもない夢を叶えるつもりなら、わしの古い知り合いを教えてやる。そこに行って修行してみろ。」

「えっ それって公務留学ですか、その才能を見込まれた者だけが公費で行われる。」

 おお、村長はやはり鑑定スキル持ちだ。僕の潜在的能力を見出したのだな。

「あほ、この村にそんなものがあるか。お前の顔を見りゃ分かる。あまり頭は良い方には見えないし、力もなさそうだ。唯一元気だけは、かなりありそうだ。そんなお前が修行と言う名目で行くのは労働力の提供でしかない。こちらとしても口減らしになるしWin-Winじゃ。もちろんお前にとっても悪い話ではない。先方は半獣じゃ。だから人間の言葉を習える。またあいつは狸の半獣だからもしかすると人間に化ける方法も習得できるかもしれんぞ。」

 かなり胡散臭い話のような。でも他にあてもないから仕方が無い。

「ありがたくその話いただきます。」

「よし。なら地図と手紙を書いてやる。待っとけ。」

村長、字が書けるのか?人は見かけによらないな。人ではなく老いぼれ鬼だけど。少し見直した。

「ほらよ。これ地図、お前の足なら一月ほどで着くだろう。それとこれ紹介状、タヌ蔵と言う半獣に渡せ。」

 なんだこりゃ。地図が絵なのは分かるが、これは手紙ではなくて絵日記だろ?見直して損した。

こんなものを渡して大丈夫か?

「これを先方にお渡しするのですか?」

「これでいいんだよ。狸でも分かるように絵文字で書いてやってんだ。」

 本当に大丈夫なのか。渡した瞬間、殺されてしまわないだろうか。だれにでも分かる。この手紙は相手を怒らせる効果以外は何もない。

 村長はいい人だ。悪い人ではない。悪気があるわけではないのだ。

 と思いたいが、これは戦場で敵に降伏勧告を告げに行く使者のようだ。王様が使者の命を軽く見ているのと同様、村長にとって俺も同じに違いない。

 自分の身は自分で守らなければならない。俺の危険な旅はすでに始まっているのだと思う。

 俺は「糞じじい」と心の中では罵りながらも、顔には出さずに礼を言う。

「村長、ありがとうございます。僕行ってきます。」

「ああ気を付けてな。タヌ蔵によろしく。」

 結局食い物はもらえなかったな。一度塒(ねぐら)に戻って旅の準備をしよう。


 我々の住居は汚い。道具類はそこら中にころがっている。誰かが所有しているといった事はない。

 ろくなものはないがその中でも使えそうなものを選ぶ。

 俺は短弓、短槍に目を向けるが、手にする事はやめた。今の俺がいくら頑張ってもこの道具に見合う獲物を仕留められるとは思えない。

 小刀、雑策等をズタ袋に入れ、盾の代わりになりそうな少し大きめの鍋を背負う。

他の奴に挨拶するのも面倒だし、それほど親しい者もいない。


何の未練も感じることなく俺は村を出発した。


 少しの不安と大きな空腹感を抱えて。


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