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「パーティー登録が完了しました。メンバーは三名、リュシア・ラグフォード、ミナ・ハーヴェイ、イシュラン・ヴァレンタイン。お名前に間違いはないでしょうか?」

「うん、間違いないよ」

「イシュランさんの名前ってどこかオシャレですね」

「チョコとかたくさん貰ってそうだよね」


 ギルドにてパーティー登録を終えた三人は、安息の地を探すため格安の宿を探していた。イシュランは身なりこそ平民のそれだが、三人の中では一番依頼をこなしているので最も裕福だ。

「一泊千ゴールドくらいの物件があればいいのにね」

「リュシアさん、それは数時間の休憩だとしてもかなり無理のある値段ですよ。相場は最低でもその五倍はあります」

「とほほ……人を泊めるのにそんなにお金を取るとはね」

「しかも一人あたりです」

 意気消沈しながらリュシアは歩いた。剣を引きずりながら歩くその様はとても滑稽だった。

「イシュランさんの家はどこにあるのですか?」

「俺の家?馬小屋だよ」


「流石に馬小屋で寝泊まりは嫌ですね……」

「うん、むさ苦しい男と馬に囲まれたら絶対に寝れないよ」

「全部聞こえてんだよ!」

 イシュランはどんどんと足音を大きく立てながら歩き出す。そしてふと思い出したのか、

「あ、一つだけいい場所知ってるよ」

「馬小屋ですか?」

「馬小屋から離れろ!」

 小さくこほんと咳払いをすると遠くの方を指さした。

「知り合いのアルスさんが教えてくれたんだ。家賃は破格の一万ゴールドで、ギルドからは徒歩五分、近場ではよく市が立つとか」

「へえ……最高の物件じゃん。広さは?」

「ちょっと待ってくださいリュシアさん、それ絶対事故物件です」


「その物件、嫌な噂があるんだよね」

「変な噂ですか?」ミナが聞き返す。

「住人が石になるってよ」イシュランが付け加える。「酒場で聞いただけだから真偽はわからないけど」

 ミナは青ざめながら話を聞いた。リュシアは興味津々な様子で呟く。

「宿泊だけじゃなくて石化体験も出来るの?ちょっと興味湧いてきた」

「いやいや全然笑い事じゃないですよ。石化したとして戻る保証がないじゃないですか」

「知らないの?人間は石化する時に超強力なエクスタシーを感じるんだよ」

「ま、噂は噂。俺は信じてないよ」

 イシュランは肩をすくめると、別の物件の話題を持ちかける。風呂付きの宿ならなんでもいいとのことで、三人は談笑しながら街の奥へと歩いていった。


 * * *


 イシュランが仲間に加わってから一週間が経過した。

 結局三人が望むような部屋は見つからず、外で寒さに震えながら夜を越している。焚火をしようにも街中でやると衛兵に叱られる。布団で体を温めようにも突風で吹き飛ばされるの繰り返しだ。

「リュシアさん、もういっそのこと体に火をつけた方が暖かいと思いませんか?いくら厚着をしたところで限界がそのうち来ます」

「全く最近の若者は根性がないね。私が子供の頃はね、極寒の中服一枚も渡されず過ごすよう言われたこともあるんだよ」

「どこの戦闘民族ですか」

 イシュランが咳をして鼻水を垂らす。流行り風邪をもらったようで、彼の咳と熱が止まらない。

「このままじゃ俺たちみんな風邪引いちゃうよ」

 ミナは無言で距離を取り始める。リュシアの腕に抱きつくと、イシュランが近づかないよう手で追い払おうとする。


「それにしても今年は風が強すぎると思う」

「いや私たちがこの街に来たのは一週間とそこらだから去年の事情はわからないよ」

「あ、そうだったのか。──去年はもう少し風も弱かったんだけどな、風の悪魔でも住み着いてるのかここ最近突風が強すぎる」

 リュシアが肩を叩きながら呟く。

「荷物も全部吹き飛ばされちゃったしね」

「ギルドに行って調査してみませんか?」

「私はめんどくさいからいいや」


 ミナはリュシアの袖を引っ張る。足を止めてからミナの方を見た。

「ギルドに行って調査してみませんか?」

「いや……私はめんどくさいから」もう一度袖を引っ張られた。それもざきより強い力で。

「うん、行こうか」



「すみません、風の魔獣っていますか?」

「風の魔獣ですか……情報はないですね」

「いないって。帰ろうか」

 そそくさと退散しようとするリュシアを引き止めるとミナは受付の人に尋ねる。

「ここ最近、突風が凄まじいのですが、それに関する情報はありますか?」

「ああ突風についてですね。でしたら情報がいくつかあります。辺境に住む魔法使いが暴れているそうですよ」

 ミナは面倒くさそうな顔をしたリュシアを見る。少し睨むと、彼女は腕を組んで話を聞くふりをする。


「魔法使いペトラ、風属性だから私とは相性が悪いね」

「リュシアさんリュシアさん。もうあなたには仲間がいるんですよ。強力な仲間です」

「そうだったね。じゃあイシュランに一任するのはどうかな」

 不満を後ろで漏らすイシュランを一瞥し、リュシアは続けた。

「仕方ないでしょ。雷は風と相性が悪い。それにミナの弾丸は全部逸らされる。だったら槍を使えるイシュランが適任だね」

「いやリュシアなら剣か拳で倒せるだろ……」

「か弱い女の子にそんな乱暴なことさせるの?」

「俺を一撃で倒せるような人はか弱くはないだろ。それに女の子って歳じゃ」

 頭に手刀を振り下ろされ、イシュランは黙った。年齢不詳のリュシアはにんまりと笑いながらイシュランの膝に手を置いた。


「倒してきたら稽古つけてあげるよ」

「はぁ……わーったよ、倒してくればいいんだろ。ついてくるか?」

「ついていきます。リュシアさんも同行しますよ」

「いや私は──」

「ついていくそうです」

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