7.
入学二日目の朝。
いつものように起きて、パンを焼く。
もそもそと頬張りながら新聞をざっと読む。
まだ六時半。だけど、姉さんは五時くらいに家を出たそうだ。(早番母さんより)
そんなに早く出て何をするのだろう、と思いながらもあまり気にしていないのが本音である。
制服を整え、カバンに荷物・・・といってもそこまでないけど。を、詰めて出発する。
☆
一時間目。学校案内をされた。
小学校のときと同じくらいの大きさの中学校なので、校内の作りはすぐに覚えた。
もともと創立してから時は経っていない私立の中学校なので、そこまで大きくないのだ。
その時も浜辺はずうううっとうるさかった。
生徒会の方々に申し訳ないレベルに。
二時間目。今である。
クラスでのレクリエーションタイムだ。
望月先生が黒板に《自己紹介》とチョークでかく。
「えー、簡単に自己紹介をしていってくれ。出席番号25番からいくぞ。」
考える間も与えずいきなり始まった自己紹介。
しかも、後ろの番号からじゃないか!?
俺は「やまだ」の「や」だから、出席番号20番である・・・
まだ余裕はある。
自己紹介のときに皆が使うであろう技術、「一番目の人をパクる」が使えるのだ!!
と、思考力の全てを自己紹介に注ぎ込む。
ここで目立つと一年が終わる。これくらいの思い出自己紹介は考えなければならない・・・・
25番が立ち上がる。
「渡辺光樹です。第一小学校出身です。部活はサッカー部に入りたいと思っています。好きなモノは甘口たくあんです。よろしくお願いします。」
おー、よかった。普通の自己紹介だ。たくあんを除いて。
これを土台として自己紹介を考えよう、と思って組み立てを頭の中で始めようとした。
「おい、そんなつまらない自己紹介だと名前を覚えられない。
そうだ、1人ずつ名前であいうえお作文をつくれ。」
ハァァアアア!?
望月先生がとってもいらないことを言った。
あんたの自己紹介のほうがとってもつまらなかったですけど!?って言ってやりたい気分になった。
渡辺は少し戸惑いながら口を開いた。
「わ、笑うのだいすき
た、たくあんだいすき
な、奈良漬けも好き
べ、べったら漬けだいすき
み、みのぼし南蛮だいすき
つ、漬物だいすき
き、キムチもだいすき
渡辺光樹です。よろしく」
う・・・・-----
おかしな展開になってしまった。
このままだと、大喜利大会になってしまう。
24番、全てを託した。
「えっと、|
わ、わたしは
か、かってで
や、やる気はなく
ま、まともじゃなく
しょ、正直じゃない
う、嘘つきの
こ、子どもです
若山祥子です。」
やめてくれ、これ以上自分の事を悪く言うのは。
どうしたらそんなある意味天才的なあいうえお作文が作れるんだ。
・・・違うっ!!
この流れを変えないと何かボケないといけない雰囲気になってるって!!
23番が焦り気味に始める
「え・・っと
ら、らくらく
く、くるくる
ま、まいまい
ん、んーーー!!
お、おいおい
う、うるうる
楽満 桜です・・・」
しいんとする教室。
23番、今にも消えそうな雰囲気。
よく頑張ったよ、もうちょっと考えような。
と、思っている内にもうすぐ俺の番になるではないか!?
考えろ・・この3人を参考に・・・出来ない!!
と、頭をぐるぐるさせる内に22番が終わってしまった。
アセルアセルアセル・・・・
心臓バクバクしてきた・・・・
「ーーーーーで、夜月 月です。」
中二少女の21番の自己紹介が終わった。
まっったく聞いてなかった。
教室は「面白いことをしなければ」という空気になっている。
ううううううう
冷や汗が背中をツーっと流れる。
「20番、立てよ」
望月先生が急かすように言う。
あわててバンッと椅子を思いっきり後ろに突き飛ばすようにして立ってしまった。
まずいまずい、何も考えていない。
どっくんどっくん
心臓の音が大きく、早くなってきた。
喉元に何かが詰まっているように、声がでない。
視線が集まる。
こわい。
そう思った瞬間、ボオオオオオオッと大きな音が立ったかと思うと教室内に大きな風が吹いていた。
「キャアアアアア!!」
「なんじゃこりゃああ!?」
一気に教室が騒がしくなった。
やっちまった。
大量のプリントが宙をまう。
ぼおっとその光景を見つめていたけれど、はっとして、止めなければいけないといけないということにやっと気がついた。
術をさっとやめる。
教室はしいんと静まりかえった。
「えと、
や、優しく
ま、まじめで
だ、男性です
い、いかなるときも
ぶ、ぶれません
き、きつい風でも。
山田伊吹です。」
なに言っているんだ俺!?
術を発動させたことによってとても焦っていたのか、すっごい恥ずかしいポエムを発表していた。
「・・・フフッ」
誰かが小さな笑い声を上げた瞬間、ドカンと教室が笑いの渦に包まれる。
浜辺が大きな声で
「いぶき!! よくこんな強風のあとで冷静に自己紹介できるな!? しかも、つっよい風ん中でもぶれない体幹だったしな!! やっぱおもしれぇよ、いぶきぃ!!」
と、言って見せた。
風のことはだれも気にしていない様子で安心し、脱力したように椅子に座る。
あせるとだめだな、と反省しながら胸元に目をやる。
・・・・あ、
赤い石のネックレス、付けるの忘れてた。