5.
入学二日目。
昨日の夜は大変だった。
☆
「まだ、アイツ(父さんのこと。)や木葉は帰ってきていないだろう?」
「ですけど、大丈夫です。姉も俺ももう、大きいですので。」
「でも・・・」
過保護な闇さんはなかなか帰ってくれなかった。
だが、俺は策士だった。
「そういえば、今日は真火斗伯父さんがテレビに出るそうですよ。」
「(ピクッ)」
闇さんの眉がわずかに動く。
真火斗伯父さんとは、五人兄弟の中で三男で、鍛冶職人をしている。
普段は切れ味のいい包丁を作るのだが、刀鍛冶を本職としているらしいけど。
真火斗さんはイケメン刀鍛冶としてよくメディアに出てくるのだ。
外見もよく、言うことの聞かない長い黒に近い赤の髪形をしている。目は鋭く、俺と似た赤色。だけど、真火斗さんの目の色は鉄を熱したときのような赤色で男の俺でも惚れ惚れしてしまう。
職人らしくはない体の細さだが、腕にはしなやかで美しい筋肉がついている。モテないわけがない。
そんな伯父さんを話に出したのには理由がある。
闇さんのブラコン効果を利用するのだ。
「見てあげなくて、いいのですか?」
「・・・・伊吹の家で見る。」
「え?俺、今から見たい番組あるんですけど、奪うんですが?可愛い甥からチャンネル権を?」
「・・・・帰る。」
闇さんはしぶしぶ帰って行った。
闇さんは対人関係に対する優先順位がはっきりしている。
一番は闇さんの親、そして兄弟、その後に俺たち甥姪となっている。
俺たちの優先順位が高い位置に着いていなくてよかった。
(愛する妹の夫は嫌っている。闇さんらしいね)
そう思い、闇さんを見送ってから一息ついていたときだった。
ガチャ。
扉の開く音がした。
珍しく早く帰ってきた父さんがそこにいた。
今、やっとリラックス出来ると思ったのに。
ため息のせいで運が逃げている。本気で信じそうになった。
「ただいま、おっ伊吹。入学おめでとう。」
そう言うと父さんは俺に小さな小包を渡した。
触った感じ、ボールペンかシャーペンか。そこら辺だろう。
きっと、入学式に来れなかったことを申し訳なく思っているのだろうな。
「ありがとう、父さん。」
「こんなモノでごめんよ。また、休みが取れたときに欲しいものを見に行こう。」
「いいよ、別に。欲しいものなんてないし。」
「そうか・・・」
と、しゅんとした父さん。
うーむ、もう少し言い回しを考えた方が良さそうだな、と俺は少し反省した。
「そういえば、樹里は帰ってきてるのか?」
「あー・・・まぁ、そうだけど・・・・」
先ほどの騒動が思い出され、頭が痛くなる。
母が先に帰ってくればよかったのに。
「そうか。じゃあ、樹里の部屋にいるんだな。ようし・・」
と、階段を上っていく父さん。
あ、やばい。
止めようと思った時にはもう遅かった。
父さんはノックもせずに樹里の部屋の扉をあけた。
「おかえり、樹里!!入学おめで・・・とう?」
急いで俺は階段ダッシュする。
父さんは部屋の中に入らず、入り口で固まっている。と、思ったら十秒後には
「なぁぁあああああにいいいいい!!!???」
という、奇声をあげた。
うるさい。
「お、おい・?! か、髪の、、色がッ 変わってる!?」
「ア? うっせぇ。勝手に入ってくんなよクソジジイ」
「クソジジイ・・・・?????」
父さんは何を言われているのかうまく飲み込めていない様子だった。
そりゃあ、そうだろう。朝までは
「おはよう、お父さん」
「いってきます」
と、優しい姉さんだったから、この変化ぶりにはなかなかついて行けないだろう。
だけど、この光景を見るのは俺はTake2だから、正直言うと、飽きた。
「口が悪い・・ぞ・・・」
「は?説教すんなら出てって。うっせぇ。」
「あっ・・・・」
と、半ば強引に父さんは姉さんに部屋から追い出された。
ドンッと大きい音を立てて扉を閉められた。
父さんは手に俺にあげたものと同じような小包を持っていた。
「・・・・樹里、どうしたの?」
父さんは困ったような笑顔をしながら俺に聞いてくる。
「さあ? 帰ってきたらアレだったよ。」
「反抗期ってきなりくるんだな。」
「・・・ここであんまり話さない方が良いよ。」
部屋の前で自分の話をされるのが嫌なのだろう。
ピリリとした殺気と似た空気を樹里の部屋の中から感じる。
「そうなのか?」
と、父さんが言った瞬間、またまた扉を思いっきり叩いたような音がする。
「っ。確かにそのようだな。」
と、父さんは小さくつぶやくと、ニカッと俺に笑いかけてきた。
闇さんとは違うタイプだ。ここまで言われても笑えるのがすごい。
「叩くのは控えろよー、壊れたらお義兄さんに迷惑かけてしまうからなー。」
それだけ言うと、父さんは「じゃ、夕飯夕飯!」と声を上げながら階段を降りていった。