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4.

お腹が重く、階段をあがるのでさえやっとだった。

自室のベッドに倒れ込む。

結局、大量の食事の七割が夜へ持ち越しになってしまった。

その内二割五分ほどは二時間ほどかけて俺が食べた。闇さんはほとんど怒りに震えるか俺に食べるのを進めるかで全然食べなかった。


食べ終わり、重いお腹を抱えながら洗い物だけでもしようと思ったのだが、闇さんが頑なに断り、今に至る。

うう、胸やけがする。これは、夜ご飯いらないな。


竜人は基本的に小食なのだ。だから、俺にとっては苦痛であった。

それでも闇さんに申し訳ないという思い一心で必死に胃の中へ運んだ。


闇さんは俺のことをよく見てくれるけれど、こういったところの気遣いはしてくれない。

俺は人間より竜人よりの生態なのに。


少しイライラしながら、血糖値爆上げ状態の俺は眠りについてしまっていた。


二時間ほど経っただろう。

樹里の帰ってきたような音がして目が覚めた。もう四時だ・・・

まだはっきりしない体を起こして、自室から出てリビングへ行く。

胃の中はまだゴロゴロする。


リビングからは樹里の高い声が響いている。

闇さんの、低い声も聞こえる。

しかし、いつもの雰囲気ではなく、とげとげしい空気を感じる。


「樹里・・・お前の髪色は十分キレイだ。染める必要はないだろう。」

「は? おじさんは黙っててよ。うっざ」


帰ってきた姉の髪形は大きく変わっていた。

あんなに穏やかだった黄色の髪色は明るい茶髪へ変化し、一つにまとめていた髪は下ろされ、カールが巻かれている。

まさに「ギャル」である。

爪も明るいピンク色になっている。


「真面目だっただろう? 生徒代表挨拶をしたと聞いたぞ。」

「うえー、きっっも。そんなとこまで知ってんの?」

「・・・その口調はどうした。もう少し優しかっただろう。」

「は? 親でもないクセにウザいんですけど。」


姉の代わりぶりに俺までついていけていなかった。

朝、出る前までは優しく微笑む姉さんだった。

髪色だけが変わっていて、他はあまり目立たない、いわゆる普通だったのに。


帰ってきたら、「目立つ」部類になってしまった。


父が見たら激怒するだろう。


「・・・・分かった。熱でも出たのだろう。頭を冷やそう。」

「は!? 何言ってんだよっ」

「とりあえず、これ飲め。」


闇さんは冷蔵庫からレモン水を取り出す。

いつのまに作ったのだろう。

というか、姉の変化に「熱が出た」はないだろ。


「っっっっ!!」

「最近の春は暑いからな。熱中症で思考がおかしくなったのかもしれ・・・・」

「うっさいんだよ!!アタシの勝手だろっ!? いちいち口出しすんなよ!!」


バッシャアアア パリン

ガラスのコップに入ったレモン水を思いっきり床にたたきつけた。


姉さんの顔が一瞬ゆがむが、すぐにキッとした顔になり、闇を睨むとリビングから退出しようとした。

そのとき、俺がいることに姉はやっと気がついたようだった。


「あ・・・おかえり、姉さん。」

「・・・・」


姉は黙って自室にこもってしまった。


「・・・これは、人間の《思春期》というものなのか・・・」


闇さんがうれしそうにぽつりとつぶやく。

若干笑顔。


メンタル強すぎるだろ。というか、天然なのか。

勝手に納得しながら俺は雑巾でレモン水を拭き、ガラスの破片を回収しようとした。


「危ない。ガラスは俺がやるから伊吹は触らないで」

「・・・いや、これくらいできますよ。」

「いや。お前の手に傷を付けるわけにはいかない。」


そういうと闇さんは箒でさっとガラスの破片を集めると、どこから持ってきたのか高性能の掃除機でブオォォォッっと掃除し始めた。


「そこまでやらなくても・・・」

「いや、危ない。もし口に入ったら・・・」

「床を舐めることなんてしませんよ」

「落ちた餅を食べるかもしれないだろ」

「汚いです」


と言った瞬間、がんっと言う扉を叩くような音が二階からした。

姉さんだろう。きっと「うるさい」って言いたいのだろう。


帰ってくるなりいきなり変わってしまった姉。

一体どうしてしまったのだろう。


「樹里、熱で苦しいのか・・大丈夫か」


と、闇さんが二階にあがろうと動き出す。

俺はとっさに闇さんの前に立ち、止める。


「今話しかけるのは逆効果ですよ。」

「?・・そうなのか。」

「はい。」


闇さんはしょんぼりしたかと思うと、ナイロン袋の中にガラスのちっさい破片をいれ、その上からまたナイロン袋を重ねる。


「どうして樹里は怒っているんだ? あんな雰囲気ではなかっただろう・・・、会ったのが二ヶ月前・・・何かあったのか?」

「知らないです。いきなり帰ってきたらあれでした。」

「やはり、何か病に・・」

「んなわけ無いでしょ。」


やっとまともになったかと思ったらすぐにおかしくなっていく。

またまた大きな溜息。


「運が逃げるぞ。」

「・・・ほんっとうに、もう逃げてますから。」


でも、少しため息を我慢しようかと心の底から思った。

これ以上、何も起こりませんように。




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