3.
無事、入学式が終了した。
あの後、俺が目立つことはなかった。
闇さんと颯太さんが何か過保護なことをふっかけてこないか不安だったが、流石にそこまで非常識人ではなかったようだ。
安心。
入学式後は教室で集まって、担任の簡単な自己紹介に入った。
「えー、このクラスの担任になりました、望月 瑠依です。今年で教師歴三年目になります。まだまだ経験不足ですが、よろしくお願いします。」
と、若々しい先生と自己紹介した。
身長は俺と同じくらいでひょろりとしている。瑠衣、というキラキラネームに似合わない額縁眼鏡をかけていて、朝髪(朝、起きたてのときのような髪のこと)。
目は鋭く、全てを見据えているようでぞくりとする。
三年目で出せるような風格ではない。それはみんな感じているようで誰も喋らない。
そんな中、そのままの意味で空気を読まない浜辺が声をあげる。
「せんせー! ケッコンしてますか?」
今聞くべきことではないだろ。
空気が冷たいほど固まる。
「・・・・してますね。」
「「うぉぉぉおおっ!!」」
少しだけ空気が緩む。
女子たちから小さい黄色い悲鳴があがる。
「そういったプライベートな質問はあまり受け付けません。では、明日からの予定を説明しますね」
そう言って先生はすぐに空気をまた固く戻す。
そうして、先生は明日からの予定をざっと説明した。
まだ本格的な授業は始まらないようだ。一時間目は学校案内、二時間目はクラスでのレクリエーション、三時間目は身体計測らしい。
「では、今日はこれまでです。では、みなさんさようなら」
☆
家に帰宅する。
入学式であっても家には誰も居ないだろう。
ただいまなんて、小学校三年生から一度も言っていない。
そう思って扉に鍵を差し込もうとする・・・・?
あれ、鍵が開いている。
母さんや父さんは警察官だから、鍵をかけずに出ていくような無防備なことはしないだろう。
じゃあ、空き巣か?
ツーっと、緊張が走る。
気配を消して扉を静かに開け、家に入る。
廊下を忍び足で歩く。
リビングルームが明るい。
静かに扉を少し開け、中の様子を見る。
すぐに緊張がなくなり、大きな溜息がでた。
扉をガラッと大きな音を立てて開ける。
「闇さん・・・・なにしてるんですか。」
「ああ、おかえり伊吹。」
「おかえりじゃないですよ。勝手に家に入って・・・・て、この料理、何ですか?」
リビングはダイニングに繋がっていて、そこに家族の食卓がある。
食卓の上には大量のごちそうがならんでいた。四人家族の俺たちでも見たことのないような量が。
「伊吹の入学式だろう?そして、樹里も。お祝いしないで何がある?・・・・昼食もとってないだろう。」
確かに、今日は午前中で入学式が終わり、お腹は若干すいている。
でも、闇さんが来るなんて聞いていなかった。
「来るなら来るって言ってくださいよ。」
「?普通、来るモノではないのか?」
「はぁーーー・・・・」
闇さんはこういう所がある。少々天然なのだ。
いや、ド天然です。
だから、このことも知らないだろう。
「樹里は友達と入学式の後に食事会に行くようですよ。」
「・・・・・え?」
「だから、先に言ってくれないと困るんですよ。」
闇さんにどよーんとした空気がまとう。
顔にマンガで見るような縦線が入った。
ホントにあるんだ。
少し空気が悪くなってしまって居心地が悪くなった。
そこで、入学式のときにいた颯太さんの事を思い出す。
「颯太さんは?」
「・・・ああ、颯太か。アイツは”飛んで”勤め先に帰った。」
「大丈夫だったんですか、仕事があるはずなのに」
「アイツは今年は二年生持ちだから副担任に午前中は任せたようだ。」
「・・・・」
「午後から副担任と交代するっていうことで。なんせ、駅伝部の顧問だからな。部活に出なくて良いのなら午前中くらいは喜んで任されたんだろう。」
颯太さんは駅伝強豪高校の顧問をしている。
その高校の顧問は生徒と一緒に10キロのランニングをしてから練習に入るのが伝統となっているらしい。
そのため、駅伝部顧問を避けている教師は多い。
颯太さんは竜人持ち前の身体能力のおかげで赴任からずっと駅伝部顧問をしている。
それを活かして(悪用だな)、俺の入学式に来たということだろう。
またまた、大きな溜息が出る。
「ため息ばかりつくな。運が逃げていくぞ。」
「もう、逃げてますよ。」
「よし、食べるか。二人で」
俺の返事はキレイに無視され、強制的に椅子に座らされる。
目の前には大量の食事が。
「・・・・無理でしょ」
「なに、伊吹は成長期だろ。食べないと大きくなれないぞ」
「十分大きいですよ」
そういいながら、いただきます、と二人で言い俺はでっかい唐揚げを箸でとる。
ざくっと、いい音がなる。その瞬間じゅわっと肉汁があふれ出す。
闇さんの料理はとっても美味しいので、そこまで嫌ではないというのが本心ではある。
余ったら夜に回したら良いし、母たちも喜ぶだろう。
そういったことを考えながら唐揚げを食べていた。
「食事の時くらい、親のことを思うのはやめたらどうだ」
「え?ちょっと非人道的なこと言わないでください。」
「そういうことじゃない。まずは、自分の事を大切にしてほしいということだ。」
「大切にしてますよ、してなかったら、闇さんに訓練なんて申し込みません。」
親のことを考えないよりは、親孝行するほうがマシだろう。
それに、俺は自己中心的だと自分の事を評価している。
竜人のことがバレなければ、どんなことだってする。
普通に生きたいという願いを叶えるためには、友達なんて作らない。
誰とも話さないし、迷惑なことははっきりと言うだろう。
「闇さん、それに颯太さんにも言っておいてください。あなたたち目立つので俺の学校に来ないでって。」
「・・・!?」
ガーン、と言うような効果音がなりそうなほど口をあんぐりと開けて闇さんは固まる。
「っ・・・・何故!?」
「目立つからって言ったでしょう。俺は普通に過ごしたいんですよ」
といいながら、目の前にあるでっかいオムライスにしゃもじをいれ、自分のお椀に盛る。
「それと関係あるのか・・・?」
「ありますよ。あなたたちと親族だってバレたら・・・大体、どうなるか想像つきますよね?ただでさえ托卵とかなんだとか言われてるんですから。」
俺は椅子から少し立ち、食べかけのオムライスの入ったお椀を持って食卓の真ん中にドンッと鍋のまま置かれているカレーをオムライスの上にかける。
オムカレーだ。
「托卵だとっ!? そんなこと、俺の妹がするわけがない!!」
「はいはい、知ってますから。だけど、竜人の子だからこんなに違うんですーなんて言えないでしょ」
「托卵と言ったのは誰だ!?俺が●ろしてやる・・・・」
「・・・・」
食卓をだんっとたたき、立ち上がる闇さん。
さっきから全然食べていない。
そんな闇さんを無視して俺はすぐ横に置いてあるマグロのお寿司をパクッと頬張る。
洋なのか和なのか、まとまりの無いメニューばかりだ。
しかも、子どもの好きな食べ物ランキングにランクインしそうな料理ばかり。
「で、そういうことがあるから、あんまし目立たなくないんですよ。」
「っ・・・・分かった。なるべく控える。」
ああ、ダメだ。この人達のなるべくは、常識人で言う迷惑な範囲を容易に超えていく。
だけど、これ以上言っても無駄だと思い、俺は黙ってジャガイモの冷静スープに口を付ける。
品数が多すぎる。
そう思いながら黙々と食事をつづけた。