2.
一旦教室で集まってから、体育館へ移動し、入学式が始まる。
さっきまでずっとわめいていた浜辺もおとなしくなっている。
顔がこわばっている。少し緊張しているようだった。
という俺も心臓はバクバクとしていた。
竜人であることを隠し通さなければならない。
ここで下手をしてはいけない。
失敗してはいけない。
術を出してしまうかも知れない。
闇さんに教えてもらったことが無駄になるかも知れない。
という思いが頭の中をぐるぐると駆け巡る。
と、そのときヒヤッとした冷たい感触が胸元にあった。
ひゅっ、と、その瞬間心臓のバクバクとした音が静かになった。
冷静になれ、俺。
大丈夫、今までだって見せずに上手くやり過ごせただろう?(小学生の時はたまに竜巻起こしてたけど)
出してしまっても、あの頃と同じように俺の力だとバレなかったらセーフなんだ。
そうそう、あの時だって騙せと通す事ができた。
うん、大丈夫。
そう思った時、俺の前に立つ人が歩み始めた。
一年三組が体育館へ入場していく。
拍手に包まれる。
そのなかで、俺は目立つ人を見つけてしまった。
「な、んで・・・・・?」
思わず、小声でつぶやいた。
観覧席には母の代わりに来たのであろう、闇さん、そして闇さんの一つ下で、母さんの兄である颯太さんがいた。
颯太さんは薄い水色の髪をしていて、光の入り方によっては銀色に見えることもある。
長くてストレートの髪形。さらさらしていて羨ましい。その髪を高い位置で一つに結んでいる。
身長も闇さん同様に高く、180㎝。
細マッチョといえる体型をしている。もちろんイケメンである。爽やか系の。
教師をしていて、よく生徒からラブレターをもらってくるらしい。
その理由にはイケメンなだけではなく、闇さんとはちがって、コミュニケーション能力に長けていて、明るく、例えるならば学園モノのマンガで出てくる陽キャのような性格もあるだろう。
そんな颯太さんと会うのはカレコレ二年ぶり。
颯太さんの姿がそこにあることに驚いた後、ふと思った。
仕事、どうしたの?
中学校教師を務める颯太さんはもちろん今日も忙しはずだ。
なんで俺の入学式にわざわざ?
と思いながら颯太さんをちらっと見ると、グッドポーズをしてくるではないか。
いや、目立たないでください。ただでさえ、その容姿で十分目立ってますから、お二人とも。
高身長な大人が真ん前の席に座っているだけで、十分目立つし、邪魔だし、迷惑だろう。
俺の親族だとバレないようにしたい、と心の底から思った。
体育館のステージ上にひな壇が設置されていて、そこに人数分の椅子が並ぶ。
おれは「やまだ」だから、一番後ろの、高い位置に座ることになった。
完全に目立ってるな。
俺は竜人の血が濃いだけあって小六三学期の段階で170㎝ほど身長があるから、頭一つ飛び抜けてる。
しかも、目が赤いし。
保護者の視線が俺に集中しているのをはだで感じる。
「新入生、呼名、一年一組――」
新入生呼名がはじまる。
やっと視線が離れるのを感じる。
「森井武、」
「はいっ」
「山田伊吹っ」
「はい。」
山田という平凡な名字にここまで感謝したことは今までにはなかった。