13.
「ぐぉおおえぇぇ・・・」
「おいぃ・・・いぶきぃ。大丈夫かぁ?」
「おぇえええぇええっ・・・」
盛大に、酔った。
空を飛ぶことか歩くことを移動手段としてきた俺にとって、バスは初めての体験だった。
まさか、こんなに酔うとは・・・・
「あーあー。取りあえず、これ舐めときな。」
と、東雲(覚えたぞ!!)が後部座席から俺に梅干しをくれる。
なんで梅?と思いつつも貰ったからには、と口に含む。
「あ・・・・」
すこし気持ち悪さが治まった。
「もーすぐで着くから頑張れよ。」
それだけ東雲は言うと、先生を呼んでくれた。
先生は面倒くさそうにポリ袋をもってやって来た。
俺にポリ袋を託すと、さっさと先頭座席へと戻っていった。
浜辺が背中をさすってくれる。
ううう、気持ち悪い・・・
意識がもうろうとする。
・・・・
ひゅっと、気を抜いた瞬間、バスが浮いた・・・・・
あああああああ!!!
気持ち悪さで術の制御が出来ていない!!
アセルアセル。
と、その時、俺の胸元の赤い石が小さく光った。
その瞬間、バスが着地した。
ほんの二秒ほどの出来事だったので、ざわつくバス内の生徒たちは誰1人気がついていなかった。
あー、よかった・・・と、安心しかけたとき、さっき浮いた事によって酔いが絶頂まできてしまったようだ。
俺は激しくリバースした。
☆
「ふう・・・」
やっと到着し、班ごとに解散することになった。
俺のせいで俺たちの班はまだ出発することが出来ていなかった。
酔いが治まってきた。
リバースしてしまったときには、浜辺に迷惑をかけてしまった。
とっても、申し訳ない気持ちでいっぱいになってきた。
「申し訳ない・・・俺のせいで・・・」
「なぁに!!気にすんな!! いぶきって、よく考えたら小学生の頃はほとんどイベント事に参加していなかったから、バスに慣れてないんだろ?」
「え・・・? 伊吹君って修学旅行に行ってないの?」
眼鏡の直宮が驚いて言う。
「あー・・うん。俺、体が弱くて・・・」
嘘である。
闇さんに稽古して貰うまで竜人の力が安定していなかったので、いつ暴発するか分からない。
なので、俺は修学旅行と林間学校は休んだ。
社会科見学や校外学習を行っていた低学年のころは、イベント事に興奮して前日から竜人の力を暴発してしまっていたのでやむを得ず休むことになっていたのだ。
ちなみに、暴発していたところは母さんにしか見られていないので、父さんや姉さんが俺に対してどう思っているのかは知らないが、きっと不幸な子って思われているのだろう。
だから、今日の遠足はかなり楽しみだった。
初めての、遠足なのだ。
それなのに、俺のせいで・・・・
と、どんどん気持ちが落ち込んでいく。
そのとき、東雲がぽんっと俺の肩に手を置いた。
「まあ、元気になってよかったよ。無理すんなよ。」
「・・・時間を無駄にしてしまって、ごめん。」
「気にするなよ。伊吹が元気じゃなかったら、俺たち楽しくないぜ?」
と、班員がうんうんとうなずく。
「今から楽しみ尽くそうぜ。・・・動いても大丈夫そうか?」
「あ・・うん。ありがとう。かなりよくなったから動けそう。」
「よかった。」
東雲・・・イケメン過ぎる。
みんなの優しさに感動し、つい涙が出そうになる。
あー・・酔ったせいで心の余裕がなくなっている・・・
「ええ? いぶきぃ、泣いてる!?」
「泣いてねーよ、」
浜辺のからかいで涙が引っ込む。
俺はよしっと立ち上がり、
「うん、いけそう。」
と、班員の顔を見ていった。
浜辺は満面の笑みになり、
「よし!!じゃあ、楽しもうぜぇ!!」
と、拳を振り上げて大きく叫んだ。
かなり、目立った。
だけど、その明るさにも今日はついて行けそうなぐらい、俺は興奮していた。
東雲も笑っている。
女子2人も安心しきったようで、安堵の笑みを浮かべている。
班に恵まれてよかった。
酔いを忘れるほど幸せな気持ちに包まれた。