12.
家に帰ってから机に押し込んだプリントを引っ張り出してくる。
俺としたことが、バス遠足の存在を忘れてしまうなんて・・・
と、自分の失態に反省しながらプリントを見る。
「えーっと、
4月30日 学校集合。
場所・○○ランド か・・」
バス遠足らしく、小規模な遊園地に行くことになっている。
遊園地なんて行ったことがないからわくわくしている自分がいる。
幼いな、と思いつつ、持ち物欄に目をやる。
「持ち物、雨具、筆記用具、お小遣い3000円、おかし200円分、ティッシュ・ハンカチ・・」
と、ここまでは良いのだが・・・・・
「お弁当・・・・か。」
家族共通のカレンダーに目をやる。
その日は父さんも母さんも仕事だ。当り前なのだが。
母さんたちは毎日くたくたになって帰ってくるから、お弁当まで任せるのは気が引ける。
かといって、闇さんや颯太さんに来て貰うと面倒な事になる。
母さんにはまだバス遠足のことは伝えていない。
仕事柄、ご近所付き合いやママ友というものもない母さんに(もともと、関係を持とうとしない)遠足のことが伝わることはないだろう。
よし、この日は俺がお弁当を作ろう。
一つの問題を解決し、俺はぐちゃっとプリントを机に押し込んだ。
☆
遠足当日の早朝。まだだれも起床していないなか、こっそりとラップにおにぎりを包む。
こったモノを作りたかったのだが、姉さんが起きてくるのが異様に早いので、これくらしかできない。
赤じそおにぎりと、冷凍唐揚げを入れたおにぎり二つを作り、カバンの中にぽいっと入れた。
任務完了。
俺は、又コソコソと二階の自室へと戻っていった。
☆
いつも通り、学校に行くふりをして遠足の準備をした。
普段より少し早く家を出ないといけなかったが、運良く父さんと母さんが早めに出て行ってくれたから、変に悟られずにすんだ。
学校へ急ぐ。
道中で浜辺とばったり遭遇した。
「お!!おはよう!!いぶきぃぃいい!!」
「おはよう。朝からハイテンションだな。」
「あったりまえだろ!!今日は遠足だぜぇ!!」
「・・・小学生か。」
と、俺は冷静を装うが、内心初めての遊園地にわくわくが止まらなかった。
学校には大型のバスが止まっていて、それをみると更に心が跳ね上がった。
浜辺とわいわい話していると、同級生が話しかけてきた。
「なあ! 今日はよろしくな。」
「・・?」
マッシュベースのおしゃれな短髪ショートヘア、よく焼けた肌が健康感を出している、そんな爽やか系男子が話しかけてきた。
「えっと・・・誰だっけ?」
とつぶやいた瞬間、浜辺にバシッと背中を叩かれた。
「おいっ!! 今日は班で行動するからって事前に話し合いしただろっ!?」
「・・・そんな気もする。」
事前に班で話し合っていた。それは覚えているが、人の顔まで覚えていない。
「・・・で、誰?」
「ふっ・・こんなに清々しく忘れられてるなんて・・・」
「あ、ごめん。」
「いいよ。俺は東雲 拓真。よろしくな・・・って、この挨拶も二回目だけど。」
と、ニカッと笑ってみせる東雲。
ああ、爽やか系だ。なんでこんな人を忘れているのだろう、と思い申し訳なくなった。
そう思っていると、浜辺が恐る恐る聞いてきた。
「・・・もしかして、残りの班員も覚えてねぇのか?」
「え、そうだが。」
「そうだが、じゃねぇよ!! 今、おさらいするから、頭に入れとけよぉ!!」
と、浜辺が1人の女子を指差した。
ショートヘアーの元気系。その人は戸井崎 蘭さんっていうらしい。
「忘れそう。」
「忘れんな。で、次。」
と、戸井崎さんの隣を指差した。
サラストの長髪黒髪の清楚系女子。赤い縁の眼鏡をかけている。
「直宮 凉香さん。ね、覚えた? 自己紹介これで三回目だぜぇ・・?」
「あー・・・うん、・・・・たぶん。」
「はあああああああああああーーーーーー」
浜辺が大きくため息をつく。
「昔っからそうだよなぁ。勉強のこととか、変な雑学とかすぐに覚えてくんのに、人の名前と顔を覚えるのは苦手だよなぁ・・・」
「あー、言われてみればそうかもしれない。」
「・・・いぶき、モテる顔してるんだから、そこんとこ気を付けろよぉ・・」
どういうことかよく分からないが、名前を覚える努力はしようと思った。
実際の所、クラス二十五人中、浜辺しか覚えていないのだ。
・・・・あれ? 浜辺の名前ってなんだっけ・・・
まあ、いっか。
そうこうしている内にバスに乗り込む時間となった。
バスの座席は俺たちは真ん中あたり。
班で固まって乗るようだ。
隣は浜辺。よかったよかった。