9.
入学式からかれこれ二週間。
授業も始まり、中学校生活が本格的になってきたな、と感じた。
六時間授業になり、闇さんや颯太さんにも会わなくてよくなったから、とても嬉しい。
「なあなあ、いぶきぃ!! 部活、何にすんのー?」
来た。うるせぇ浜辺。
二週間で浜辺のうるささでクラスから孤立するかと思っていたが、ノリいいやつとして捕らえられていてクラスになじみまくっている。
なんなら好かれている。
よく分からん。
「特に決めてない。今日からの仮入部で決めたい。」
「えー!? これがいい!!っとか、候補ねぇの!?」
「・・・入るなら、文化部かな?」
「は・・・?」
浜辺が静かになった。
雪でも降りそうだ。
「どうした?浜辺。」
「えっ・・・は・・え? お、お前・・・音痴だし、絵は下手だろ?裁縫で手を143回針で刺してたじゃねぇか?」
「クソだな。おまえ。」
「心配してんだぞ!? いぶき、彫刻刀で手を五回切って三針縫ってる傷あるだろっ!?」
「大声で言うな。」
残念なことに、身体能力と引き換えに俺はとことん不器用だった。
竜人の特徴というわけではなく、ただ単に、俺の個性で、不器用なのだ。
だけど、ここまで文化部にこだわるのには理由がある。
俺の竜人の力を引き出す機会が少ないからだ。
小学校の時、運動中に術を押さえる集中力よりも運動に対する集中力のほうが高まってしまい、人間離れした行動を何回もしたことがある。
たとえば、三メートルジャンプとか、200キロストレートとか。
「・・・いぶきを文化部に入れると、命に関わる。」
「大げさだろ。」
「大袈裟じゃねぇよぉ!! 中学校では電動糸のこぎりとか、使うんだぜ!?死ぬぞ、マジで。」
「・・・・」
否定出来ない。
「よぉし!!じゃあ、オレの仮入部に付き合え!!それでも運動部が嫌なら、神社参りしてから文化部に入れ。」
「クソだな。」
「いぶきのことを心配してのことなんだよぉ!!じゃ、決まりだな。」
半ば強引に決まった気はするが、俺の心配をしてくれているので悪い気はしない。
浜辺はうるさいが、優しいのだ。
「んーー三日間あるだろ・・・じゃあ、サッカー部に行ってみようぜ!!」
「サッカーか・・・」
サッカーには苦い思い出があった・・・・
☆
「おい!! 腕折れたんじゃないか!?」
「ううううううう・・・・」
やっちまった。
サッカー部の仮入部に来てみたのだ。
サッカー部では、まず、1人ずつゴールシュートをしてみようということになったのだ。
で、俺は力の入れ方をとにかく調節しようと思い、浜辺や他の人のシュートをじぃっと見ていた。
でも、見るだけではつかめないコツというものがあるのだ。
俺は、力を抜いて、体の力も抜いて、蹴ったつもりだった。
ズドオオンンン!!!
すっごい速さでゴールまで飛んでいった。
キーパーは今までの一年生のシュートを見て舐めていたのか、しっかり俺のボールを見ていなかった。
「アブねぇ!!」
浜辺が叫んだ時にはもう、キーパーの腕にサッカーボールが直撃していた。
腕をおさえてうずくまるキーパー。
俺はすぐにキーパーの元へ駆けつけた。
「すみません、大丈夫ですか?」
「っ・・・う、うん。た、多分折れてはない・・・・」
よかった、力を抜いていて。
その後、キーパーは保健室に連れて行かれ、病院に直行だった。
その日のうちに知れたのだが、どうやら重度の打撲だったようだ。
全治二週間ほどらしい。
それを聞いたとき、思わず
「よかったあ・・・」
と、声がでた。
浜辺は
「・・・・運動部でも人を殺すかもしれねぇな・・・・・・」
と、ぼそっとつぶやいていた。
でも、俺の中学校では絶対に入部する必要がある。
だから、何かには入らないといけない。
人を殺さず、自分が死なない部活・・・・
何があるんだ?
と、常人ならば絶対にあり得ない悩みを本気で悩み、浜辺と一緒に頭を抱えた帰り道。
ふと前に、闇さんがいることに気がついた。
久々に出会った。面倒くさい。
浜辺はだれ?という顔をしている。
「伊吹。おかえり。」
「・・うん、ただいま」
「え? いぶきぃ、この人誰だぁ!?」
浜辺はうるさい声で聞いてくる。
「俺の伯父さん。闇さんっていうんだ。」
「変な名前だな。あっ、さーせんっ!!」
浜辺は本人の目の前で思いっきり失礼な事をぶっ放して見せた。
それでも、闇さんはポーカーフェイスなので表情を変えない。
「・・・伊吹の友達か?」
「はいっ!!そうっす!!」
違う。ただの同級生だ。
と、言いたくなったが、一緒に頭を抱えてくれた仲ではあるので否定は出来ないのかも知れない。
「いやあ。聞いて下さいよ!!伊吹の伯父さん、今日、いぶきがねぇ、サッカー部のキーパーを半殺しにしたんすよ!!」
「してない、打撲だ。」
「まぁまぁ、で、いぶきが人を殺さず、自分も死なない部活って何かなぁって思ってるんすよ。」
簡潔に全てを話しきった浜辺。
そんな事言ったら、過保護闇さん発動するじゃないか!!と怒りたくなったが、帰ってきた返答は意外なものだった。
「簡単なことじゃないか。陸上部に入ったらどうだ?」
「「・・・・・・!!」」
浜辺と顔を見合わせる。
それだ!!
人に危害を与えることもなく、自分の力と戦い続ける競技、陸上部。
俺にぴったりじゃないか!!
「よぉし!!いぶきぃ!!明日は陸上部に行くぞ!!」
と、浜辺は俺の肩をぶんぶん揺さぶって言ってきた。
いつもならうざく感じるのだが、不思議と楽しく思えた。
闇さんも、浜辺をみて優しい微笑みをしていた。