番外編 1
私の両親は警察官だ。
物心ついた頃から、父さんは仕事でほとんど私が起きているときには家に居ない。だから、母さんと二人っきりの時が多かった。
私はお母さんが大好きだった。
優しくって、私の全てを認めてくれるような存在だった。
そして、弟、伊吹が生まれた。
あるあるネタだったら、ここで弟につきっきりのお母さんをみて、弟に嫉妬するという流れだと思うけど、お母さんは変わらず私達2人に愛情を注いでくれた。
弟は私ににてなくて、普通の「人」のような髪色をしていた。
黒色の、とてもきれいな、私にはない静かさを持っていた。
目の色も吸い込まれるような漆黒。私の奇抜な色とは真反対だった。
でも、似ていなくても、私は伊吹のことが可愛くてたまらなかった。
そう、可愛くて、たまらなかった。
伊吹が四歳、私が七歳になるとき、伊吹の目の色が赤色に変わった。
怖い、殺される、逃げろ、と私の全細胞が訴えかけるような色だった。
目の色が変わったとき、お母さんはとても焦っていた。
病院に行っても異常は見られなかった。
目の色が変わってから二ヶ月後。
急に今まで姿を現さなかったお母さんの兄弟たちが毎日のように家に通い詰めるようになった。
お母さんの兄弟たちは私やお父さんには見向きもせず、伊吹ばかりを見ていた。
この状況を上手く飲み込むことは出来なかった。
学校から帰ると、毎日闇さんか颯太さん、もしくはその2人がいる状況。
お母さんに話しかけたくても、その人達の圧が強すぎて近づくことは出来なかった。
怖かった。
私は、とても怖くなった。
このまま、伊吹にお母さんが奪われてしまうんじゃないかって思った。
闇さんや颯太さんみたいに、私を視界に入れなくなるんじゃないかって思った。
私はその日からお母さんに見てもらいたくて毎日勉強を頑張った。
学校でも、いつでもリーダーを率先して務めた。
お母さんが仕事復帰した後、弟の面倒も見た。
お母さんの代わりに家事もした。
児童会長にもなった。
中学校も難関校に受かって見せた。
お母さんは褒めてくれた。
無理しなくて良いよって言ってくれた。
たまには気休めも大切だよって、色々なところに連れて行ってもらった。
お母さんが戻ってきたって安心した。
けど、伊吹にあって、私にないものはまだあった。
お母さんの兄弟の関心だ。
闇さんは私にも多少は優しくしてくれた。
だけど、颯太さんは私に冷たい態度だった。伊吹とは、楽しそうに話しているのに。
伊吹にあって私にはないものがいつの間にか許せなくなっていた。
私は颯太さんに興味を持ってほしくて、伊吹にどんな話をしているのか聞いた。
颯太さんの好物を聞いた。
颯太さんがどんな人か聞いた。
颯太さんが家に来たときには、料理を振る舞った。
一口を口をつけてくれなかった。
颯太さんが伊吹と話しているときに間にはいった。
颯太さんは嫌そうな顔をしてこちらを睨んできた。
うまくいかない。
小学校でも伊吹はずっと目立たないキャラ。
私は中学校で生徒会に入っていた。
伊吹はテストの点はそこそこで、勉強はあまりしてこなかった。
私は、満点を取ることなんて朝飯前。勉強時間を惜しんだ事なんてなかった。
こんなに頑張っているのに、颯太さんを手に入れることはできない。
悔しくて、たまらなかった。
でも、態度に出すと嫌われるのなんて分かっていた。
だから、「良い娘」を演じて、颯太さんに好かれようと思った。
そのまま、中学校を卒業目前になった。
伊吹が、難関中学校に受かった。
あの、勉強なんて全くしてこなかった伊吹が。
私も難関高校を受けて、受かっていた。
そのときには颯太さんは何も言ってくれなかったのに、伊吹には、頭を撫でて褒めていた。
入学式、お母さんもお父さんも入学式にはこれなかった。
これは、分かっていた。チャンスだと思った。
私は新入生代表で挨拶をすることになっていた。
伊吹と、入学式がかぶった。
今まで、伊吹のイベント事には毎回行っていた闇さんと颯太さん。
私が新入生代表で挨拶するって知ると、私の方に来てくれるんじゃないかって思った。
私と、伊吹の戦いだった。
だれも、来なかった。
あ、だめだ。
私は思った。
真面目だと、振り向いてもらえないのかな。
じゃあ、
変えちゃえ。
入学式が終わってからすぐに髪を染めた。
全てを開放させた。
制服をきっちり着るのが馬鹿馬鹿しくなった。
私が、ぐれれば、颯太さん、きっと見てくれるよね?
颯太さん、こういうキャラだから、私の事好きだよね?
伊吹の陰気くさいキャラなんて、颯太さんに似合わないよ。
ねえ、私だけを見てよ。
伊吹にあって、私にないものなんて
許されないんだから。