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運命の選択

last Kiss

作者: 人格破綻者

シリーズ物第一弾

今日僕は選ぶ

愛しい君との再会を、あの日伝えたかった事を伝えるために


「お待たせ!久しぶりだね!」

朝日に照らされて変わらぬ笑顔で笑う君を見て胸が痛んだ

「…うん。久しぶり」

久しぶりの再会に水を差したくなくて無理やりに笑顔を作る

僕は今ちゃんと笑えてるのだろうか

そう不安に思う間も無く彼女は僕の手を取り笑顔で告げた

「開園時間に間に合わなくなるから行こ!

まずは約束の遊園地ね!」

そう言っていつものように僕の手を引き足早に駆け出す君

僕といる時間を少しでも満喫しようとしてくれているようで安心した

僕は置いていかれないように小走りで着いていく

そのいつものやり取りが堪らなくて、泣きたくなるくらい嬉しかった




「とーうちゃーく!

何から乗ろっか?」

無事開園と同時に乗り込んだ遊園地

君のわくわくが抑えきれない顔に僕も釣られて自然と笑顔になる

「君の好きな物からでいいよ」

「ほんと!?

じゃジェットコースターでしょ、コーヒーカップでしょ、バイキングも乗りたいし、空中ブランコも乗りたいし…」

指折り数えながら次々と上げていく乗り物の名前に僕は思わず吹き出した

「あはは!

時間はたくさんあるんだからどうせなら全制覇する?」

冗談のつもりで言った僕の言葉は君の輝く笑顔に肯定された

「いいの!?

そしたら端から全部乗っていこ!」

そう言ってまたもや君は僕の手を引いて歩く

僕は今更冗談だったとも言えず、彼女の為すがままに従った

それでもきみの楽しそうな姿が可愛いくて愛しくて

そんな様を見られるだけで満足だったから明日僕の足が筋肉痛になろうがどうでもいい事だった


なるべく明日の事は考えたくなくて無理やりに蓋をして彼女と共にアトラクションを全力で楽しむことにした


コーヒーカップでたくさん回って2人でふらふらになって笑ったり、ジェットコースターで横並びで叫んだり、怖いものが苦手なのにお化け屋敷に勇んで入って行って半泣きになる君

全てが愛おしくて、改めて君を好きだと実感した


君の僕より小さい手

なのにいつだって僕を引っ張って行く力強い手

君の綺麗な焦茶の瞳

いつだって僕の事を真っ直ぐに見つめる瞳

君の心底楽しそうな笑顔

弾けんばかりに周りを照らす花火みたいな笑顔

全てが愛おしい

僕の大好きな宝物

大事に箱に閉まっておければ良かったのに




「はー、楽しかった」

夕陽に照らされながら満足そうに笑う君

「楽しかったね…」

間も無く今日が終わってしまう

楽しかった今日が

大好きな君と過ごせる大事な今日が終わってしまう

それが辛くて自然と僕は俯きがちになる

そんな僕の手を引いて君は明るく言った

「最後に観覧車乗って花火見て帰ろっか!」

「そ、うだね…」

帰る

その単語が今日の終わりを示唆していて思わず言葉に詰まりかける

そんな僕に気付いてか、気付かずか彼女は構わず僕の手を引いて観覧車に向かって行く


観覧車で向かい合わせに座り徐々に見晴らしの良くなって行く景色に君は上機嫌で窓に張り付く

そんな君を見て水を差すのは心苦しいけれど、話をしなければと僕は意を決して顔を上げる

「ねぇ!私たちの街もここから見えるかな?」

そんな僕の決意を遮るように君の明るい声が狭い車内に響く

ガチガチに緊張していた僕は咄嗟に何を言われたか理解出来ずしどろもどろに答える

「えっ…と、ここは隣町だから、僕らの街、は見える、かな?多分、まだ見えないかも…」

「そっかぁ。

早く見えないかな!

あ、でもあれあそこの大きい建物!

あれ私たちの学校じゃない?」

「え?どれ?」

いつの間にか君のペースに巻き込まれて僕の決意は霧散し、君と思い出の場所探しを始めてしまった


毎朝待ち合わせしていた2人の家の中間の駅のロータリー

たくさんの出来事を共有しながら通っていた学校

帰りがけ、毎日会っているのに名残惜しくていつも2人で話していた公園

それでも尽きぬ話を続けながら一緒に帰った駅

懐かしくて、切なくて、話しながら泣きそうになった

それでも楽し気に話す君に僕は耐え切れず話を遮った

「ごめん!

話したいことがあるんだ…」

そんな僕を見て君は今日初めて笑顔以外の顔を浮かべた

「知ってる」

そう言って困ったような悲しいような複雑な色をのせた笑顔を浮かべて話す君

普段あまり見ない顔にどきりとした

「知ってるけどお願い

花火を見るまでは笑って過ごそ」

そう言って笑う君が儚くて

まるで消えてしまうんじゃないかと思わず君の手を両手で握ってしまった

そんな僕の様子に君はきょとんとした後、いつものように笑った

「ふふ

いつもと逆だね」

そう言って嬉しそうに笑う顔は、いつもの笑顔なのになぜかいつも以上に僕の胸を締め付ける


なんとなくその流れのまま手を繋いで観覧車を降りた

降りる頃には辺りはすっかり陽が落ちて暗くなっていて、雲一つない空に花火が綺麗に見えそうで安堵した


2人並んで夜空を見上げていると特徴的な音と共に夜空に花が散った

色とりどりの光をキラキラした瞳で受け止める君

君の瞳に映る花火はこれまで生きてきた人生の中で1番綺麗だった

そしてこれから生きて行く長い人生でもこの光景以上に綺麗な物は見れないだろうとも思った


花火そっちのけで君を見つめていたら不意に君も僕の方を向いて何事か叫んでいる

けれど花火の騒音に掻き消されて何を言ってるのかわからない

ずっと口をぱくぱくさせている君が可愛いくて思わず吹き出してしまった

そんな僕に怒った君が全然痛くないのにグーでぽかぽかと殴ってきて、2人で戯れている間に花火は終わってしまっていた


「あー!

終わってる!

途中から全然見れなかったのにー!」

そう言っておかんむりな君のために帰りがけのコンビニや大型ディスカウントストアなどを駆けずり回って季節外れの手持ち花火とバケツを買った

数年振りに思い出の公園に行き2人で花火の準備をする

バケツを持ち、水道に向かいながら久しぶりの公園を見回す

あの頃からほとんど変わらないその公園

楽しい事も多かったが最近は辛いばっかりですっかり足が遠のいていた

この公園でまた君と過ごせるなんて夢のようで、少しでも君と長く過ごしたくて勢いよく水をバケツに流し入れた

勢い良すぎて足元をびしゃびしゃにしながら戻った僕を見て君は笑い転げていた

そんな姿すら愛おしかった


2人で封を開け花火に火をつける

君が花火を振り回したり、それにやり返したりとはしゃぎ倒すこの時間が、まるで昔に戻ったようでたまらなく幸せでじわりと目元が濡れてきたのを煙のせいにした

きっとこんなに幸せな時間はもう2度と過ごせない


散々はしゃぎ回り、最後の締めに線香花火に火をつける

自然と2人で至近距離で向かい合う形になった

小さな美しい火の玉を見つめながら僕は今度こそと口を開く


「さっきの話したかった事、話してもいい?」

「…うん」


真面目な顔で頷き返す君に安堵と緊張で手が震えないようにしっかり手を握りしめる

その瞬間落ちてしまった線香花火がまるで終わりの合図のようだった


「まずは今日来てくれてありがとう

こんな機会を貰えて凄く嬉しかった」

そう言って頭を軽く下げる僕に君も慌てて返す

「私も会いたかった、から、嬉しかった」

徐々に声を小さくして俯く君に僕は言葉を続ける

「君にずっと伝えたかった事があるんだ」

緊張で喉がカラカラに乾く

唾を飲み込む音が頭にやたらと大きく響く

昔の後悔が嵐のように押し寄せてきて涙が出そうになる

けれど僕に泣く資格なんてない

「今日凄く楽しかった、幸せだった

あの日僕が遅刻しなきゃずっとこんな日々を君と過ごせたのかなって考えてた

僕があの日遅刻したから君は…」

「やめて!」

君の叫ぶような声に僕の贖罪は遮られた

それでも僕は耐え切れず君と同じくらいの声量で返してしまった

「でも!

僕が遅れなきゃ君は死ぬ事はなかった!」

僕の言葉に君の瞳がみるみる潤んでいく


あの日いつものように2人の家の中間の駅で待ち合わせをしていた

以前から約束していた遊園地

やっとお互いの予定の擦り合わせが出来て君はとても楽しみにしていた

けれどその日、僕の乗っていた電車は車内点検で遅れてしまった

君に遅れると謝罪をして君からは面白スタンプが返ってきた

いつも通りの日常だった

その筈だった

目的の駅に着いて電車から急ぎ足で出て

いつも通り君の元に向かう

君のところへ行く筈だった

なのに僕は君に会えなかった

いつもの待ち合わせ場所には大破した車が2台と警察の車がたくさん来ていて、事故があったんだと野次馬から話を聞くまでもなく分かった

こんな大事故があったのに君からの連絡はなくて

嫌な予感がして僕は慌てて君に連絡した

何度も何度も電話をかけても繋がらず嫌な汗がだらだらと出てきて

プログラミングされたばかりの機械のようにひたすら同じ行動を繰り返していた

僕のおかしな様子に気付いた警察の人に話しかけられて君がやっと事故に遭ったと知った

警察に促されて、言われるがまま彼女の家に電話して、病院に行ったけれど親族以外は君に会えなくて

僕が会えたのは数日後、綺麗に整えられた棺の中、花に埋もれた君だった


あれから僕はずっと考えていた

遊園地に行きたいと言った君に場所を指定したのは僕だった

そもそも僕がもっと早く家を出ていれば

君は開園から行きたいと言っていたのを疲れるからと時間をずらした

君の言うことを聞いていれば


全部全部全部全部全部

辿り着く答えは一つだった


「君は僕のせいで死んだんだ」

その言葉を言い終わるか終わらないかの瞬間に僕は君に張り倒された

ビンタなんて生優しい物ではなく間違いなく張り倒された

彼女の全身を使った渾身の一撃に僕は悲劇のヒロインのように頬に手を付いた

驚きに目を見開いていると彼女の張り裂けんばかりの声が届く

「馬鹿な事言わないで!

事故だったのよ!

あなたのせいな訳ないじゃない!」

そう言って彼女の瞳のダムはとうとう決壊した

「ばか!ばかばかばか!ばかぁ!」

泣きながらずっと僕に向かってばかと叫ぶ

気丈な君は滅多に泣くことはなかった

そんな君を泣かせてしまった

慌てた僕は咄嗟に抱きしめてしまった

その行動に驚いたのか罵倒は止まった

けれど鼻を啜る音と胸元がじんわり濡れて行く感覚は消えなくて、僕は焦って口を開いた

「今日は君に謝りたくて呼んだんだ」


死んだ大切な人に会わせてくれるスマートフォン

たった一つトークアプリが入っているだけのそのアプリには2種類の機能があった

1つ目は顔を合わせる事も触れ合う事もできないけどそのスマホを使ってずっとトークアプリで話せる機能

2つ目は日時の指定をして相手から返事が返ってくれば1日だけ会える機能

僕は今日、彼女に会って彼女の恨み言を聞くために呼んだのだ


僕の言葉を聞いて彼女の鼻を啜る音は止んだ

そして勢いよく僕の胸から顔を上げた

その顔には明確な怒りが浮かんでいて、彼女の罵倒を受ける覚悟で僕は身を固くした


「あなたは何も分かってない!」

予想外の言葉に僕はまたもきょとんとする

「今日あなたが私を呼んでくれてどれだけ嬉しかったか!

死んでしまって悲しかった!苦しかった!辛かった!

もっともっとたくさんやりたい事だってあったのに!

だけど!そんなのどうでも良くなるくらいあなたのことが好きなの!」

一言発する度に彼女はもどかしいと言うように僕の胸を叩く

それはやっぱりそんなに力が入ってなくて痛くない筈なのに凄く凄く痛かった

「あなたのことこんなに愛してるのにどうして分かってくれないの!」

最後に一際強く胸を叩かれた

その衝撃に僕の目からも涙が溢れた

涙と共に君への愛しさも溢れてきてたまらず僕は君をきつく抱きしめた

「ごめん…ごめん!ごめん!!」

君を傷つけてしまった

君を泣かせてしまった

君の愛を疑ってしまった

色んな事への謝罪を繰り返す

力加減をする余裕もないくらい強く抱きしめたのに、文句も言わずに君が背中に手を回してくれたから僕は涙を止める術も君を離す方法も失ってしまった


このまま時が止まればいいのにとドラマみたいな考えが浮かんだ

こんなこと本当に思うのだと泣きすぎた頭でぼんやりと思った

「時が止まればいいのに」

泣きすぎた鼻声で愛しい声が僕と同じ考えを呟いた

「僕も同じ事を思った」

「ふふ。一緒だね」

そう言ってまだ涙で濡れた目を細めて笑う君が何よりも美しくて僕は堪らなくなって更に強くぎゅうぎゅうと抱きしめた

流石に彼女に怒られた


懐かしい話や君にせがまれて僕の近況なんかを話す

話している最中も彼女を離したくなくてずっと抱きしめたまま

彼女も首が疲れるだろうに腕の中から僕を見上げてくれている

きっと彼女も離れ難く思っていてくれている

今度はちゃんとそう思えた


そうしているうちに日が登り始めた

明るく照らす朝日に間も無く1日が終わってしまうのを悟って、彼女を抱く腕に力を込めた

つい恨めしげに朝日を睨んでしまう

彼女はそんな僕に笑って胸元を軽くぽんぽんと叩いた

朝日から彼女に顔を向けると彼女は口を開く


「私がいなくてもちゃんとご飯食べてね

あなた少し痩せたでしょ?

あと私が恋しいからってあんまり泣きすぎないように!

私に心配かけないように規則正しい生活を送ってね」

痛いところを突かれて僕の目が泳いだ

「私がいなくても楽しいことして、人生満喫してね

…でも、ときどきでいいから私のこと思い出してね」

その言葉に泳いでいた目を彼女に戻す

彼女はかすかに震える唇を抑え、泣くまいと懸命に笑顔で話してくれていた


「ときどきなんかじゃ足りないよ」


そう言う僕に君は泣き笑いのような顔で続けた


「ちゃんと長生きして、大往生してね

きっとその頃には他の人と結婚したりしてるかもしれないけど、大往生した後に少しでいいから私に会いに来てくれると嬉しいな…なんてね」


僕は空元気で笑う彼女に視線を合わせて力強く言う


「必ず会いに行く

大往生だからもし僕が呆けてたりしたらまた引っ叩きにきてよ」


そう言ってさっき張られた頬を指さす

彼女は僕の言葉に笑って元気よく頷いた

彼女の体が徐々に透けていく

それが何を意味しているか分かっていても考えたくなくて

離したくなくて先程よりも強く強く抱きしめた


「僕が今後もし新しい恋人が出来たとしても、きっと君以上に好きになんてなれそうもないな」

わざと軽く言った言葉に君は小さく笑う

「嬉しいけど心配になるようなこと言わないで」

「あはは。ごめん

でも本当だよ

君のことが好きなんだ

愛してるんだ」


この胸のうちを全て伝え切るには時間が足りなくて、なんでもっともっと前から言ってこなかったんだろうと後悔した

そんな僕に君の小さな笑い声がまた聞こえた


「ふふ。知ってるよ

あなたはいつだって私のこと全身全霊で愛してくれてた」


君のその言葉にたまらなくなって僕は君に口付けた

久しぶりの君とのキスは嬉しくて悲しくて切なかった

途中から感触が消えていって僕は慌てて君を見つめる

君がほとんど消えかけながら口を開いた


「私も愛してる」


その言葉を最後に君は朝日に紛れて姿を消した

僕は彼女の思い出を反芻しながらただ涙を流すしか出来なかった

泣きすぎないようにと言った君の言葉は今日だけ許してほしい

明日からはちゃんとするから

そう心の中で言い訳をしながら朝焼けの公園で僕はひたすら泣き続けた


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