第7話「最前列」
愛、琢磨、ノアとの再会後、俺たちは予選の準備を進めていた。
「なんだか、さっきは楽しそうだったな。」
「あ、ストームさん。はい、日本にいたころの友人たちと再会できて。」
「スーパーフォーミュラのレーサーさんたちかい?」
「あ、そうっす。」
「この後の予選も見るのか?」
「多分、見ますよ。」
「じゃあ、良い結果出さなきゃだな。」
「はい。」
ヘルメットを被り、マシンのもとへと向かう。
いつかの永野のように、マシンのノーズコーンを触り、今日の好成績を祈る。
実力はもちろん必要だが、結局、結果を決めるのは運だと、自分は考えていた。
だから、こうして、少々の神頼みをするのだ。
「…よし。」
立ち上がり、マシンに乗り込む。
『無線チェック、無線チェック。』
「はっきり、しっかり聞こえます。」
『今日の目標は設けない。お前が決めた目標に向けて突っ走れ。それだけだ。』
「了解。」
日本語の場内実況が聞こえる。
今本当に母国にいるんだ。そう実感する。
『予選開始、予選開始。タイヤを使いすぎるなよ。それと、マシンは壊すなよ。』
「分かってるっす。」
コースインすると、観客席から歓声が上がる。
今回、ファンたちが注目しているのは、俺と、永野の2人だろう。
なんせ、日本人が2人もF1の舞台に立っているのだから。
2009年以降、F1に日本人が同時に複数出たことはおそらくない。
2009年には中嶋一貴、小林可夢偉の2人がウィリアムズTOYOTA(一貴)TOYOTAF1(可夢偉)から参戦していた。
そして、再び、日本人が2人、F1の舞台に戻ってきた。
彼らも優勝する一心でF1の舞台に来た。
かつて、参戦してきた日本人が成し遂げられなかった、表彰台の一番高いところに立つという夢。
それが今、実現されようとしていた。
『カモーン!ヒロキ!2位!、2位だ!』
「よーし!」
ピットレーンに向かうと、トップ3のマシンが専用のスペースに誘導される。
自分は2位で予選を終えたので、2位のボードの前にマシンを止める。
「やったな、ヒロキ。明日のレース2位からスタートだぞ!」
「2戦目でここまで来れるなんて思わなかった!本当に代表感謝!」
土曜日のF1予選セッションが終了する。
20号車 松下 2位
54号車 アンドリュー 14位
松下は表彰台の可能性を残して、日曜日の決勝レースを迎える。