第5話「アップデート」
日本に向かう飛行機の中、代表のストームに次の鈴鹿戦で投入される新型パーツについて説明を受けていた。
「今回、マシンに新しく搭載するのは、新形状のフロントウイングの翼端板、サイドミラー、リアウイングだ。空力に重点を置いたアップデートになる。」
端末に表示された画像を見ながら話す。
「これで期待される効果は?」
「ストレートスピードの改善、コーナーでの姿勢安定だ。」
「俺が鈴鹿で望む挙動になるってことっすね」
「そうだ。母国だからこそ、お前に良い結果を出してほしいからな。このアップデートはお前にだけ投入する。アンドリューは従来のまま乗ってもらう。」
「そうすることで何かあるんですか?」
「まぁ、簡単に言えば、比較だよな。新型パーツつけた松下と従来のものをつけたアンドリューでデータにどんな違いがあるか。」
鈴鹿サーキットに到着する。
すると、グランドスタンドに自分の写真が使われたチームの横断幕を見つける。
「俺もああやって写真に載れるくらい有名な場所まで来れたんだな。」
「お前はもうスーパーフォーミュラにいた頃から有名だよ。」
「嬉しいこと言ってくれるじゃないすか、ストーム代表。」
「実際、スーパーフォーミュラにいた頃からお前には注目していたからな。」
「例えばどんなところに注目してたんですか?」
「そりゃあ、お前のあの危険を顧みないオーバーテイク、予選での一発の速さ、それに注目していたよ。なんなら、惚れていたな。」
「あら、監督、嬉しい♡」
「な、なんだよ。」
「惚れてたって言うから…」
「俺にはもう、奥さんと娘もいるんだからな!」
「別に、狙ってないっすよ。」
そんな会話から30分後。
「ストームさん!このクルマすごい乗りやすい!」
『気に入ってくれて何よりだ。我々の今年一発目の渾身のアップデートだからな!』
タイムを更新するたびに鈴鹿サーキットに歓声が上がる。
フリー走行なのに、今まで参戦してきたレースの中で一番盛り上がっている。
母国ということもあるんだろうな。
午後の予選に大きな期待を残し、しばしの休息をとる。
ここで様々な人たちとの再会を果たす。