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真紅の魔女編(5)

「それが旦那の装甲かよ」

 羅我の黒鋼色の魔装甲に対して、神威の魔装甲は真白であった。

 頭部のフェイスガードが前方に大きく曲線を描いている。

 大柄な神威のイメージに合うゴツゴツしたプロテクターが、素体バトルスーツに合体し装甲となった。

 猛禽類の翼を連想させるマントを羽ばたかせ、両手を軽く広げた。

「行きますよ。アクママン」

「へへっ。ノリノリじゃねぇか旦那。嫌いじゃねぇぜ」

 蛇腹を神威の背よりも高い十字架に叩きつけると、金属音が鳴り響く。

「やはり、只のでっかいオブジェじゃねぇようだな」

「フッ。勿論ですよ」

 ガチャリと十字架の真上に矛。真横から刃が飛び出し剣となる。

「これが僕のデビル・ウェボン、ミカエルです」

『俺、ミカよろしく……』

「おぅ、旦那には世話になってるぜ」

『…………』

『なんじゃ。ぐらびーと違って、ずいぶん暗いのう』

「フフッ。ミカエルは寡黙ですから」

「なぁ旦那、ミカエルって悪魔なのか? 漫画だと天使だろ?」

「フッ……自称、ミカエルですよ。この子は虚言を好む」

 舞姫のグラビディは【食欲】。羅我のリリスは【性欲】。そして神威のミカエルは【虚言】と、人間が生きていく為に必要不可欠な欲求を、仲魔は求めるのだ。


「行きますよッ!」

 振り回す巨大十字架の一撃を蛇腹から、刀にモードチェンジして受け止める。重い。予想よりもはるかに重量感のある一撃で、腕が痺れだす。

 本気で羅我をデーモンとして狩ろうとしている。

「マジか旦那ッッッ! 殺す気かよッ」

「フッ。君のテツヲくんを信じる気持ちが、僕を熱くさせたのです」

 この攻撃を連続で受け続ける事は不可能だ。長引かせても不利にしかならない。

「なろっ」

 足元に突き刺さっている剣を蹴り飛ばすが、神威は風の音を豪快に鳴らし十字架で弾き飛ばす。

「ふんっ」

 神威の豪快な一撃を羅我は受け止められない。手の痺れで完全に防御出来なかった。

 ――斬。

 膝裏を斬られた。体勢が崩れ上を向いた顎を、神威は力強く爪先で蹴りあげる。

 ヘルメット内で顎が碎けた。

 デーモンと違い再生するには時間がいる。少し時間を稼がなければ。

 高く吹き飛ぶ羅我の視界に飛び込むは、老朽化が進み外光が入る天井。

 ――リリス頼む。

 刀から蛇腹へ形を変え、剥き出しになった天井の鉄骨に身体を絡めた。


「……ツ、ェ……強ぇな」

『感心してる場合かや』

 地上でミカエルを構えた神威の周囲に、数本の剣が浮かんでいた。

「降りるの手伝ってあげましょう――華火」

 剣が放たれ、左肩に突き刺さる。

『このままじゃいい的じゃ』

「くそっ」

 ここでジッとして、首を狙われたら危険だ。

 蛇腹をゆるめ壁際に着地する。

「羅我くん。君は変身した姿を恐れている。また理性を失い悪魔化デーモンしたらどうしようとね」

「お見通しかよ」

「やはり君は口先だけで、自分が一番大事なんですよね。ふふっ」

「あッッ!」

 神威の安い挑発。だが本心を見抜かれ、冷静でいられない。

 防御が疎かになり、飛んでくる剣の刃をまともに腹部へくらう。

「首斬るのは、勘弁してあげますよ。偽善者くん」

「神威ッッ! てめぇぇぇ!」

 プッツーン。怒りで視界が真っ赤に染まった。

「リリス! よこせ! 俺に悪魔の力をよこしやがれッッ!」

『あぁ儂もそうしてやりたい。我が主を愚弄するなッッ小僧!』

 二つの意思が一つに重なる。

「そう、それでいい」

 神威はヘルメットの中で薄く笑う。

「コード六六六。神威隊隊長、神威了の権限において一分間、御門羅我の仲魔リリスの封印をとく」

 パチン。指を鳴らした。


「あぎっ」

 世界の色が変わっていく。薄く緑の霞がかかる世界に、一匹の獣は唸り声をあげる。

 顎を拘束する角がゆっくりと外れ、肉体と一体化した外皮骨格型装甲のフェイスカバーが上下に開いた。

 つり上がった目に真紅の瞳が、ギョロリギョロリと獲物を狙う。

「さぁ僕に見せてください。人の理性が、悪魔の本能に打ち勝つところを」

「あぎぃぃる!」

 鋭く尖る牙。長く伸びる赤い舌が涎を撒き散らし、咆哮がこだまする。

 両手も床につけ唸り声をあげる羅我の姿は、まるで獣の様だ。

 斬られた腹部は一瞬で治癒し、羅我は四肢を使い走り出す。


「――無限鏡」

 発射した無数の剣が羅我を襲う。

『ヤマタ乃オロチッッじゃ!』

 背中の肩甲骨から八つの蛇腹が生え、刃で剣達を弾きだす。

「うらぁぁぁぁ! アクマ・ブーメランッッ!」

 額の角は外れブーメランとなり、剣の隙間を潜り抜け神威へ向かっていく。

「デュワッ!」

 神威は猛禽類型翼マントを広げ頭上高く飛び、大小様々な剣を引き連れ攻撃をかわした。

 空中で停止すると、神威は異能力を発動する。

「――千雨」

 華火の魔力から黄金の火花が散り、無情にも剣の雨は降り注ぐ。

 予想通りの技が来た。準備は出来ている。

 羅我の大きく開いた顎から、一気に黒煙が立ちのぼる。口内は魔力が放つ超高温で真っ赤に熱しられていた。

「アクマビームッッッッ!」


 放たれた火焔の龍は、熱き炎の牙で全ての雨を喰らい神威を飲み込む。

「……死ぬなよ旦那」

「……勿論です」

 神威は翼で体を覆い光線に耐え、辛うじて致命傷は防いでいた。真白で美しかった装甲が今や、見るも無惨に焼け焦げている。

 攻撃は確実に効いていた。この好機を逃さない。

 羅我は壁をかけあがり、空中でふらつく神威との距離を縮めていく。

「うらっっ」

 背後から飛び移り、鋭い牙で翼に噛みついた。

「ぐっ!」

 神威は呻き、羅我を振り下ろそうとジクザクに飛びまわる。

「往生際が悪いぜ、旦那」

 噛みつき傷つけた片翼を、アクマクローで引きちぎった。

 急激にバランスが崩れ浮力を失い落下していく。

 墜落する寸前、羅我は床に飛び降りる。

「ぬうっっっっ」

 神威は十字架を床に華火を壁に突き刺し、落下速度を減速。ダメージを最小限に抑えこんだ。

 このチャンスを逃してはいけない。再びヤマタ乃オロチを発動し、八つの蛇腹刀が神威に襲いかかった。

「ぬんっ」

 今まで受けたダメージをものともせず、十字架で全ての蛇腹を受け止める。

 強い。なんてタフな男なんだ。

 羅我は神威の強さに魂が震えた。だが素直に負けを認めるわけにはいかない。

 テツヲを守れるのは、自分だけなのだ。

 そう思った時だった。

「ひぎっ」

 自然と喉から呼吸が溢れた。


「ひぎひぎひぎっ」

 体がむず痒い。体内で虫達が列をつくり足踏みを始めた。

 ゾロリゾロリゾロリ。羅我とリリス。二つの意思に反して体全身に歪な刃が生えていく。

 【呪い】と呼ばれた現象であった。

 人々に恐れられ嫌われる為、何者かの干渉で強制的に悪魔の姿へ変えようとしているのだ。

「そろそろ時間ですね」

 蛇腹のデーモンへ転生しようとしている羅我を、神威は冷静に見つめ十字架を構えた。

「これが最後の攻撃です」


 弧を描く様に十字架を投げ、神威は走り出す。

 来る。必殺技が。

 魔武具と異能力。共に奥義と呼んでも遜色しない強力な攻撃だ。故にどちらかしか対応できない。

 首を切断する恐れがある十字架を、アクマクローで叩き落す。だがそれは神威の接近を許してしまう。

「これに耐えられたら、君の勝ちだ――華火」

 両腕を外側にひねり、魔力が込められた掌底は腹部へ叩き込まれた。火花散り振動の刃で、体内は切り刻まれる。

「かはっっ」

 各関節から刃状の緑色した血をふきだし、体から力が抜けていく。

 白光し反転する景色を眺めながら膝から崩れそうになるが、恥も外聞も捨てて神威の体にまとわりついた。

「……まだだ。まだだぜ旦那。俺は戦える」

「ジャスト一分です」

 パチン。指を鳴らすと羅我の魔装甲が強制的に吹き飛んだ。

「君の勝ちですよ。羅我くん」


「はぁはぁはぁはぁ」

 羅我は大の字になって倒れている。疲労困憊で汗が止まらず床を濡らす。

「羅我くん。一つだけ質問を」

 装甲を外した神威は息切れすらしていない。まだまだ本気で無かったという事なのか。

「あぁ、いいぜ」

「なぜ翼を? 悪魔化したあの状態で首を狙えば、確実に僕を狩れたのに」

「馬鹿言ってんじゃねぇよ。俺達は仲間だろが、旦那」

「ふふっ。そうでしたね。では仲間の言うことを信じましょう。テツヲくんは人間です」

 にいっと、太い唇でいつもの穏やかな笑みを神威は見せた。

「感謝するぜ」

「立てますか? 赤髪のデーモン火憐を探しだし……」

 神威は手を差し伸べる。

「あぁ、これ以上犠牲者を増やす前にその女を狩ってやるぜ」

 羅我はそう言って、差し出されたその手を強く握りしめた。



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