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紅の魔女編(4)

 テツヲから連絡を受け、羅我と舞姫の二人が現場に駆けつけるとテツヲ一人が床に座って泣いていた。

 周囲に少年達の姿はなく、デーモンが出現した痕跡も残ってない。

 店内は静かなもので、聞こえるのはテツヲの泣き声だけだ。

「テツヲ何あった」

 刺激しない様、いつもよりトーンを控えめにして穏やかに声をかける。

「み、御門さん悪魔だ、悪魔がみんなを」

「みんな……か」

 舞姫はキョロキョロと周りを見渡す。あるのはガラクタの山だけだ。恐らく買い取ったデブリを、あそこへ放置し山となったのだろう。

「悪魔が皆を喰っち……まった」

 恐怖から涙と鼻水で顔を汚し、再び膝にうずくまる。

「俺……何もできなくて」


「状況を最初から説明してくれますか?」


 制服の上から白い素体バトルスーツを着た神威了が赤いマントをなびかせ、嫌とは言わせない圧を発しながら近づいてくる。


「なるほど。それでテツヲくん、その赤髪の女性の名前は?」

「……かれ……ん? だった気が」

「旦那、テツヲは興味ある奴しか、名前と顔覚えないんだ」

「……デブリを買い取る赤髪の女性ですか……。元ダストの作業員なら知ってますよね羅我くん、デブリはキチンと正規の手順で回収する事を。それを守っていれば、今回の件は未然に防げたかも知れない」

 静かな口調だが、レンズ越しの目付きは鋭い。

「あぁ、そうだな。すまねぇテツヲ俺のせいで」

「御門さんは何も。デブリを売ろうとしたのは、俺の意思だし。だから気にしないでください」

「では次にテツヲくん、君は僕達守護天使が拘束します。舞姫さん」

「はーい」

 舞姫はテツヲの背後から近づき、無造作に右腕を掴んだ。

「待てよ、テツヲをどうする気だ」

「君はおめでたい男だ。彼の言うことを信用するのか? もしデーモンだったら? 赤髪の女性など最初からいなくて、彼が少年達を喰ってたら?」

 怒気を最早隠そうとはしない。獅子の咆哮でピリピリと背筋が痺れ、体全身産毛は逆立つ。

「御門さん。お、俺は嘘なんて」

「わかってるよ。テツヲはデーモンじゃねぇ」

「その根拠は? 僕達は守護天使。疑うしき者は、狩りとるのみ。先日のあなたの様にね」

「頭ガチガチだな」

「あっ手滑ッチャッタァァ」

 殺気だつ中、舞姫のわざとらしい棒読みの叫び声がこだまする。

「えっ?」

 不意に拘束をとかれ舞姫から促されたテツヲは、真意を読み急いで逃げ出した。

「追いかけまーす。マテェェェ」

 舞姫と目が合った瞬間ウインクされた。彼女はわざとテツヲを逃がしたのだ。

(ありがとな、お嬢ちゃん)

「らぁぁっ!」

 羅我は意識を集中し気合いをいれ、拳を神威の前につきだした。

 例え相手が味方であろうと、こればかりは絶対に譲れない。

「相手してくれよ、旦那」

「ふぅ。舞姫さんも貴方もどうしてこう……」

 神威は頭を抱え呆れた表情で、やれやれと首をふる。

「お望みなら仕方ありません。では平和的に語り合いますか」


 神威の頭上周辺が歪み、空間は波打つ。発生した無数の波紋からは、剣の切っ先が飛び出した。

「それが旦那の異能力? 平和的に頼むぜ」

 腰に帯刀してる蛇腹刀に手を伸ばす。

「頼むぜ、リリス」

「――任せよ。我が主」

「いけるか」

「――無論よ。イザナに封印された機能はごく一部じゃ。戦いに支障はない」

「魔装ッッッッ、リリスッッッッ!」

 鞘から蛇腹刀を引き抜く。

「――コード・リリス認証しました。アームド・モード起動します――」

 蛇腹が羅我の黒い素体バトルスーツの上から絡みつく。

 鱗が重なりあい造りだす漆黒の外皮骨格型装甲は、カブトムシやクワガタを連想させる形へと姿を変えていく。

 フルフェイスの頭部に額から一対の角が伸び、バイザーは開かないよう顎から生える角で拘束される。

 つり上がった目は、真紅に輝いた。

 硬さと柔らかさ。二つの属性を重ねて創られた魔装甲は、動きやすく衝撃を吸収しやすい。近距離戦を得意とする羅我に、うってつけの鎧であった。

「賢明な判断です。僕と貴方では実力の差がありすぎる」

「お優しい旦那は勿論変身しないだろ?」

「フッ。それは君次第って事で」

 剣の刃先が一斉に、黄金色に光輝く。

「おっかねぇーな」

 シュッ。風を切り裂き一本の剣が撃ちだされた。

 左の腕から伸ばした蛇腹で弾き飛ばす。

「これじゃ近づく事もできねぇ」

 やりづらい相手だ。相性が悪すぎる。

 次から次へと発射する剣から一定以上の距離を取り、攻撃をかわしていく。何とか蛇腹が届く距離まで縮めたいのだが。

「――主、ごにょごにょ」

 リリスが耳打ちしてくる。なるほどそれでやってみるか。

 羅我が避けたあと床へ突き刺さっていた剣を引き抜き、神威に投げつけた。

「フッ」

 神威は薄く笑い、それを撃ち出した剣で弾く。

「まだまだあるぜ」

 再び剣を引き抜き、投げつける。

 何も考えず闇雲にではない。リリスのアドバイスあっての事だ。

(一度発射した剣は操れないか)

「気づきましたか。僕の異能力の一端に。では物量で押しきります」

「無限鏡」

 神威は必殺技の名を静かに呟き、魔力をこめた。

 今まで一本一本撃ちだされた剣が、一斉に発射する。

 無理だ。今までと同じやり方ではあれは防げない。

「――儂が主を守るのじゃッッ!」

 左腕の蛇腹を回転させ羅我の体を覆い、バリアにして攻撃を防ぎ続ける。だが予想を越えた神威の行動に羅我は驚きを隠せない。

「嘘だろ旦那」

 異能力を操る魔力に底が無いのか、無限鏡は途切れない。発動したまま神威はゆっくりと近づいて来る。

「さてどうします? 君は今、無数に発射する剣から体を守る為、身動きとれない」

「旦那だってそうだろ。この回転続けるアクマバリアを掻い潜り、攻撃は不可能だ」

「ですね。でも頭上がお留守ですよ」

 パチン。神威が鳴らした指の音が室内に響く。

「千雨」

 攻撃の流れが横から縦にかわった。剣が雨の様に降ってくる。

「なろぉぉっ!」

 蛇腹を頭上で回転させ防いだ。

「懐が空いてますよ」

 神威の右手に握られた短剣が腹部を貫く。

「小さくても対デーモン用の武器です。魔装甲さえも貫きます」

「きかねぇよ」

 短剣の刃先がグニャリと、柔らかく折れ曲がった。

 何とか刺される直前に発動した。全く心臓に悪い能力だ。

「これが俺の異能力だぜ。一瞬しか使えねぇけどなッッ。アクマパンチッッ!」

 右拳から刃を生やした一撃。だがそれを神威は、両腕でクロスして挟み防御する。

「体に触れた任意のものを粘土状に柔らかくして、再構成する感じですかね。何かしらのきっかけがあってスイッチさえわかれば、きっと自由にコントロール出来ます。狂月ってのはどうですか」

「あっ?」

「異能力名、【狂月】格好いいでしょ」

 笑いながらそう言うと、神威は曲がり使い物にならない短剣を投げつけ、大地を舐める様に深く沈みこむ。

「僕の異能力、【華火】は色々応用が効くのですよ。このようにねッッ!」

 攻撃を仕掛けて来る神威に対し両足から生やした二本の蛇腹を唸らせ応戦するが、巨体に似合わず素早い動きでかわされる。

「しゅっ!」

 鋭い呼気と共に左右の掌底で腹部を叩かれた。

「ウグッッッ!」

 激しく上下に揺れる振動の波が、体内へ流れ込む。

「素手だからと、油断しましたね」

 パチッパチッ。目の奥で真っ白な魔力の火花が散った。それは刃となり、四肢の筋肉をズタズタに引き裂いていく。

「かはっっ!」

 力が抜けて、足が体を支えきれない。床に膝をついて、うずくまった。


「――主!」

「……体が動かねぇ」

「降参しますか?」

 剣は真上で止まっていた。

「――そういうカラクリかや」

 花火の様に広がった白い火花が、全ての剣に繋がっていた。

「降参したらテツヲを追うんだろ」

 にっこりと神威は微笑んだ。

「くそったれ!」

 神威の意思のままに、剣の雨が羅我の体へ降り注いだ。

「安心してください。首が無事なら死ぬことはありません」

「――小僧! よくも主をっっ」

「無駄ですよリリスさん。この前のようにはいきません。ジェノサイヴァモードは封印されてます」

 ギリギリ。ヘルメットの中で羅我は奥歯を強く噛み締める。


 このままでいいのか。いいわけないだろう。テツヲは何もしていないと、証明出来るのは俺だけだろうが。


 羅我は自問自答する。


 だったらどうするよ。どうやって旦那に認めさせる。

 そんなの決まってんだろ! 拳で語り合うしかねぇんだ。


「うらぁっっっ!」

 華火で斬り裂かれた四肢の筋肉を蛇腹で繋げ、無理矢理肉体を動かす。

 ブチブチブチッッ。肉体を貫く剣の拘束を力づくで引きちぎり、神威に飛びかかった。

「もうこれしかねぇ! うらむなよ旦那」

 肩甲骨の中心から蛇腹刀を生やし神威の首へ振り下ろす。

 ギィィィン。十字にクロスする大剣で防がれた。

「僕を殺そうとしてまでも、テツヲくんを信じると」

「当たり前だ。ダチだぞ!」

「フッ。では更なる君の覚悟を教えてください」

 空間に浮かぶ複数の大剣が組合わさり、黄金色に輝く巨大な十字架へと変化する。

 ついに現れた。神威と契約した悪魔が宿るデビル・ウェポン。

 それが神威の前方にゆっくりと降りてきた。

「変神・ミカエル」



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