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エデン(3)

 黒崎隊全滅の訃報は、休暇最終日を過ごす羅我達にも伝わった。

 黒崎。彼がどんな人物だったのか、羅我にはわからない。

 挨拶もそこそこにいきなり殺されそうになったが、決して不愉快になる事はなかった。

 舞姫や神威と同じ様に、デーモンを狩るというシンプルな守護天使の使命に従ったまでだ。裏表があり策略を練る者よりどんなにいいか。

 自分が最初から守護天使であったなら、きっと良好な関係性を気づけたであろう。

 羅我はそう思い黙祷をし、黒崎の死を悼んだ。


 ザバーンザバーンと波の音が聞こえる。潮の香と空を飛ぶカモメの声が、羅我の心を落ち着かせ穏やかにする。リハビリを全て終えた妹美亜と、マザーのカウセリングを受けて復帰した舞姫。そして一人娘で大学生の心愛ココアを連れた神威親子と共に、海へ遊びに来ていたのだ。

「ぬほぉぉぉ砂浜ッッッッだぁぁぁ!」

 サンダルを脱ぎ捨て、美亜は喜びの雄叫びをあげ元気に走り出す。

「あはっ。海、海だねー」

 舞姫も以前と変わらない高いテンションで、美亜に続く。

「二人とも待って。病み上がりなのに危ないよ」

 初対面だがすっかり打ち解けたココアが後を追いかけた。

 元気な美亜を見つめながら、羅我が思い出すのは燃え盛る車の中に閉じ込められたミアであった。


 *

「お兄……助け……て」

 ミアは車の中に取り残され、助けを求めている。走行中、炎獣の悪異に襲われ車は横転しラガを外へ放り投げた。

 どうしてこんな事になったのか。怪異ハンターの仕事を今日は休み、ミアと共に愛車で買い物帰りであった。

 時刻は午後十一時過ぎ。当初の帰宅する予定時間から大幅に遅れていた。慢心だ。怪異が活発に活動する時間帯なのは、わかっていた筈なのに。

 横転した車は、助手席が上の状態で止まっている。

 急いで助けないと、漏れたガソリンに引火して爆発するかもしれない。

『ヴモォッッ』

 炎獣はこれだけで飽き足らず、他の車に襲いかかっていた。

 助けるには今しかない。

 炎で熱しられたドアノブに、手を伸ばす。

 ジュッ。掌が焼けていく。だが大量に涌き出るアレドナリンのせいで、熱いとは感じなかった。

「開きやがれッッ!」

 狂月を発動しドアノブは歪むが、それでも開けられない。

「くそっ! 使えねぇぇ!」


「伏せろラガ」


 カレンの声と同時に炎の影が揺らめく。

 影の中から彼女と契約した怪異悪魔。仲魔のケルベロスが具現化し、ドアを引きちぎった。

「カレン……ミアが悪異に……」

 悪魔を使い魔にした異能力者とはいえ、生身で悪意と戦うのに限界がある。その為、【霧島】が造り出した怪異専用バトルスーツを纏うカレンとラビが、炎獣を一瞬で狩り近づいてくる。

「直ぐ治癒士がいる救護隊につれていく、ラビ先導を頼む」

「了解。変わるわラガちゃん」

 そう言って下半身がつぶれ、火傷を負ったミアに手を伸ばす。

「いや、このまま俺が運ぶ」

 瞳は閉じ呼吸もしないミア。欠損部から内臓が飛び出している。いくら治癒の異能力を持つ治癒士でも命までは治せない。

「自分の怪我、わかってんの!!」 

 わかっている。それでも最後の時まで、ずっと一緒にいたい。

 目に血が入り景色が赤く染まっている。横転した時、何処かで頭をうったのだ。

「ラビ、ラガの好きにさせてやれ」

 カレンは背伸びしてラガの頭へ手を伸ばし止血する。

「もぅ。行くわよ着いてらっしゃい。アンタまで死んだら、許さないから」


 *

「羅我くん、大丈夫ですか?」

 心配そうな神威の声で我にかえる。そうだった海辺で遊ぶ三人を眺めながら、神威と話してる最中だった。

「悪い旦那。続けてくれ」

「僕は隊長失格ですね。こんな状況なのに」

「あっ……いや家族優先だろ。俺も旦那の立場ならそうするぜ。悩む必要ない」

 神威が妻と子供に反対され、守護天使をやめるという内容だった。

 当然だ。怪異狩りは危険な仕事だ。油断すればそれが死へ直結する。

 守護天使なら尚更だ。怪異の中でも特級クラスの悪異、デーモンを狩るのだから。

「ふふっ。君みたいに、シンプルなのが一番いい」

「だろ? 悩む時間もったいねぇ。で、神威チームの隊員はどうなんだ?」

「新部隊に移動になります。知っての通り、先日黒崎チームは全滅。他の隊も似たようなものです。生き残った彼らと、神威チームの隊員で新部隊が編成されます。現状、ドレスの女と爆弾の男。あの二体のデーモンと戦えるのは、僕達の部隊だけですから」

「なら俺とお嬢ちゃんも移動だな」

「いえ舞姫さんと君の二人は、このまま僕が辞めたあとも神威チームに残ってください」

「なんで?」

「貴方達の手綱を握れるのは、僕だけですよ」

「あっ……納得」

「まぁ、他の隊で行儀よくしてる貴方達を部外者として、眺めてるのは楽しそうですが」

「カカッ。一日ともたないわな」

「羅我くん。そういうところですよ。わかってるなら、もっと自覚を」

 メタルフレームの眼鏡がキラリと輝く。

「へへっ」

「フッ」

 顔を合わせ二人は笑いだす。


「ぬわあぁ!」

 笑い合う二人を見て、美亜が大声で叫んだ。

「美亜どした! 怪我でもしたか!」

「舞姫ちゃん、ココアちゃん! お兄ちゃん達が、エッチな話で盛り上がってるよぉ!」

「ぁぁぁぁ美亜ぁぁぁ」

「きゃあぁぁ逃げろぉぉ」

 きゃきゃきゃと、楽しそうに笑い砂浜をダッシュする美亜を、羅我は笑顔で追いかける。

(美亜、またお前とこうして遊べるなんてな)

 滲む涙を指でふく。

「はぅあぁ」

 足をもつらせた美亜は、顔面から砂にダイブする。

「うへぇぇ、顔面削れちゃったよ」

「あぁ。鼻無くなっちまったな」

 羅我は砂まみれになった美亜を抱き起こす。

「あるわー。クリリンなみにあるわー。お兄ちゃんのばーかばーか、ざーこざーこ」

 ぺっぺっぺっと、唾で攻撃してくる。

「へへっ。ナイス攻撃だぜ美亜」

 羅我は拳を胸の前で構えファイテングポーズ取ると、上半身だげで器用に全ての唾をかわしていく。

「お兄さーん」

「ぬわぁぁぁぁ!」

 油断した。いきなり舞姫に全力で真横から飛びつかれ、押し倒される。

「美亜ちゃん!」

「舞姫ちゃん!」

 二人は何故か意気投合し、グッと親指でサムズアップする。

「なになになに、お兄さーん。ついについについにー、わたしの豊満なおっぱいで興奮興奮しちゃったのねぇぇ!」

 ぐへへと舞姫は頬を朱に染め口角を耳までつり上げ、クルクルと回転する瞳孔から放つ熱っぽい視線で羅我を見つめた。

「はうぁぁ~お兄ちゃんがぁぁ、舞姫ちゃんにぃぃぃ」

 ぴーんとツインテールが逆立つ。

 美亜は掌で顔を覆い、指の隙間から鼻息荒くらんらんとした目で、今から始まる情事を眺めようとする。

「ったく。お痛過ぎるぜ。お嬢ちゃん。未成年には興味ねぇよ」

 近づく唇に羅我は指を挿入して、唾液で濡れた舌をひっぱる。

「あぅぅん」

 舞姫は吐息を漏らし、びくんびくんと体を何度か震えさせると胸に倒れこんできた。

「成人したらな、考えてやるよ。舞姫」

「ふにゃぁぁ、お兄さんいい匂い~。大好きぃぃ」

 幸せそうに舞姫は、羅我のダスト除去で鍛えた胸板へ顔を埋めた。


「お父さん。お母さんが今日いないからって不潔だよ」

 二人の冗談を真に受けたココアが神威に詰め寄る。

「違いますよ! ら、羅我くんフォローを」

 いつも冷静沈着で頼れる神威が、物静かだがとても重いココアの一声で慌てふためく。

 娘をとても愛してるのが、こちらにも伝わってくる。

「ココアさん。旦那はむっつりスケベだ」

 面白いことになりそうだ。このノリに調子を合わせるか。

「ら、羅我くん!?」

「お父さん!」

「はうぁぁぁっ。隊長さんやっぱりだぁ~」

「お兄さーん好きぃぃん!」

 神威は何とか誤解を解こうとココアに頭を下げまくり、舞姫と美亜は羅我に構ってくれとまとわりつく。

 羅我は思う。

 何が真実かわからねぇが、俺はこの日常を守りたいと。


 波打ち際で全力で遊ぶ羅我達、その光景を浜辺から長身のスラリとした中性的な青年が見ていた。潮の香を風が運び、少しウェーブがかかる栗色髪を揺らす。綺麗にケアしてる肌は白く、海岸の景色に不釣り合いだ。切れ長の瞳で羅我達に真っすぐ視線を送っている。

「お楽しみはおしまいよ。羅我ちゃん」

 爆弾を操る異能力を持つ兎型デーモン。兎ラビが、そこに立っていた。



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