僕の師匠はきっと
僕の師匠はきっとすごい魔法使いじゃない。
学べ、学べと本を押し付けてくるけれど、彼女自身は呪文の一つも教えてくれない。実はなにも知らないのだろう。
僕の師匠はきっとすごい魔法使いじゃない。
魔法を使った後の影響をしっかり考えなければならないなんて言って全然魔法を使おうとしない。実は魔法なんてほとんど使えないのだろう。
僕の師匠はきっとすごい魔法使いじゃない。
怪我をして助けを求めてきた人に対して回復魔法なんてのは不自然だからできるだけ使わない方が良いなんて言って、薬草を煎じて作った薬を渡していた。不自然なんじゃなくて使えないんだろう。
僕の師匠はきっとすごい魔法使いじゃない。
だから、この古い古い魔法を伝える魔導書もきっと宝の持ち腐れだ。僕が読んだ方が本も喜ぶだろう。
僕の師匠はきっとすごい魔法使いじゃない。
魔導書に捕らえられていた悪魔に呑まれかけた僕を助けるために、聞いたことも読んだこともない呪文を唱えていた。見たことも想像したこともない魔法を使っていた。悪魔の持つ毒を癒やすために薬草を煎じた薬を飲ませてくれて回復を助ける魔法を唱えてくれていた。そして、あっさりと魔導書に悪魔を封印してしまった。
僕の師匠はきっとすごい魔法使いじゃない。
とても偉大な魔法使いなのだろう。
そう言うと彼女は、やっと理解してくれたかと嬉しそうに笑っていた。
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