プロローグ ー封じられた公女ー
今朝早起きしたので一晩で書きました。 中盤まで盛り上がらないので、集客力がなかったため、プロローグ部分が弱かったので、完全に書き直しです。
結構長いのでどうかよろしくお願いします。
封じられた刻印と宿命の双剣
私はどうやって生まれたのか覚えていない。
最後の記憶をたどると、見えるのは暗殺者の館ーー地下室の荒れ果てた部屋
それが私にとって全てだった。
ただ、偽りの名前と人生を与えられる為だけの人形ーー
自分が何者なのか、どこから来たのかも私は知らない。
私はただの影。名前を与えられ、命令を実行するために存在するーー
私がの記憶に残る唯一の情報それは、ソフィアと言う語感を持つ己の名前だけ。
だが、それは私の名前であってそうではない?
「私はただの人形、それは知っている。 それでもーー」(このソフィアと言う名前は捨てることができないほど心に深く刻まれ見込まれている)
「この刻印が動くたび、私の中の何かが叫ぶ。『私は何者なのか』とーー それは、自分の生き方がない私の虚無と虚空の象徴だと言えるのかもしれない?」
今日私に試練が与えられる。
その試練を乗り越える事で私は新たな名前と役割が与えられるのだった!
新たな名前と役割に興味はない。 だが、生きる意味が必要だった。
このままここで腐っていくよりは、有意義なはず?
「私は生きたい。生き抜く目標が必要だった。あがくしかない。そうでなければ、闇に沈むだけだからーー。」
だが、例え戦いに勝利しても、与えられた名前と命令だけが、私のアイデンティティとなるだろう?
そこには過去も未来もない。 私の生きる意味と目的だけがそこにはあるはず。
ただ、暗闇の中で命令を実行するためだけに動く『キリングドール』として生きること。 それが私のすべてだった。 暗殺人形としていきるだけの道ーーそれでも何もない、ただ、墓標のようなこの場所で朽ちる。 今よりはましだったのだ。
そうして試験が始まる待ちに待った試験の日が今日だ。
5年間にも及ぶ過酷な訓練の日々、そのどれもが苦い思い出だった。
その集大成、過酷な修練をバネにどれだけの事を成せるか? そのすべてを見せなければならない!
暗殺を極めたなれの果て、それが今の私のはずなのだーー!
失敗作の烙印を押されれば全てが終わる。
失敗すれば全てが終わる。私は何も成せぬまま、運命からはじき出される。"生"を掴む機会すら、永遠に失う。 それだけは避けなければならなかった。
どんな手段を執ろうとも、失敗は許されない。それはエキドナにとっても同じらしく、だからこそーー今回だけは全てのリミッターが外されている。
例外的な措置、それだけでも今居る状況が特例であることを物語っているのだった。
「ふぉふぉふぉ、準備はできたかの?
お前が最高傑作となるか、それともただの駄作で終わるのか別れ際よ。
投資は過去最高額よの? 秘術なども使い調整済みじゃ、簡単にくたばってはならんぞ!?
強く瞳を見つめて問われる。 エキドナにとっても、私は成功例であらなければならないのだろう?
私がこくりと頷くと、エキドナは呪文の詠唱を始める。
暗く湿った地下室に、紫紺の魔法陣が浮かび上がる。紫の光が壁に長い影を落とし、空気はざわめき、魔力の波が軋む音が響く。その中心から、無数の魔獣が影のように滲み出てきたーー
空気がざわめき、魔力が軋む音が響く。その中心から、無数の魔獣が影のように滲み出てきたーー、戦闘フィールドは、私の育った地下室の食堂だった場所?
大広間だ。 四方が20メートルやそこらといったところか? それなりの広さがある。
幾人かの子共達が同時に生活していた故の名残だろう。
だが、今は私以外の者達は一人とて存在しない。 それが何を意味するのかは今は考えたくはなかった。
「ではいくぞい、耐えきれるかの? わし自ら作り出した自慢のペットたちよ? どれも選りすぐりの改造体よーー! くれぐれも簡単に負けるではないぞ!?
ではな、名もなき人形よ……戦闘開始じゃ。 そなたのキリングドールとしての集大成、見せてもらうぞ!?」
既に魔眼の解析で敵の脅威度を分けてはかっていたため、適切な状況判断を実行する。
まずはデバフ持ちの雑魚を片付ける。
大物は後回しで良い筈ーー! 普段はリミッターで制約があるため範囲が狭いが?
今ならばーー魔眼が全てを見通すーー!
魔眼による重圧で、魔物の群れの動きを鈍らせて、背中の刻印に封じられている。
闇魔法を発動するまでの時間を稼ぐ。 大技故に時間がかかるのだ。
モンスターの中で、アンデット型キャスター(ファントム・ジ・キャスター)を首魁とする集団のようだ!?
魔眼が捉えた瞬間ーーモンスターたちは怯えたように後ずさった。
だが、それでもファントム・ジ・キャスターは詠唱を続ける――。」
強力な中級火炎魔法・ボルケーノだ!
彼は敵の中でも最も厄介なカテゴリーに入るため後回しにする必要がある。
しかし、返って好都合だーー収束する火炎魔法を受けて、ボルケーノが迫る。
だが、右腕の刻印が即座に反応した。
反応する刻印ーーそれが、相手の魔力を霧散させて、吸収する、強奪した魔力によって、相手のボルケーノを強奪したーー! これが私の刻印の能力魔力の強奪と保存だ!
即座に溜まったエネルギーを暴走させて、お返しとばかり放つ、中級火炎魔法ボルケーノ!
この魔法は火力もさることながら、攻撃範囲が広い。
放った一発で、半分近く居た雑魚モンスターが壊滅した。 もちろん魔力も十全に込めてあるために、火力も通常よりずっと高いーー!
「ほうー、やるの、まさかここまで育っているとは、驚いたわい。
ならばおかわりといこうかの? さらなる高レベルのモンスターをくれてやる。 食い残しはなしじゃぞ!? 貴様の力見せてみせい!?」
エキドナの挑発ーーそして、現れるのは6体のゲイザー。
(……たった、これだけ?)
私は鼻で笑う。余裕すら感じる。いかにランクアップ仕様だろうと、この程度ーー格下、なめられたものだ
いかにランクアップしようとも現状での条件ならば、格下ーー行為の魔物とは言えゲイザー程度、なめられたものだとソフィアは憤慨した。
ソフィアは対戦相手達を鼻で笑うように見下した。
ソフィアは、再び全身の刻印を駆動させる。
本来は空の刻印にも今回は例外措置により、あらかじめ魔法が充填してある。
右足の早駆け刻印を駆動させて、魔導師タイプのソフィアにはできないほどの、脚力で、縦横無尽に駆けるーー!
ーー同時に、左腕にセットされた高位闇魔術ーーノスフェラトゥに額の刻印によって魔力を込め練り上げる。
額の刻印は他の刻印のサポートやブーストを担う役割が強い。
左手の刻印は本来形を持たない闇の力が形を取ることで、闇の力が夜の影となって伸びきり、巨大な漆黒の鎌へと姿を変える。
同時に額と左腕に宿る身体強化能力ーーソフィア破足の刻印を駆動して、一気に、ゲイザー達へと疾駆しーー切り結び、更に舞い狂うーー!
「ソフィアは、死神のように笑っていた。
そして――一閃、瞬時のうちに、漆黒の刃が、数回夜闇切りを裂いたーー!」
一息で既に二匹のゲイザーを解体し終わっていた。
ぬるいーーこんなものが、五年も掛けた私の最終試験の相手だなんて、馬鹿にしていると感じる?
私、ソフィア破普段は控えめでおとなしいのだが、今は全てのリミッターが外れている。
それは何も身体に関することだけではなく、精神的なリミッターも外れているようだった。
思考回路が、いつもの私とはあまりにも違う。
普段の私は控えめな思考で戦いに恐れを抱くこともある。だが、今は違う。リミッターが外れた私はーー 凶暴な攻撃性と普段は持ち得ない自尊心を持っていることを自覚せざる得ない。
ソフィアは笑った。 死に神のように嗤うと、そのままなおも突進し残りのゲイザー2体と切り結ぶーー 剣戟の音ーーゲイザーの高質化した触手と刃を交える!
ゲイザーとて雑魚ではないのだが、石化の魔眼やマヒ毒を帯びた触手そのどれもが限界を超えて駆動しているだが、数号切り結ぶのが限界ーー
ソフィアには全くと言っていいほど緩慢な動きにしか感じられず、まるで、サンドバックでも相手にしているかのようだったーー!
だが、なめられているだけのゲイザーではない。 一匹が壁となり、必死に剣戟を見舞ってくる。 切り結ぶ間にがわずかな隙となるーー!?
その瞬間ーーゲイザーたちが円陣を組んだ。 大きな眼球が、瞬き共鳴するーー瞬間、極太の魔力が収束する。"超高密度のビーム"が放たれるーー!
ーーそれを魔眼で超反応して対応ーー同時に刻印を駆動させ反撃に出る。
瞬時にノスフェラトゥが発動ーー闇の帳は今度は鎌ではなく、長い髪の毛を触媒として、アメジストの髪を伝うとーー魔力が放出された。
魔眼が反応する。刻印が駆動する。ノスフェラトゥが発動――闇の帳が広がり、ビームを全て弾き飛ばした。
間一髪ーー油断しきっていたソフィアにも多少の失点があったーー動揺を植え付けたが、だが、今のソフィアにとってはその程度の者に過ぎなかった……
瞬時の攻防のうちに残り2体も解体を終えて、最後に残ったのはゲイザー2体と魔物の群れーー?
それに対して仕上げとばかりに魔力を駆動する脈動する背中の刻印ーー戦闘直後から鳴動する魔力をうけて込め続けた。それは既に準備が完了している。
ファントム・ジ・スペルキャスターが再びボルケーノを発動させるが、既に魔力を解放したソフィアには何の問題のにもならないーー!
ソフィアにとっての切り札ーー最高位闇魔法デットエンド・アポカリプス。
Sランク、規格外に相当する現存する最強の闇魔法だ。
ソフィアの背中の刻印にやどる切り札だ。
殲滅する黒い夜闇が全てを飲み込み、夜の闇にたなびく帳が、飲み込んだ者達を裁断機に駆けるように長い断層となって刻んでいく。
夜の帳はブラックホールのように全てを飲み込む。
しかし、その幻想的な輝きは、星々を宿した夜空のように美しい。
その凶悪な効果を知らなければ広がる夜の帳は星々が銀河を称えており、見惚れるほどに美しい魔法だった。
その効果が収束した後には何も居ない、あり一匹既に広間には存在を許されなかったのだ……
夜の帳は役目を終え、敵を取り込んで消滅した。
後には何も残らない。 耐えられる者などこの場には居なかった……
焼け焦げた床の上に、ただ、闇の帳が消えゆく気配だけが残っていた。
私は一歩踏み出そうとしたが、足がかすかに震える。
戦いの興奮が冷めると、全身の筋肉が悲鳴を上げていた。
深く息を整え、湿った空気を吸い込む。吐き出された息は白い霧となって、冷たい空間に溶けていった。
私の息遣いすら、この空間では妙に重く響く……
戦いが終わった。 だが、私は何も変わっていないのかもしれない。
それでも、私は今ここにいる。いや、ここに居なければならない。
居なくなった子供たちーーかつては仲間だった彼らのように、闇に飲まれるわけにはいかない。
これが"生きる" ということなのかーー?
「ふぉふぉふぉ、でかしたぞ、名もなき人形よ、嫌、ソフィアよ、仮初めの名ではあれ、認めねばならぬな、その他の存在をーー
まさかアポカリプスまでつかえるとはの?
セットしておいたものの、まだその域には達しておらんと油断しておったわい? どうやらいい意味で見込み違いだったようじゃの?
これはうれしい誤算よの、お主の評価もひきあげねばならんの? 試験は合格じゃ。
しかしのお主もまだ物足りなかろうて?
これでは、師であるわしもすこしぐらい本気を見せなければ立場がないというものじゃとて、今のお主はわしの想像を遙かに超える成果をなした、それがどれだけのものか?
どうじゃ? 試してみたいとは思わんかの?
お主自身も限界という者に挑んみたかろう?
わしはお主の育ての親じゃ、これでもお主のことはよく分かっておるつもりじゃ?
煮え切らない物足りないもっと、成果を出した。お主はこう考えておる、違うかの!?
ソフィアはこくりと頷く、当たり前だが五年間の血のにじむような訓練。
この程度の相手が出終わって良いずがない。
頭のリミッターが外れているソフィアは通常では考えない凶暴な思考アドレナリンの過剰分泌によってかもしれないが、今は自分の成果と生きた証を試したいーー! エキドナに指摘され、強く感じている自身に気づいた。
「ふぉふぉ、いい目をしているな、これが紋章眼か? 血は争えないと言うことかの?
ーーではここからは、わし自らの出番と言うわけじゃ残念じゃが、ここからの主役はわしというわけじゃのーー最強の闇魔術師・エキドナ自らお相手しよう。
覚悟するがいいぞよ?
決して越えられる壁という者がどういうものか教えてやるわい、粋がっている小娘には良い経験となろうぞの!?」
そうして浮かんだ状態でフィールドを俯瞰していたエキドナ、自ら同じ目線へと降りてくる。 その瞬間確かに私たちは対等の関係へと移行する。
そう彼女を倒せば、私の呪われた運命も終わるのかもしれない!?
『この戦いに勝てば、何かを掴めるのか? それとも、全てを失うのか?
答えは、戦うことでしか見つけられないーー』
さて、ではわしから行こうかの? これでも一応は正式な試合じゃてな、名乗りを上げさせてもらおうかの?
『死霊使い、闇魔法の祖、魔導翁ーーエキドナ参るーー! 全てを見せねば、お主とて死ぬぞ! 本気でかかってこい、何手は抜いてやる! だがの、いい加減な覚悟だと地理もボコらぬと思うがいいぞ?』
エキドナの身体は完全に地面にはつかずに長いローブを、床から数センチのと頃で止まる。 まるでホバークラフトのようにも見える。
地に足をつけることすら無駄だと言わんばかりに、エキドナは宙を滑るように動いていた。 戦場にいるのではなく、すでに全てを掌握している者のようにーー
浮いた姿勢のまま、普段は丸めている腰を、伸ばし意外なほどに高かった背、背の低いソフィアでも、普段は見下ろすばかりだったが、今はそうではない。
背筋を伸ばしたエキドナは若々しい印象を与えてくる。見下ろされる形となり、威圧感を感じる、無論それだけが理由ではない。
彼女から放たれる魔力の質が既に常時と切り替わっているのだ。 圧倒的な魔性を帯びた魔力それが彼女から放たれる威圧感の正体ーー!
エキドナの戦闘態勢視るのが初めてだった。 果たしてどの程度の者なのか? 既に帯びている魔力が桁違いで、私は身震いしながらも耐える。 飲まれてはならないーー!
「来ぬのか、では小手調べじゃ、と言ったも先ほぞの雑魚相手同じとは面白みがないのことよの?
徐々にペースを上げていくぞ、果たしてどこまでついてこれるか? 見物じゃの。
そういいながら、いきなり、闇魔術ーースペル・エクトプラズム・ペインを発動するエキドナーー!
初級の闇魔術でありながらも、独自のアレンジされたそれらを四方八方から、幾筋にも連射してくるーー!
亡霊たちは形を持たぬまま、爪のような影を伸ばしてくる。刃のように鋭く、肉体ではなく魂を切り裂く攻撃ーー 初級魔法とは言えあれをまともに食らえばそれだけで毛氈続行は不可能だろう。
いちいち刻印で吸収するほどの魔術ではないものの、何せ数が膨大だ。 一度に召喚される亡霊達は既に一秒間に30体にも迫る。エクトプラズムだ。
刻印は万能ではない。いくら魔力を吸収できるとはいえ、無制限ではない。下手に無駄遣いすれば、本当に必要な時に足りなくなる。
リミッター解放時と言え体に刻まれた刻印の数は四肢と、頭の五体にそれぞれ振り分けられており、ある程度のストックは可能だが、数で攻められると、無駄遣いにしかならないのだ。
それらが一斉に押し寄せるのをかいひしつつ、同時にノスフェラトゥ出はじき返しながら、こちらも防戦一方では居られない、次の手はどうするーー!?
瞬時に頭を回転させる。リミッターがどこまで有効か不明だが、常ならば戦略性のかけらもないと言えるほど鈍い私をたきつけるように頭が、有効打点を計算し始める。
これならば対応策は一点集中型の攻撃、左手にセットされているボルケーノを更に額で強化、闇ノスフェラトゥに混ぜる。複合魔法、ボルカーノスフェラトゥ、オリジナルの創作魔法だ。 髪に乗せた熱気を、一点に収束し、ゲイザー達が見せたような収束したビームとして放射するーー!
エクトプラズム達は同時に、ノスフェラトゥ本体へと巻き込み相殺しながら反撃の一手を加えた!
火炎の槍が奔るーー瞬時エキドナのエクトプラズムが止まる。
それら全てを防御ーーいや、おとりに回したのだ瞬時にこちらの行動を読み切り、新たな魔法を生成する。
より速く効率てきな防御ーーそれが、盾としてエクトプラズム・ペインを使い潰す方法だったのだーー!
瞬時に追撃のタイミングが訪れるーー狙うならここしかない!? そう思った矢先、既に、アポカリプスは準備を開始しているが、まだ打てる段階まで装填できていない。
ーーならば、ノスフェラトゥ、最大出力ーー
ソフィアの髪が熱を帯び、闇がその輪郭を滲ませる。
炎と闇が混ざり合い、漆黒の炎が燃え上がる――。
それはまるで、夜空に浮かぶ赤黒い星。だが、その内部には灼熱の槍が秘められている。
「ボルカーノスフェラトゥ――!」
収束された灼熱の光が、螺旋を描きながらエキドナに向かって放たれる――!
本来アメジストの色調を持つ夜の闇それが灼熱に燃える!
ブルーブラットをもつ始祖が編み出したという奥義ーー高位闇魔法ーーノスフェラトゥの真価が発揮されるーー!
「ほう、ここでそうくるかの、思った以上にやるわい。
流石に防御にすべてを使っていたら手詰まりだったかもしれんの?
だが、まだ、わしも言って残しているのを忘れてもらっては困るのーー!?
瞬時にタイミングで、エクトプラズムで防御した腕を構えたまま、もう一方の空いた手を動かすーー
「ふぉふぉふぉ、お主は優れた弟子じゃが、これはまだできんようじゃの?」
ソフィアの心臓が跳ねる。――これは、見たことがない。
「まさか……同時詠唱!?」
魔術師にとって、詠唱は意識を一点に集中させる行為。
それを、まるで分裂したかのように 両手で別々の魔法を唱えている!?
普通の魔術師ならば、魔力の制御が破綻し、どちらの呪文も暴発するはずだーー。
だが、エキドナの影は、不気味に蠢いていた。
「そうじゃよ、わしは"ひとり"ではないのじゃ」
影が揺れ、"もうひとつの意識"がそこに宿っているような錯覚を覚える。
それはーー一体何……?
ゴクリと喉を鳴らすソフィア、無意識故の興奮を抑えきれない。
「ふぉふぉ……その程度か? では、もう一つ教えてやろうかの?」
エキドナの右手が虚空を撫でると、そこに魔法陣が滲み出る。
それはソフィアが見たこともない "双重の魔法陣"
「本来、詠唱はひとつの意識でしか行えんが……わしの魔導は、もうひとつの意識とともにあるのじゃよ?」
「いったい、なに……?」 困惑するソフィアを前に余裕顔のエキドナがみせつけるように、影を鳴らした。 影が音を鳴らしたことで、そこを注視したことで初めてその歪みを視たーー!
影の中に存在する"もうひとりの魔術師"が、彼女の代わりに詠唱を担っているのーー!?
それは、まさか失われた秘技ーー「シャドウ・サーヴァント」ーー?
その瞬間、ソフィアの脳裏を走る違和感――何かがいる。エキドナの影の中に何かが居る。 あれは闇魔導の奥義『シャドウ・サーヴァント』自らの動きを代行するという闇の神髄たる奥義だ。
だが、おとぎ話レベルの文献に記されている程度の情報で、それをうかがい知ることはできない。
「ではこちらも次の一手じゃ、答え合わせじゃの? 攻防一体魔法、お主にはノスフェラトゥがあるようにこちらにもとっておきの魔法があるのじゃよ。
さあ、踊れ、どこまで、ついてこれるかな? 気張って見せろ我が弟子ーー!
「レイジング・イモータル」
殲滅するための夜の闇が、火炎を伴い渦のように巻き上がる。 同質の攻撃!?
ソフィアの目の前で、黒炎が渦を巻くーーだが、それはただの炎ではなかった。
炎の中に無数の目が開き、ソフィアを捕らえた瞬間、黒炎が巨大な手の形を成し、掴みかかってくる!
「"燃える闇" とは、こういうものじゃよ」
エキドナが微笑んだ瞬間、黒炎の波がソフィアを包み込もうとする。
それはただの爆発ではないーーまるで捕食するように、絡みつき、喰らおうとする闇の炎!
エキドナが微笑んだ瞬間、黒炎の波がソフィアを包み込もうとしたーー!
まるで、闇が孕む火炎が意思を持つ生き物であるかのように牙をむき襲いかかってくる!
その瞬間、ほぼ同時のタイミングで、ノスフェラトゥと、イモータルがぶつかり合った!
炎と純粋な闇が、放流しぶつかり合う、迸る威力に床屋天井がきしむ。
発生した衝撃はは、体格の軽いソフィアを軽々と吹き飛ばした。
だが、浮いているからか、それともそれ以前に衝撃波エキドナには関係ないとばかりに無効化され居る。おそらく自動防御もある程度あるのだろう?
まるで、"戦場そのものを指揮する指揮者" のようにーーこれが、魔導翁エキドナのちからの一端というわけか、旋律するソフィアをよそにさらなる魔法を紡ぐエキドナ。
エクトプラズム・ペインでけん制するのを辞めるつもりもないらしく再び、より勢いと威力の上がったエクトプラズムが殺到してくる。
吹き飛ばされたソフィアは、転がる体を無理やり制御し、低く身を沈めるーー姿勢を低くしたままエキドナの周囲を駆け抜けるーー! 体力を消費する行為だが、やむを得ない。
飛び交うエクトプラズムの群れをかわしながら、刻印に蓄えた魔力を瞬時に分配する。
「……防戦だけじゃ、勝てない?」
ノスフェラトゥの闇のベールを展開しながらも、ソフィアの目は次の"一手"を探していた。
ノスフェラトゥ……闇の帳は刃のような影の攻撃を吸収しながら、魔力を循環させる仕組みになっている。
だが、ただ防ぐだけでは意味がない。
エキドナは、まだ"本気"じゃない……ならば、こちらも"本気"以上に本気を見せるしかない。リミッターのない今ならば可能なはずだ? 頭を使えソフィア、まだ手はある!
ノスフェラトゥの刻印が発動し、闇のベールが体を包む。
闇のベールは刃のような影の攻撃を吸収しながら、魔力を循環させる仕組みになっていた。
「ふぉふぉふぉ、おぬし、やるではないか」
エキドナが楽しげに笑う。
どうする? 攻勢に出ようにもエキドナには、二重詠唱がある!
うかつにはしかけられない。
両手を使って詠唱は刻印を使えば可能にはなるが、それでもエキドナの二重詠唱は超えられない。
そもそも一つ一つの魔法の火力が違うのだ、両手で複合した魔法でなければ、エキドナの魔導とは対等とは言えない!?
ならばどうすべきか? 四肢を全て使い魔術を? 却下だ。
足の魔法を攻撃に回せば、回避が遅れる上に、火力が半端になる。基本そういう使い方はできないのだ。
ならば、挽回の一手予想を超えるしかない。 次の激突で相手を出し抜くしかない。
純粋な魔法の腕では既に乾杯と言っていい、虚を突くしか勝つ方法はないのだ!
ソフィアはエキドナの周囲を高速で駆け抜けながらも、エクトプラズムをかわしていく。
こちらの魔法はあらかた出し切っているため、工夫するしかない?
後は私が本来会得しているブリザード(氷下級魔法)があるが?
ーーならこうだ、劣る魔導と即席の作戦で所までやれるか? でも諦められないーー!
それはソフィアにとって自己否定と同じだ。
リミッターがない今の状態でなければ諦めていたかもしれない。 だが、今だけは違うやれるだけやってみせる!
ソフィアはの額の刻印が輝き、手のひら左手に収束させたブリザードを昇華させる。
「アイシクル・レイン」 瞬時に天井にびっしりと凍りのつららが権限する、だがそれは設置型の魔法、同時にもう一度再び力をかしてーーと刻印に呼びかける。
左右の腕から流れる魔力、今一度願う『ボルケーノスフェラトゥ』現状これを超える魔法は用意できない。 ならばどうするかーー!?
「ふぉふぉふぉ、もう手詰まりかい? それはもう視たはずだが? まあ、悪くない魔法ではあるがの、わしには通じぬよ?」
そういって、すぐに先ほどと同じ、行程で『イモータル・ノスフェラトゥ』を作り出す。 エキドナ、瞬時に行えるあたり、年期が違うが感心しても居られない。
すぐさま相殺され始める、ボルケーノスフェラトゥを横目に、タイミングを計る。
慎重にタイミングを計り、タイミングを見極めて、ここだーー!? 気合い一閃。
瞬間、設置されている、アイシクルレインが氷塊をまき散らす。
天井から無数のつららお落とし始めたそれにより、ダメージ?
ーーは受けているかは微妙なところだけれど、その瞬間のタイミングでエキドナの視界を奪ったはずーー!?
決めるならここしかない、ーー意表を突く攻撃最大の攻撃、同時に足跡を消す浮遊の魔法をまねる。位置を常に悟らせないために走り回っていた。
体力とトレードオフだが、常に正面に居る場合奇襲の成功率は著しく下がるだろう?
火炎で発生した蒸気に紛れて、
半透明化と、暗殺者としてた炊き込まれた、気配遮断スキルも同時に発動する。
できる限りのステルス、迷彩を計る、これでこちらの位置はまず読めないはずーー!?
そうして駆動するのは、背中と、ノスフェラトゥを、鎌形の近接武器として構える。
ボルケーノスフェラトゥの効力は中断されてしまうが、ここで必要なのは純粋な魔法比べではない。 ならば結論は一つしかない、物理で殴るーー!
既に額の刻印が霧の中に居るエキドナの位置を捉えている。
捨て身での特攻ーーもし位置を読まれていた場合強烈なカウンターをもらいかねないが、無視して斬りかかる。
最短最速での特攻ーーそれが私の打っておいた布石であり、一手だーー!
霧が発生したことにわずかに動揺したエキドナだったが、だが、何をしてこようと子共のお遊戯。
それだけの実力差が二人にはある。 それがエキドナの油断だった。
同格と認めた相手には決して取らない弟子相手故の弱み。
相手を探す事よりも戦闘を楽しむことで、愉悦に近い感情を覚えていたエキドナはこの事態を深く追求しなかった。
故にーーソフィアの強襲ーー魔法を捨て、肉弾戦を訴えてくることを想定していなかったのだ!
「その瞬間ーー刃がエキドナの首を捉えた!
……だが、次の瞬間、刃はすり抜けるように影を裂き、虚しく霧散した。
まるでそこに実態など最初から存在しなかったかのようにーー
「シャドウ・サーヴァント」……? いや、それだけじゃない。
ソフィアの脳裏に、過去に読んだ魔導書の一節が蘇る。
『影は"一度だけ"主人を護る。 そして、その役目を終えた影は、"消える"』
「つまり……あれは"エキドナの分身"。一回限りの自動防御……!?」
だが、それならば、今この瞬間ーー『本物のエキドナ』は、完全に無防備なはず……!
ソフィアは本命の一撃を外したことに軽い舌打ちをしつつーー
「なんとなくこうなることはわかっていたの!?
さあ、準備はできたわ。
応えて最後の刻印ーー切り札・アポカリプス。
最後の発動するとっておきの魔法ーー全ての魔力を変換して
『デットエンド・アポカリプス』に魔力を注ぐ これでダメなら諦めもつこうというものだ。
そういう心構えで、放つ最上級の魔導・アポカリプス。
このタイミングならば、防ぎようがないはず?
勝利を確信するソフィア?
だが、ソフィアは全身の魔力を刻印に集中させるーーその瞬間、エキドナの表情が僅かに歪んだ。
「……ほう、お主が"それ"を使うとはの?」
その声音には、わずかに驚きの色が混じっていた。
だが、すぐにエキドナは笑う。
「ふぉふぉふぉ……なるほど、ようやく"弟子の枠"を超えたか。
過去何人もの弟子を視てきたが、魔法の資質でお主を超えられる者はおそらく居なかっただろう?
ならば、今こそ見せてやろうーー"本物の魔導"をな?」
ソフィアの全魔力が、刻印に込められ、"終焉の魔法"が解放されるーー!
「アポカリプス……発動!!」
轟く魔力の波動。空間が揺らぎ、世界が軋む。 だが、その時ーーエキドナは、ただ笑っていた。
「さて、おぬしに"本当の絶望"を教えてやろうかの?」
次の瞬間、ソフィアの視界が、"塗りつぶされた"
ーー違う。何かが、違う。
刻印から放たれる全魔力が、闇に飲み込まれる感覚。
「……嘘よ。私の魔力が、吸い取られてる……!?」 その瞬間、理解した。
ーーこれは、"私の魔法"じゃない。
ーーこれは、"エキドナの魔法"なのだ。
「まさか、"返された"……!?」
ーー負けた。
そう認めた瞬間、視界が暗転する。
どこまでも続く闇の世界に、ソフィアは吸い込まれていった。
お主は一つ忘れていたようじゃの、アポカリプスの術式を開発したのはこのわし自身なのじゃよ?
その一つ一つを完全に理解しておるのじゃ。
もしお主に別のSランク魔術が使えればあるいはそれはわしにも届いたかもしれんの?
それぐらい、お主の作戦ーーそしてわしの油断は致命的だっといえよう……
ーーだがの、切り札がわしが全てを知る魔導ではちぃと弱かったの、もちろんノスフェラトゥでは止めにはならんよ
つまりじゃ、元々お主には、この勝負勝ち筋等なかったのじゃ、ふぉふぉふぉ……
不利を悟った上でなおも、承知で受けたソフィアお主の負けじゃーー!
では最後の採点じゃーー
「アポカリプス(魔導)とはの……"術者が制御できなければ、返される"魔法なのじゃよ」
「わしがこの術式を作った時、最初に考えたことがある。"どうすれば、これを無効化できるか" とな?」
アポカリプスの闇に捕らわれたどちらか? 言うまでもなく視界が既に暗闇が広がっているソフィアの方だった。
『アポカリプス返し』このオリジナルである原点を作り出した、エキドナにのみ許された唯一の回避方法、そして、回避のみならず返しさえも可能とするーー!? 開発者のみの特権……
その瞬間に攻守は一変する。 少し術式を触っただけのエキドナと軽く触れられただけのソフィアーー! だが、その差はあまりにも大きく、勝敗を分かつーー!
闇に飲まれたソフィアは、そのままエキドナによって闇の中へと堕とされていった。
「負けた」と認めた瞬間ーー心臓が跳ねる。 何かを掴みかけたはずだった。何かを変えられたはずだった。
だがーー全ては、掌から零れ落ちるように消えていく。
ーーこれが、エキドナの領域なのか。
ーー私は、まだ届かないの? 私じゃ勝てない……永遠に?
それでも、ソフィアは悔しさに唇を噛み締めた。 そして、意識が闇へと沈んでいく……
闇に墜ちたソフィアーーまるで天地が逆転したかのように宙を舞い混沌の闇の中をさまよい続けることしかできない。
ーーこれは、アポカリプスの"本来の姿" だと理解する。
エキドナの独白が聞こえてくる。
『終焉をもたらす魔法? ふふふ、それは違う。"終焉を返す魔法"じゃよ』
その闇を受けてソフィアの意識が塗りつぶされる。
『ダ……メ、これじゃ意識が……保てない』
そうしてどこでもない奈落の底ーーエキドナの魔力の渦へと封じ込められてしまうソフィアーーそこにエキドナの独り言が響くが、徐々にソフィアの意識は漂白されていった……
「ふぉふぉふぉ……まさかここまでとはの?」 確かに、想定以上の成長よ!
思わぬ成果だったの?
だが、それでも、まだ "足りぬ" この程度では、わしの影すら踏めぬ。
エカテリーナ外来ていればあるいは違ったのじゃが、今はソフィアに期待しておくとしようかの?
それでもーー ふっと、エキドナの唇が微かに笑みを描いた。
「次に相まみえるとき、お主はどこまで届いておるかの?」
果たしてわしの後継者たり得るのかもまあ、見物ではあるの?
最もそのときは、ソフィアではなくなっているだろうがの?
眠るソフィアを尻目に、エキドナの独白が響き続ける。
彼女の言葉は魔力を通じてソフィアの意識に届いていたが、それを気にする様子は微塵もなかった。
わしがアポカリプスを作ったように、お主にも、その機会は来よう?
いずれお主も何らかの大魔法を作れる器としてた大成したとしよう、そのときが来れば分かるはずじゃ。
今言ったことを記憶の隅にでも覚えておくのじゃなーー!」
「思いのほか楽しめたわい、まさかここまでできるとはの割と楽しみになってきたわ?
リミッターという名の心の架せが外れた時あの娘は、急成長を遂げるだろうな。果たしてそのとき、相まみえたらどちらが立っているか、それはそれで興味が尽きぬの?
「思いのほか楽しめたわい。まさかここまでやれるとは……楽しみになってきたの?
リミッターが外れた時、あの娘は急成長を遂げるだろうな。
もしもその時、私と相まみえたら、果たしてどちらが立っているか……?」
「……いや、どちらでもよい。奴は私のキリングドール(殺戮人形)じゃ。それは生涯変わらん」
そう呟くと、エキドナは煙草のような香草を取り出し、一服し始めた。
ソフィアの一色が再びともったとき彼女は弱気な少女へと戻っていた。
彼女は過去のトラウマから、自らにリミッターを架して心を閉ざしてしまっている。
だが、そんな彼女の刻印ーーそして出自に目をつけたエキドナに拾われた。
それがソフィアだった。数ある実験体立ちの唯一の成功例ーー齢10の時に暗殺者としての試験に合格し、エキドナとの接戦を経てその地位を確立する。
だが三つ、彼女にはそれまでと違っている点があった。
1・心を閉ざすリミッター
2・それまでに培った記憶のリセット
3・魔術の魔導の知識ほぼなくなっていることだった。(最低限の知識はある)
ーーが熟練者としてのレベルに到達していたソフィアとしてはこのままでは頼りない。
そして極めつけは洗脳だった。
「いいかいソフィア、お前は今日からアリエルだ。 14歳になるである誕生日ーーその日に告げられた現実に。 ソフィアは光のない瞳で、こくりと頷く。
「はい、私はアリエルです。」
そう言わされた。
まるで、自分の意思ではないかのように、口が勝手に動いた。
でも、私は違う……私はソフィアなのに……
抵抗はできない。負けた時点で決まっていたことなのだ。 あそこでエキドナに勝てなければ運命にあらがう事などできなかったのだ。
完全新作としてリメイクするか立ちとなります。 旧投稿版を読んでいる方は申し訳ないですが、こちらへ移動よろしくお願いします。 定期的にバトルシーンや見せ場を作る方針に変えようと思いますので、どうかよろしくお願いします。