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第三十七話 突然の通達。

「あの、僕っ、アーシェリヲンと申します。マリナさんにはいつもお世話になっています」

「お、おう。そうなのか。いやはや多少はマリナの依怙贔屓(えこひいき)がはいってるとは思っていたんだがな。ここまで礼儀正しい子はなんとも久しぶりだな。こっちが少子狂っちまうくらいだよ」

「ありがとうございます」

「この礼儀正しさは他の探索者も見習ってほしいものだな。とくにガルドラン、お前はな」「な、なんで俺なんだよ?」

「……それがわからないからまだまだなんだよ。これでマリナと六歳違いだって言うんだからな」


 この探索者協会ヴェンダドール本部、本部長のガーミンは『やれやれ』という感じに肩をすくめながらそう言う。


 確かガルドランは二十四歳。六つ違いというならマリナは十八歳だ。アーシェリヲンの義理の姉レイラリースと同い年ということになる。


 アーシェリヲンが知る限り、狼人であるガルドランは長命な種族でもある。だが、年齢的にはガーミンから見たら子供と同等。多少の年齢差はあっても、扱いはアーシェリヲンと横並び。年長なのだから見本になれという意味も含んでいるのかもしれない。


 アーシェリヲンの頭は撫でやすい位置にあるのだろうか? 男女分け隔てなく撫でられてしまうのだから。こうして今、ガーミンもガルドランのような大きな手のひらで無意識に撫でしまっている。おそらく彼は、娘たちと同じ扱いをしているのかもしれない。


「僕はまだ探索者になって間もないですし、何もできませんから」

「あのな坊主」

「はいっ」

「謙遜するのは悪いことじゃない。だがな、し過ぎると余計に目立ってしまうものだぞ?」

「どういうことですか?」

「あのな坊主」

「パパさんだって坊主って――」

「ちょっとは黙っていろ。これから大事な話になるんだ」

「お、おう。わかったよ……」


 本来であればガーミンもアーシェリヲンのことを『坊主と呼んでいるじゃないか』とツッコミをいれたかったところなんだろうが、ここは素直に引き下がるしかなくなるガルドランだった。


「アーシェリヲン」

「はい」

「お前は今日から鉄の序列を名乗れ」

「……はい?」

「何だ? 嫌なのか?」

「いえ、そうではありませんがその、ありがとう、ございます」


 アーシェリヲンは自分の頬を指でつまんで引っ張っている。痛みで夢ではないことを確かめているのだろう。


「頑張れよ、期待している。マリナ、手続きをしてあげなさい」


 マリナには丁寧な言葉使い。娘たちにはきっとこうなのだろう。ガーミンはアーシェリヲンの髪をもう一度くしゃりと撫でると、受付の奥へ戻っていった。


「アーシェリヲン君」

「は、はい」

「カード、いいかしら?」

「はいっ、お願いします」


 アーシェリヲンはマリナに探索者の身分証明カードを渡す。彼女は何やら石盤の上に置くと、何かを入力しているようにも思える。一度光ると、手続きは終わったようだ。


「お待たせしたわね。はい、アーシェリヲン君はこれから鉄の序列になったわ。おめでとう」

「あ、はい。ありがとうございます」


 マリナから受け取ったカードを見ると、確かに変わった。今までは赤銅食だった線が、青銅色を通り越して鉄色(くろがねいろ)になっている。アーシェリヲンは登録して(わず)か数日で二段階の序列が上がった、珍しい探索者というわけである。


 存在を忘れられていた、ガルドランの拳に握られた羽耳兎がじたばたと暴れていた。


 ガルドランが買い取り受付へ羽耳兎を渡す。


「これでこいつは坊主の序列点になるわけだな? マリナの嬢ちゃん」

「……はい、そうなりますね」

「あの、お肉は皆さんで食べていただけますか?」

「いいの? 美味しいし、肉と皮で銀貨二枚を超えるのよ?」

「はい、いいんです。僕、鉄の序列になったので、それが嬉しくて……」


 ガルドランが先ほどのガーミンのように、アーシェリヲンの頭に手をやる。


「マリナの嬢ちゃん、これは俺が買い取る。坊主のカードに入れておいてくれ」

「いいんですか?」

「あぁ。坊主の昇格祝いだ。これ、肉にして食堂で料理してやってくれるか?」

「はい。手配します」


 ややあって、羽耳兎の丸焼きがテーブルに乗る。前足、もも、胴肉、背肉、それらが一口大に分けて切られていた。香ばしく美味しそうな香り。ガルドランがフォークに刺して、アーシェリヲンに手渡す。


「ほら、獲った坊主が食べてやらないと駄目だろう? 狩猟ってのはそういうもんだ」


 昇格祝いと一緒に、狩猟の心得を教えるガルドラン。


「はいっ、いただきます」

「お、おう」


 塩と香辛料よくすり込んで、魔法の火で焼かれたものらしい。淡泊だが歯ごたえはよく、噛めば噛むほど味がしみてくる。


「やわらっ、これはうん、美味しいです」

「そうか? 『ちーずそーすはんばーぐぷれーと』に比べたらそうでもないだろう?」

「それはそうですけど……」


 本来肉料理とはこういうもの。『れすとらん』の料理が特殊すぎるだけなのである。どちらかといえば、『ちーずそーすはんばーぐぷれーと』で使用している肉と、この羽耳兎の肉では旨みはこちらのほうが強い。同じように肉を叩いて、『はんばーぐ』にしたなら、こちらのほうが旨いはず。

 ただ、羽耳兎の肉を使って『ちーずそーすはんばーぐぷれーと』を作った場合、銅貨十枚でだすことは無理だ。安価な肉でも、羽耳兎の肉に負けない味に仕上げる。そのような、美味しく食べてもらうという技術があるのが、『れすとらん』なのである。


「ガルドランさん、あまりアーシェリヲン君を……」

「はいはい。からかいすぎた。ごめんな坊主」

「いいえ。良い経験になりました」


 中和草で銀貨四枚以上、羽耳兎で銀貨二枚と少し。合わせて銀貨六枚を超える収益。これを今日一日で稼いでしまった。


「そっか。僕、銅や青銅の序列でいちゃいけないんですね」

「あぁそうだ坊主。お前は既に、あの子たちの仕事を奪ってはならないほどの探索者なんだ。同時にな、坊主は目標に、見本にならなきゃいけない」


 ガルドランはアーシェリヲンに、羽耳兎の肉をお裾分けされて美味しそうに食べてる少年少女を見るよう、促すわけだ。


「はい」

「薬草の最終続けてもいいんだ。だが、場所を選ぶ必要がある。そういうことだな」

「はいっ、わかりました」

「うん。いい返事だ」


 ガルドランの手は、アーシェリヲンの頭を撫でる。もう、癖になっているのだろう。


 確かに、街道が見える場所での採取はもうできない。そうでないと乱獲になってしまうからだ。


 そんなときふと、あることを思い出した。アーシェリヲンはマリナの元へ歩いて行く。


「マリナさん」

「何かしら?」

「前に見せてもらった依頼書に、『魔石でんち』の充填作業ってありましたよね?」



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