4 教会はものすごい
「本当にいいのか?」
「いいですけど、その代わり言質はとりましたからね」
マジかよラッキー、これで森で野宿は回避だな。でもとんでもない墓穴を掘ってしまった感もあるような、まぁなんとかなるか。
「じゃあお祈りが終わったらでいいから君に付いていかせて貰ってもいいかな。街かなんかに住んでるんだろ?」
「君……?」
少女はどことなく不服そうだった。
「え? 何か駄目だった?」
「私にはリメという名前があります。君という名前はありません」
「ああそういうことですか。わかったよ、今から君はリメだ。因みに俺は逢坂優だ」
「アイサカユー? なんだか頭がおかしくなりそうな響きの名前ですね」
あれ、なんだかうまく通じない? そう言えば異世界なのに普通に日本語が通じてるのもおかしな話だよな。どうなってるんだか、まぁ深く考えても仕方ないか。
「名字と名前で分かれてるんだ。適当に優って呼んでくれたらいいよ」
「何故私があなたの名前を呼ぶ前提なんですか? 今後一切呼ぶことはありませんよ。ユー」
「最後に呼んだ!?」
「今日の祈りはあと十二分五十五秒くらいで終わります。それまで待っていてください」
ということだったので待つことにした。
しばらく経ち、本当にそのくらいの時間でリメの祈りが終わった。
「ふう、今日も濃密なひとときを過ごせました」
「そう、なんだ」
「それでは早速教会に案内しますから、付いてきてください」
「あ、はい」
リメが先導し出したので、後ろに付いていく。
これで街までいけるな、良かった……
「リメは普段こういうことばっかりしてるのか?」
歩いている途中暇だったので話しかけてみる。
「こういうこととはどういう意味ですか?」
語気がちょっとピリッとしてるのを感じた。
「いや、別に他意はないんだけどな、この世界でどういう風に暮らしてるのかなと思ってな」
「この世界という言い方は、まるで他にも世界があることを知っているかのような口上ですね」
やべ……鋭いのか案外……
「ああ、まぁそれはほら、あれというか」
「もしかして天における存在の住まいを第二の世界と表現しているのですか? 確かにそういう文献も世の中にはあってーー」
なにやら語り出してしまう。
とりあえずセーフ? というか本当にどっぷりなんだなこの人。
「着きました」
そして、結構すぐにというか、あっさりと目的地に到着した。
目の前にはなんの変哲もない洞窟があった。
「どこだよ!」
「案内しただけですよ」
「え、まさかこんな場所に住んでるとか言わないよな?」
「住んでたらダメなんでしょうか? あなたに私の人生を定められる権限があるとでも?」
「いや、えー。てっきり街に連れていって貰えるとばかり……」
「さ、お茶でも出しますから中に」
俺は沈んだ心で洞窟の中に入っていった。
洞窟内は炎の明かりで照らされており、意外と明るかった。
「こちらにお乗りください」
そして進んでいくと白い石でできたファンタジー風装置のようなものがあった。
「え……これは一体……」
「この上に乗ることで、死ぬんですよ」
「じゃあ絶対乗らないです」
「それは冗談で、ワープするんです」
「どこに?」
「ピモニカの神殿です」
「普通に信じられないけど……」
「信じて貰わないことには、話が進みませんけど」
どこかでも言われたような台詞を言われてしまった。もうこうまでなったら乗るしかないんだと俺は学習していた。そしてこういう場合は、大抵なんとかなったりするものだ。
俺は意を決して装置の上に乗った。
「……乗りましたけど」
「私も乗りました。それじゃあ、コンパナララティスオミジュッカイカイ!」
聞いたこともない言葉を並べたかと思うと、瞬間、景色が書き変わった。
次に瞬きした時には、俺たちはよく分からない白い小部屋のような場所にいた。
「え! これは……」
「見たことありませんか? 転移装置なんですよ。街まで一瞬というわけです」
「あの洞窟に住んでたんじゃないのか? お茶でも出しますとか言ってたのなんだったんだよ!」
「ジョークに決まってるじゃないですか。可愛いプリティージョークですよ」
「なんじゃそりゃ……」
何がしたいんだこいつ……
この少女のことがますます分からなくなってきた。
その後部屋から出ると、そこは神殿に繋がっていた。
神殿の内部とリンクしていたらしい。
全て謎だが、まぁリメいわくここは街の中ということらしいからよしとしようか。
「さぁ、ここです」
そして流れのままに連れてこられたのは、長椅子がいっぱいに並んだ会堂だった。
途中、でかい彫刻や階段なんかがあって、かなり立派な神殿のようではあった。それに漏れず会堂もかなり広い。
「そこの者!」
「え?」
リメがその辺にいた神官風の服を来てる男に声をかけていた。
「あ、こ、これはリメ様」
「この者を信徒に向かえる準備を致します。聖衣を持ってきて差し上げなさい」
「はっ!」
男はどこかにはけていった。
「……リメさんは結構偉い立場の人間なんですか?」
「そんなことはないですよ。まぁちょっとだけはそんなことあるかもしれませんが」
「なんだそれは」
「あらー! リメちゃんじゃない!」
そんなことを話しているとどこからか知らない人が寄ってきた。
キラキラした服を着た男だった。