3 異世界と湖の少女
視界を覆っていた光がようやく晴れていく。
そして目の前に現れた光景は……
「森……だよな」
鬱蒼と木々が生い茂った森の中だった。
「ふざんけんなよ! おいおい、マジかよ、俺ホントに転生したってこと? こんなのどうやって生きてけばいいんだ。覚悟とか全然決まってないんですけど!」
あのアホ神様め……ろくすっぽ説明もよこさずに……しかも異世界の森の中とかどう考えたってやばいだろ!
「ああ、確か魔王を倒せってこと言ってたよな? それどころじゃないぞマジで」
さっきから変な野鳥の鳴き声とかが鳴りっぱなしなんだよ、とにかく一刻も早くこんなヤバそうな場所から退散しないと……でも一体どっちに向かえば……
「うん? あれは一体……」
俺は木々の枝葉から一本の光が天に向かって立ち上っているのを発見した。
なんだか分からないが、この森においては不自然だ。試しに近寄ってみるか……? もしかしたらあれがあるからこの辺に転生させられたのかもしれない。
俺は目的もあても特になかったので、寄ってみることにした。
何事もなく付近に到着した。
「湖……?」
森が開けたかと思うと、そこには対岸が見えるくらいの大きさの湖があった。
キラキラと水面が美しい。
「あれは……祭壇?」
その湖のど真ん中にちょっとした白い祭壇のようなものが建っていた。
よく見れば光はその祭壇から立ち上っているようだ。
「こんな場所になんて意味深な……あれ? しかも誰かいないか?」
遠くでいまいちよく見えないが、祭壇で誰かが祈りを捧げているような気がした。
いや、あれは絶対人間だ。俺の勘がそう叫んでいる。
「おーい! なにしてんだー!」
俺は流石に気になってしまったので叫んでみた。
しかし祈りに集中しているためか、反応がない。
「こうなったら泳いでいくしかない!」
この状況で見つけた人間だ。
諦めるわけにもいかない。
しかもこんなところで祈ったりしてるんだ、こんなところに転生させられたことも踏まえて、あの神様と何か関係があるに違いない!
「がほっ、がほっ、げぼげぼ」
俺はクロールでなんとか湖を渡りきった。
今俺は旅人風の服に身を包んでいるのだが、これが水を吸い込むこと吸い込むこと。
めちゃくちゃドロッとして気持ち悪い……
「そんなことより……」
俺は満を持して祈りを捧げる人間の方に近づいていった。
その人物はピンク色の髪の少女だった。
神官衣を身に纏い、正しい姿勢で祈りを持続させている。この状況でも気づかないなんて、恐ろしい奴だ。
「てかやけに小さいなとは思ったけど女の子だったか……おーい、聞こえるかー」
俺は至近距離で話しかけた。
すると流石に気づいたのか、祈りを中断し俺の方を振り返ってくる。
え……なんか思ったより可愛い……?
「……私になんのようでしょうか? 祈りを捧げるということは、つまり死にたいということですか?」
「え?」
な、なんか見た目の可愛らしさに反して妙に毒々しい気が……
「自ら安楽死を望むと言うことですよね、そうですよね?」
「あ、いや、ごめんそんなつもりはないんだ。本当に毛頭ないんだ。というか驚かせちゃったかな、急に話しかけてしまって悪かった」
「そうですか。まぁ謝罪は受け入れましょう。私もイオリナ様と同じく寛大な心を持っていますからね。しかし祈祷の邪魔なのでもうこれ以上話しかけることはやめてくださいね」
そう言って再びお祈りモードに戻ってしまう。
えぇ……なんなのこの人? 普通俺を無視する? この状況で? 大物すぎないか流石に。
「ええと……」
「……」
俺は話しかけようとしたが、お祈りの邪魔をするのは確かに悪いなと思い直し、少女のそれが終わるのを待つことにした。
「あの」
と思っていたら間もないタイミングで向こうの方から話しかけてきた。
「え?」
「ずっといられると集中できないんですが」
「俺のことなんか気にしなくてもいいぞ」
「そういう問題では…………ああもういいです、なんの用なんでしょうこの誇り高きイオリナ教神官である私に。用事が済めば消えてくれるのでしょう?」
「何してるのかなと思って来てみただけだよ。それと実は迷子になってて道を教えて欲しいんだ」
「はぁ、そういうことですか。それならあっちの方向です」
少女はとある方角を指差した。
指は空に向いていた。
「……どういうことですかね」
「安らかにお眠りください」
「だから死なないって言ってるだろ!?」
「それかこうですね」
少女ば雑に湖を指差した。
「溺死もしないですけど!?」
「はぁ、わがままな人ですね。本当はあっちですよ」
少女は今度は地面と平行な方角へ指を指していた。
「いや、狼少年の要領で信用できないんですが……」
「なにを訳のわからないことを。ではどうすればここを離れてくれるんですか? あなたが今やってることは完全な時間泥棒ですよ」
「それは本当に悪いと思ってるよ。でも困ったな
、今のところ本当に君しか頼る人がいないんだ」
「可愛そうな人ですね。イオリナ様も泣いておられますよ」
「そんな冷たいことを言わないで」
「真実を言っているだけです」
「そこをなんとかならないか?」
「なりませんね」
「イオリナ教に入ります」
「いいでしょう」
いけてしまった。