2 能力は決めて貰うもの
「魔王倒しちゃおう計画って……」
神様の口から出た言葉は耳を疑うようなものだった。
「うむ。光栄に思うがよい」
「いや思えませんよ、突撃して死ねってことですか? 僕は至って普通の高校生で、剣を振るったり地面にクレーターを作ったりはできないんですが」
「アホか、そこはからくりがあるに決まっておろう。もちろん地球でのお主など鼻くそと呼ぶのすら生ぬるい塵芥をすり潰したかのようなゴミカス同然の存在じゃ。しかしこの星――ミルフォニアに限っては違う。お主には凄まじいほどの魔法適性がある。それをその世界であれば遺憾なく発揮できる」
「魔法適性……? ふっ、バカな、魔法なんて撃ったことないですよ」
「そりゃ地球とミルフォニアでは世界の構造がそれとなくかつ確実に異なるのじゃ、地球でできないこともこの世界でならできる」
「俺にも魔法が撃てると?」
「適性は間違いなくある」
眉唾な話だった。
魔法などと言われてもピンと来るわけがない。撃てる気も微塵もしない。
「そんなこと言われてもな……」
「まぁ儂が言うのだから真実であると言う他ないのう。信じて貰う他ない」
「そもそもなんでわざわざ僕なんですか?」
「それはさっきも言ったが凄まじい適性があるからじゃ。そのポテンシャルを遺憾なく発揮できれば魔王を討伐できる……かもしれない」
最後の方だけ妙にぼそっと言いやがった。
「いや、僕じゃなくても他のやつとかもいるでしょう」
「そりゃ候補はいくらでもおるの。地球で日々どれだけの数の人間が天に召されとると思うとる。ただそれでは駄目なんじゃ。お主でなきゃ駄目なんじゃ!」
「そんな急にグイって来んなよ……」
「まぁポテンシャルだけでは駄目ということじゃ。バカな鬼に金棒を持たせてもただのバカ野郎じゃ。本当に大事なのは性格面だということを儂の脳で導き出し、それを儂の開発した神的超スーパーコンピューターに条件付けして演算した結果、お主が選ばれたという経緯であっての」
「そう言えば僕のこと八号機とか言ってましたね……」
「ふむ、ここまでくるのは長かった……三号機までは正直儂もよく分かってなかった。それはノーカンとして、四号機は身体能力のポテンシャルで選んでしまい失敗。それじゃ駄目だと気づき、魔法適性の方でいくことにして、五号機を選んだがこいつは自分の魔法で自爆して死んだ。やばいほどのアホじゃったな。そしてその次の六号機は適性は過去一じゃったが途中で魔王討伐を放棄し遊び呆け出しおった。今も訳分からん国を作って遊んでおるわこのバカもんが……そして七号機はさっきのやつじゃ。正義感の強いやつを選んだつもりだったんじゃが、根本的な面でアホじゃった。楽観的で見積もりが甘すぎる、地頭が弱いというやつじゃな」
「……なんか人選にも問題がある気がするんですが」
「儂を愚弄するというのか? それは大罪じゃぞ。まぁ今回は許すがな。それで満を持してお主というわけじゃ。お主は魔法適性も七号機に勝るとも劣らんとありながら、非常に物事を冷静に判断できる性格の持ち主じゃ……という結果が出ておる!」
「コンピューター俺を買いかぶりすぎだわ……!」
「儂の開発した演算装置じゃ。穴なぞないわ。おっほっほ!」
「うわぁ。俺本当に魔王を討伐させられるの……もうそういう流れだよね?」
「まぁ拒否してもよいのだぞ。まぁ儂としてはピカイチの人材を失うことにはなるが、無理強いはできんからの。精神性を無視した采配はうまくいかんと散々学んだのじゃ」
「俺一人じゃなくてどんどん転生者を派遣するとかじゃ駄目なんです?」
「アホか、それでは世界の秩序もへったくれもなくなるじゃろう。地球にエイリアンが押し寄せてきたら侵略されてしまうじゃろうが。世界における他世界の異分子の占有率というのは規律により決められておるのじゃ。ようやく六号機の存在が世界に馴染んできて余裕が出てきたところなのに、人材は厳選せねば勿体ないじゃろうッ!」
「知らないですよ……」
「ともかく今のところは転生枠一人分をやりくりすることしか無理じゃ。というわけもあり願わくば、魔王を討伐するついでに六号機もぶっ殺してくれるとありがたい。あいついけ好かないしのう。お主のサブミッションじゃ」
「もう俺転生確定みたいになってるんですね……」
「別に良かろう。儂がこうして声を掛けてなければお主は意識を蘇らせることなく無に還っておったんじゃぞ」
「そう言えば俺ってなんで死んだんですか?」
「そんなもん知るか」
「嘘だろ!?」
「それではお主の魔法の属性を絞ろうと思う。無駄を削ぎ落とし、方向性を一つに固めることで適性を更に限界値ギリギリまで押し上げることができるからの」
「はぁ、なんだっていいですよもう……」
この男とまともに話をすることはもう諦めた。生き返れるだけタダってもんだ。そういうことにしておこう。これが神様だなんて信じられるか?
「お主、まさかと思うがいろんな魔法をいっぱい使いたいとか思うておったんじゃなかろうな?」
「そんなこと思いませんよ、まず使えると思ってないんで」
「属性はお主の好きなものを選ばせてやる。限界値はすべてほぼ同等に設計されておるからの。お主にあったものを選ぶとよい」
「そんなこと言われても分かりませんけど……」
「それでは冷静にいけという意味で氷属性にしてやろう。冷静に、そして確実に魔王を凍らせるのじゃ。ついでに六号機もな」
結局神様に決められてしまった。選ばせてやるという言葉はなんだったのか。
「それじゃ方向性は固まったの。その辺は転生の際にいじっといてやる。今は時間が勿体ないからの。今のお主はすぐにでも異世界に慣れることが肝要なのじゃ!」
勝手に話が進んでいた。
「それでは転生の儀に入るぞい」
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ、まだイマイチ飲み込めないというか、魔王の弱点とかそういうのを教えて貰えたりとかはないんですか?」
「魔王に弱点はない!」
「おい!」
「自分の目で見て探るのじゃ。大丈夫、なんたってお主は……儂の演算装置が導き出した男じゃからの。コンピューターの申し子じゃ。はぁ!!」
神様が急に俺に両手を突き出してきたかと思うと、俺の体が淡く発光し始めた。
ええ!? 嘘だろ、このタイミング!?
「それでは健闘を祈っておるぞタケシくん……いや、ゴンゾウじゃったかの……ええと、忘れた」
その言葉を最後に、視界が完全に光に包まれる。
ああ、異世界転生……始まるん……だ…………