爆弾処理ガール! (企画8989リライト)
しいな ここみ 様 主催の「リライト企画」参加作品です。
ウナム立早 様の作品『爆弾委託ガール! 8989』のリライトです。
仕事もない日曜日の午後3時、コンビニのイートインでカフェラテを飲んでいたときポケットに入れていたボクのスマホが鳴った。
『今忙しい? 相談したいことがあるの』
クラスメイトのリカちゃんからのLINE通知だ。東八幡の青い縞々にいると伝えると、彼女がやってくる。赤のゴム編みカチューシャに同色のメガネをかけている。そしていつもの白衣。中学生ながらすっかり『理科ちゃん』だ。ドジっ子だけど。
「LINEで言ったのはこれのことなの」
そう言ってリカちゃんが何かの電気回路をカバンから取り出す。『自宅でできる簡単なお仕事です』という科学雑誌の広告で引き受けたハンダ付けと組み立ての在宅バイトだったと言う。ところが彼女はそれを一つ返送し忘れたらしい。
「基板の不良品で分けて置いたらうっかり。だけど後で送ったら戻って来ちゃったのよ」
受け取りは民間の私書箱で、相手の電話ももう繋がらないらしい。アクメ・コーポレーション? ベタに怪しすぎる。しかもなんとなく事件の匂いがする。乙女の勘だ。
「じゃあお願いね。See you later~あースッキリした!」
リカちゃんはハリウッド女優のようにカッコ付けたダッシュでコンビニを勢いよく飛び出していった。そんなにいい発音で言われてもボクが困るんだってば!
爆弾が仕掛けられたとの緊急指令を受けてボクは現場に急行した。こんな仕事は勘弁してほしいんだけど! 他の処理班はバラバラに別の現場に向かったらしい。同時多発テロだ。テロリストの要求はリバティーンズの来日公演だって。いや無理でしょ。お前は沢田研二か。
本職の指示を受けてボクも爆弾の解体を進める。無線から放送禁止の悪態が聞こえる。複雑な回路は何人もの素人が作ったものの組み合わせで、そのアナログさがかえって本職の思考を邪魔するのだという。
チッ。チッ。チッ。というタイマーの針が秒を刻む音に神経が削られる。気を紛らわそうとボヘミアン・ラプソディーを歌ったら『笑って手元が狂う!』と怒られた。むう、解せぬ。
赤か青かの最後の二択問題、そこに犯人から連絡が入る。『リバティーンズの来日公演が無理なら120億円払え。そうしたら赤か青か教える』だって。だけどこの心臓部の回路、どこかで見た気がするんだよな~
そのとき頭の中で閃くものがあった。そう、リカちゃんのあの回路だ! だったらボクは自分を信じるよ。そうでなきゃこれまで生き残れなかった! 違ってたら肩をすくめて笑ってごまかすしかないけどね。
ボクは赤のコードを切る。そしてそれが正解だった。歓声が無線を通して伝わってくる。ボクも緊張を解いて床に体を投げ出す。
『よくやったな「土曜日のひまわり」、さすが俺の娘だ』
ありがとう所長、じゃあクリスマスプレゼントは期待していいよね?
次の日、学校の机でぐてーっと伸びているとリカちゃんが声を掛けてくる。
「どうしたの乙女、疲れているみたいだけど」
あーうん、ちょっと日常を噛みしめているトコロ……
「何それ? 任務を終えた爆弾処理班みたい。ほら、昨日のニュースみたいな」
……うん、それまさにボクのことだから。