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花火と登攀

作者: 北聖恕

 今思い返せば、あれは嘘だったんです。単なる幻。それでも、わたしにとっては懐かしい記憶です。

 窓の外の夜空を見ていました。そこには知らない山と知らない空が広がってます。

 わたしの傍らには、よく知らない人が二人。彼女たちの計らいで、花火大会が始まるのを待っていました。

 毎年夏になると家族と一緒に家のベランダで花火を眺めたものです。

 打ち上げ場所にそんなに近いわけでないので、空の上を花火が上がるというよりも、空の向こう側に花火があるといった感じです。それでも、色鮮やかな閃光は私を十分に興奮させて、その音、遠くから感じる煙臭いにおいは、幼いわたしに夏の思い出を刻みました。

 その家のベランダよりもっと遠い空に上がる花火。入院する前に家でも花火を見たので、その夏2回の花火を見たことになります。

 徳をした気分、なのだとを自分に言い聞かせつつ、なんとなくもの悲しさ不安さというものも感じていました。

 それでも花火は綺麗で、きらきらしたものは美しくて、楽しさと寂しさがまじりあったその瞬間そのものを、わたしはやっと受け入れる気になったのです。


 それから月日が流れて、一回り大きくなった私はひと夏を過ごした病院の近くまで来ました。それは、意図していたわけではなくて、ちょうどその近くにある山へ登る際見つけたのです。

 山といっても小さな山です。それに比べて、その病院はわたしが想像していたより一層大きかった。

 こんなに大きな病院に入っていたのか。わたしはどの病室にいたのだろうか。

 そんなことを考えながら病院を眺めていると、だんだんと疑問を抱くようになったのです。


 あの花火大会は本当にあったのだろうか?

 どうもこの病院の所在する町は、わたしの想像よりもさびれていて、それでいて特段自然があるわけでもない。あの花火大会の記憶の光景と一致するとは到底思えなかったのです。

 あの時見た景色は真っ暗だった。でも、それにしても、周囲の雰囲気が全く違いすぎる。

 幼い時は体が弱く何度か入院したので、それぞれの記憶を取り違えたのだろうか。花火大会を見たのはまた別の場所だったのだろうか。

 わたしに残ったうっすらとした記憶は、その答えのヒントも与えてくれませんでした。


 でも、確かにあった入院という出来事。それだけじゃあっけない。思い出にすらならない、だから、本当にあったかわからない花火大会という美しい情景が私に必要だったのではないでしょうか。


 もう一つ、実際に見たか確かでない情景があります。

 山の頂上にわたしはいました。そこには火山湖があって、青緑色をした水が満ちていました。

 そして何よりも心に残っているのは、空の青さ。怖いほど青い空。昼間なのに、向こう側の暗闇を予感させる濃紺の空でした。

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