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第七話  友人(後編)

「あそこです!!」


 レイデルトが森を後にして暫くした後、レイデルトがガルトとワイアット、ソニアを連れてアミルの下へ戻ってきた。


「アミル!!」


 切り株の上で倒れているアミルを見つけると、ソニアが大きく名前を呼んで、アミルの下に駆け寄る。


「アミル。大丈夫!起きて!!」


 アミルの頬を叩きながらソニアは、さらに強く呼びかける。


「う、う~ん。あれ?母さん?」


 アミルが目を覚ますと目の前には、涙を流している母の姿があった。アミルの顔は、ソニアの涙でびしょびしょに濡れていた。


「アミル!あぁーー!!良かった。ホントに無事で良かった。」


 ソニアは、目を覚ましたアミルを見て、安心すると今まで以上に涙を流して抱きつく。


「心配かけてごめんなさい。僕は、ちゃんと無事だよ。」


 アミルは、上半身を持ち上げ母を抱き返す。少し目をつむっていたが、目を開けると大量の汗を掻いたワイアットとガルト。そして三人を呼んできてくれたレイデルトの姿もあった。


「本当に無事でよかった。」


 ワイアットは、アミルとソニアをまとめて抱きしめる。


「レイ!ありがとう。皆を呼んできてくれて。」

「いや、僕はアミルが言った通りにしただけで・・・」


 レイデルトは、気まずそうに返事をする。


「ところで、アミル。その子犬は?」


 ワイアットが指を指した先には、さっきアミルが助けたアダマンタイトウルフがいた。


  グルゥゥ~


 アダマンタイトウルフは、切り株の陰に隠れてワイアットたちを威嚇していた。命の恩人がいきなり知らない人間に触れられていることに怒っている。


「あ~、この子は、あいつに追われていたところを僕が助けたんだよ。」


 アミルは、20mほど先にあるアリゲイトベアの死体を指差す。その方向を4人が見る。


「・・・・・・え?あの熊を倒したの?アミル君。」


 4人は、口を大きく開いて驚いている。


「そっか。凄いな。アミル君は。ん?あいつは!ちょっと、あの熊を調べさせてもらってもいいかな?」

「いいですよ。」

「僕も手伝いますよ。父さん。」


 ガルトが唖然とした後に、アミルに許可を取ると熊の死体に近づいて、熊を調べ始める。レイデルトもガルトの手伝いをするために付いて行く。


「さて、アミル。今回は、運良くケガも無かったけど、絶対にこんな無茶したらダメだ!なぜ、レイデルト君と一緒に逃げなかったんだ?それに、なんでこんな森の中で遊んでいるんだ。」


 レイデルトとガルトが熊の下に行き、離れた後にワイアットは、無茶をしたアミルを叱る。


「父さん、母さん、黙って森の中で遊んでいたのはごめんなさい。でも、レイと一緒に逃げなかったのは、あの熊を放っておいたら、町に侵入したかもしれないからです。それに、この子も食べられそうになってたから。」


 アミルは、両親に謝罪し、ワイアットに自分が考えていたことを正直に話した。ソニアは、アミルを心配しながら見守っていた。


「アミル。俺たちからのお願いだ。もう二度とこんな、危険なことはしないでくれ!」


 アミルの目を真っ直ぐに見ながらワイアットは強く言葉を放つ。


「分かりました。しかし、僕が必要と感じたら、危険だと分かっていたとしても戦います!それが僕の目指した騎士だから!!」


 ワイアット同様に、真っ直ぐに目を見ながらアミルは、初めて親に反抗した。


「は~、分かった。お前が真剣に考えたことなら否定はしない。アミルは、何でもできてしまうからな。でも、もっと親を頼ってくれ。小さな騎士を守るのは、親の仕事だからな。」


 ワイアットは、少し考えると大きく溜息をつき、アミルの頭を撫でる。


「そうよ~。もっと頼ってね。アミル。」


 ソニアもアミルの頭を撫でる。二人は、もう一度アミルを抱きしめる。


「ありがとう。父さん、母さん。」


 アミルも二人を抱き返す。


  アウ~~


 切り株の裏からアダマンタイトウルフが警戒しながら顔を覗かせる。アミルの反応を見て、ワイアットとソニアへの警戒心を緩めたようだ。


「おっ。大丈夫だよ。こっちにおいで。」


 アミルは、二人から離れるとアダマンタイトウルフに近づいてしゃがむ。


  クウォン!


 アダマンタイトウルフは、小さく鳴くとアミルに近づき、手をペロペロと舐め始める。


「父さん、母さん、この子を飼いたいのですが?」


 アダマンタイトウルフを抱き抱えて振り向くと、二人に家で飼うことができないか相談する。


「あー、いいぞ。別に大丈夫だよな?ソニア。」

「いいわよ。その、ワンちゃん可愛いし。」


 ワイアットとソニアは、あっさりと承諾した。


「それに、新しい家族が増えるのは嬉しいことだわ。うふふ。ねぇ、あなた。」


 ソニアは、ワイアットに笑いかけるが何やら圧がある。


「あーーー、そうだな。カゾクガフエルノハウレシイナー。」


 ワイアットは、ソニアの圧に耐えられなかったのか片言になりながら、目を泳がせている。


(ほほ~。なるほどな~。近々、色々と期待できそうだ。兄弟とかな・・・)

「なっ!なんだよ、アミル!!」


 ニヤニヤしながら、両親の会話を聞いていたアミルにワイアットは気付き、気恥ずかしくなった。


「い~え~。べっつに~。何もありませんよ~。」


 アダマンタイトウルフの頭を撫でながら、流す。


「オホン!とっ、ところでアミル。その子犬の名前はどうするんだ?」


 咳払いをして、声が裏返りながらアミルに聞く。


「う~~ん。」

(アダマンタイト、アダマント、アダマンティ、しっくりこないな。あっ!)

「マカミなんてどうかな?」


 アミルは、少し考えた後にアダマンタイトウルフの目を見て聞いてみる。


  ワウ!


 名前が気に入ったのか。アダマンタイトウルフが返事をするように鳴く。


「お、気に入ってくれたか?じゃあお前は、これからマカミだ。よろしくな!」


 笑いかけるとマカミは、アミルの顔を舐めるために顔と舌を伸ばした。


「よろしくね。マカミちゃん。」


 アミルに抱き抱えられているマカミの頭を撫でる。マカミは、気持ちよさそうに目をつむった。


「おーい、ワイアットー。ちょっと来てくれ~。」


 アリゲイトベアの死体がある位置からガルトが手を振りながら、ワイアットのことを呼んでいる。


「今、行くー。」


 返事を返すとワイアットは、小走りでガルトの下へ向かう。


「どうしたんだ?ガルト。」

「いや~、アミル君はお手柄だぞ!」


 しゃがんでいたガルトが振り返ると、何やら嬉しそうにワイアットの肩を掴む。


「なんだ?この、熊がなんかあるのか?」


 熊の体を突っつきながら、ガルトに聞く。


「あぁ。最近、猟師が襲われる事件があってな。ワニみたいな口の熊に襲われたって報告あったんだ。A級の討伐依頼もだしてたんだが。まさか、アリゲイトベアだったとは。まぁ、正確なことは分からんから明日辺り、猟師に見てもらうことにするがな。」


 スレイガルの町は、猟師の数が多い。猟師は、毎日のようにこの西の森で狩りをしている。しかし、一か月ほど前から森の奥で狩りを行っていた猟師がワニのような口をした熊に襲われる被害が多発していた。死人も数名でていたことから、スレイガルの町では、この熊の討伐依頼も出ていた。


「じゃあ家の子は、7歳でA級の獣を討伐したのか。」


 若干、7歳の子供が大型の獣を狩るなどスレイガル始まって以来の偉業だった。まさか自分の子供がそんなことをするとは思ってもいなかったため、ワイアットは、固まってしまう。


「そういうことになるな。これは、大分問題になっていたことだから報酬も弾ませてもらうよ。正直、表彰ものだがそれは、今回の関係者だけで細々とやろうか。」


 アミルは、図らずも多くの猟師の命を救ったことになる。通常であればこれほどの功績は、公爵の名を挙げて大々的に表彰するところだったが、ワイアットとのある約束があったためガルトは、アミルの表彰を簡単にすませることにした。


「あぁ、アミルには、申し訳ないがそうしてくれ。」


 ワイアットは、横目でアミルを見ながら申し訳なさそうにする。


「まったく、過去が壮絶な人は大変だな。まっ、細かいことは任せておけ、ギルドの連中にもそれっぽく誤魔化しとくから。」


 ガルトは、ワイアットの肩をポンポンと叩く。


「ありがとう。ガルト、また世話をかけるな。」


 小さく頭を下げて、ガルトに感謝を述べる。


「あーそんな堅苦しくならないでくれ。折角の休みだし、俺とお前の仲だからな。」


 堅苦しいのが苦手なガルトは、ワイアットにやめてくれと手をヒラヒラさせている。


「なぁ、そろそろ帰らないとまずいんじゃないか?」


 空は、少し赤みがかっており、時間で言えば17時になろうとしていた。


「おっと、そうだな。少し、長居しすぎた。そろそろ帰らないとな。」


 そう言って、ガルトはレイデルトを見る。しかし、レイデルトの表情は何故か暗かった。


「どうした?レイデルト。」

「いえ、何でもありません。」


 ガルトは、レイデルトの肩を持って心配するが、レイデルトはさらに顔をうつむかせてしまう。


「レイ。話してごらん。お前の思っていること。」


 優しい口調でガルトは、レイデルトのことを抱きしめながら考えを聞く。


「父さん、僕は自分が情けないです。アミルは、僕と同じ歳なのに僕よりもずっと強くて、先のことを考えて獣と戦いました。今日、会ったばかりなのにアミルとの差は、大きすぎました。ぐすっ。僕は、悔しいです。」


 レイデルトは、ガルトの肩で思いの丈を打ち明け、アミルに聞こえないように静かに泣いた。


「そっか。じゃあ、レイお前はどうしたい?」


  肩からレイデルトを離す。泣き止ますためにレイデルトに慰めの言葉を放つこともできたがガルトは、あえてそうしなかった。


「僕は、強くなりたいです!今よりもずっと!!」


 レイデルトは、鼻をすすり服の袖で涙を拭う。


「よしっ!その意気だ!強くなれるように私も考えておこう。さぁ、帰るとするか。」


 レイデルトの肩をポンっと叩くき、ガルトは、笑いかけ立ち上がるとワイアットに目で合図を送る。


「じゃあ、帰るか。お~い、アミル!ソニア!帰るぞー。」


 ワイアットは、大きく手を振りながらアミルとソニアに合図を送る。


「あなたー。今、行くわー。行きましょ、アミル。」


 ソニアが大きく返事を返すと、アミルの手を引く。


「あの、この獣は、どうするんですか?」

(こいつの素材を売れば少しは、恩返しできるお金が手に入るかも知れない。持ち帰りたい。)


 ワイアットたちの下に来たアミルは、アリゲイトベアの後始末が気になり尋ねる。


「あぁ、こいつは、ガルトに引き取ってもらうことにしたよ。町で依頼が出ていたかもしれない獣だからって。」 


 ガルトと話したことを端的にアミルに伝える。


「そうですか。素材をお金に変えれればと思っていたのですが。」


 少し落ち込んでしまう。


「すまないな。アミル君。こいつは明日、私たちが回収させてもらうよ。」


 ガルトは、手を合わせてアミルに謝る。


「え?今日、運ばないんですか?」


 アミルは、首を傾げながらガルトに聞く。


「あー明日、力のある者たちを連れてこいつを運ぶ予定だが。」


 ガルトが、明日の予定を軽く話す。


「今日中に運べますよ。」

「え?」

「え?」


 アミルは、少し言うかどうか迷ったがガルトの考えていたことを覆す提案をする。その提案にガルトは、すっとんきょうな返事になる。それにアミルもつられてしまう。


「だーはっはっは!アミル君、確かに全員で運べば森の外までなら運べるかもしれんが。」


 ガルトは、アミルが言ったことを子供なりの冗談だと思い、辺りに響くほど大きな声で笑う。アミルは、ガルトの様子を見て悪い笑みを浮かべる。


(小バカにしてるなぁ。ガルト~~。腰でも抜かせてやろうか。)

「ではでは、存分にご覧あれ~。」


〈ストレージ〉


 アミルは、ストレージの入り口を大きく開くとアリゲイトベアを入れる。


「あっ、かぁーーーえー」


 ガルトは、口を大きく開けて言葉を失っている。


「あの、もし許してくれるなら、この獣をガルトさんの家まで運んでもいいですか?」


 さっきの笑みをやめて、通常の笑みに戻しガルトにもう一度提案する。


「あ、あぁ。では、お願いしてもいいかな。ところでその犬は、飼うのか?」


 ガルトは、〈ストレージ〉に驚きながら返事をする。そして、アミルに抱えられていたマカミのことが気になった。


「はい。僕にとても懐いてくれたみたいで、それに行き場も無さそうなので。」


 アミルは、抱き抱えているマカミを撫でる。


「そうか。ならその子犬も一緒に連れてくるといい。」

「いいんですか!?」

「ああ。折角、家族になったんだろ?なら一緒に来る方がいい。」


 願ってもない提案にアミルは、頭を下げて感謝する。


「では、帰る時に同行させて頂きますね。レイと、話したいこともありますので。」


 アミルは、ガルトの家に同行する許可を得る。そして、レイデルトに笑いかける。レイデルトの家に修行用の木を運ぶという約束も早い方がいいと思ったからだ。レイデルトも笑い返してくれた。


「アミルが行くなら俺も一緒に行かなきゃな。」


 アミルに笑顔を向けた後、ガルトにも笑顔を向ける。しかし、ワイアットは、背後に悪寒を感じてしまう。


「あ~な~た~。アミルと二人で出掛けてまた私は、お留守番ですか?」


 ソニアは、ニコニコしているが明らかに怒っていた。それは、雰囲気でアミルもガルトも気づき下を向いて黙り込んでしまう。


「あの、ソニアさん。ほら保護者は、付いて行かなきゃいけないし、馬車の定員も」


 古くなったゼンマイのように、首をカクカクとさせながら後ろを振り向き、ソニアの笑顔(怒)と向き合いながら説得する。


「あ?馬車なら6人まで乗れるから問題ないぞ。奥さん、も一緒に来ればいい。それに、アミル君も二人がいた方が安心するだろう。」


 ガルトは、会話に割り込み馬車の定員に問題がないことを二人に伝える。


「あら~、ガルト様。ご親切にありがとうございます。さぁ、あなた私も連れて行って下さいね。」


 ソニアは、さらに無言の圧をかけた。


「わ、分かったからソニア、一緒に行こう。」

「はい~。」

(頑張れ、父さん。)


 明るくなった表情のソニアを確認するとワイアットは、安堵の息をつく。アミルは、横目で二人を見ながら、いつの時代も女の人が強いのを確認すると父親に合掌した。


「ついでに、家でディナーも食べていくといい。」


 ガルトは、家に招くだけでなく、ディナーにも三人を誘う。


「いや、さすがにそこまでしてもらう訳には。」


 ワイアットは、報酬やアリゲイトベアの後始末もガルトに任せているため、さすがに遠慮する。


「いや、これくらいさせてくれ。アミル君には、アリゲイトベアの運搬もさせている訳だからな。」


 そう言ってガルトは、アミルを見た。


「ありがとうございます。」

「じゃあ、お言葉に甘えることにするよ。」


 アミルは、ガルトに感謝を伝える。ワイアットは、アミルの頭を撫でながらガルトの厚意に甘えることにした。


「そうと決まれば、早くこの森を出ようか。」

「そうだな。」


 5人と1匹は、西の森の出口に目掛けて歩き出す。道中は、特に大きな問題もなく出口に着いた。


「あ、ガルト様――!レイデルト様――!」


 森の出口には、ガルトたちが乗っていた馬車が停まっており、馬車の御者がガルトたちに向かって、手を大きく振りながら呼んでいる。


「おー、ジリア。迎えに来てくれたのか?」


 ガルトが手を振り返すとジリアが礼をする。ジリア・ディング。スレイガル家の従者だ。


「はい。そろそろお帰りにならないと、奥様がお怒りになるかもと思いましたので、早く帰宅できるようにここまで馬車を連れてまいりました。」


 馬車の扉を開きながら、この気遣いは、さすが、従者といったところだ。


「そうか、ありがとう。そうそう帰りは、ヘイズ一家も一緒に俺の家に行くから丁重にな。」


 ガルトは、ジリアに指示を出すと馬車に乗り込む。


「畏まりました。ガルト様。ヘイズ御一行様、ガルト様のお屋敷まで私、ジリア・ディングが御者をさせていただきます。」


 胸に手を当ててジリアは、アミルたちに礼をする。


「また、お世話になります。ジリアさん。」

「「よろしくお願いします。」」


 ワイアット、ソニア、アミルは、それぞれジリアにお礼を言うと三人は、馬車に乗り込む。ジリアは、御者席につくと手綱を打った。手綱を打たれた馬は、ゆっくりと走り出し、馬車の車輪もガラガラと回り出す。



《種族》人間《個体名》アミル・ヘイズ《・・・・》不明《Lv》20《HP》122《MP》100《攻撃力》125《防御力》80《知力》80《抵抗力》50《素早さ》103《スキル》極東剣術・極、探索、能力特化、感覚特化、解析、マーキング、ストレージ、偽装、ステータス

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