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第五話  友人(前編)

 アミルは、7歳になった。アミルは、いつもの日課で家の2階にある本を読み漁っていた。今、アミルが読んでいるのは、(勇者と魔神)という、この世界に関する伝説が書かれた本だ。



〈遥か昔、この世界が魔神に支配されていた時、人間たちは魔神を倒すために、異世界から9人の勇者を召喚しました。勇者たちは、それぞれ特別な力を持っていました。

 しかし、その中で1人の勇者だけが何の力も持っていませんでした。ある時、8人の勇者たちは、その1人の勇者に言いました。「君がいると足手まといだ。だから、ついてくるな。」そして、8人の勇者たちは、その1人を置いて旅立ちました。

 しかし、魔神の住む城には、強力な結界があり、誰も入ることができません。そして、その結界を破るには、8体の魔王を倒し、魔王の持つ宝玉を破壊する必要がありました。

 勇者たちは、8体の魔王を倒し、全ての宝玉を破壊しました。勇者たちは、魔神の住む城に行き魔神と戦いました。しかし、魔神の力は強大で8人の勇者たちは、倒されてしまいました。魔神は、8人の勇者たちを首飾りにして封印してしました。

 残された1人の勇者は、強くなるために修行をしていました。しばらく経ったある日、勇者に二通の手紙が届きました。一通は、先に旅立った8人の勇者が魔神に負けた、という手紙でした。もう一通は8人が旅立つ前に、残された勇者に向けて書いた手紙でした。そこには、「君の力は、神のみを倒す力だ。だから、魔王との闘いに君を連れて行くことはできない。俺たちは、おそらく魔神に負けるだろう。だから、辛いだろうけど、君に全てを託す。不甲斐ない勇者ですまない。」と書いてありました。残された勇者は、その日一日中泣き、悲しみました。

 そして勇者は、1人で魔神の住む城に向かいました。しかし、魔神は強く勇者は、地に膝をついてしまいます。魔神は言いました。「まだ、死なないのか人間。死なねば苦しくなる一方だぞ。」勇者は、言い返しました。「絶対に倒れない。お前を倒すまでは。それが皆との約束だから。」勇者は、涙を流しながら、立ち上がります。

 その時、魔神の首飾りが光り出し、勇者に集まり、一本の剣へと形を変えました。勇者は、その剣を使い、魔神の心臓を貫きました。剣は、魔神から闇の力を吸い上げ、ついに勇者は魔神を打ち倒し、世界を救いました。〉



(なんか、俺の状況に似てるな。でも、この本に書かれている勇者は、9人。俺と一緒に転生したのは、5人。俺を含めても6人。単なる伝説なのは、分かるけど。妙に他人事とは思えないんだよな~。この話。)


 本をパタンっと閉じる。窓から外を見ながら、改めて自分の状況を考え込む。


(もしかしたら、俺たちよりも前に3人が転生している。もしくは、これから新しく転生してくる。とりあえず、この2通りで考えるのが妥当かな。あっ。)


 アミルがそんなことを考えていると、こちらに向かって来る一台の馬車が外に見えた。その馬車は、通常の馬車と違い、銀の紋章が施されている。紋章付きの馬車は、貴族の証である。そんな、馬車がこんな一介の農家の家に真っ直ぐ向かって来る。


「え?あの馬車、こっち来てね?貴族様がこの家に何の用だろう?」


 貴族の馬車は、アミルの家の前に停まった。馬車のドアが開き、そこから降りてきたのは、アミルの父親ワイアットだった。そして、その後ろから、銀の装飾が散りばめているコートを着た男性とアミルと同い年ほどの男の子が次いで降りてくる。


「いや~。まさか、公爵様と公子様がこんな農家の家に来て頂けるなんて光栄です。」

「そう、硬くなるな。お前と私の仲だろう?」


 ワイアットとコートの男性が何やら話しているが、アミルは、2階にいるため何も聞こえない。そして、ワイアットたちは、家の中に入ってきた。


「アミルーー。いるか?いたら1階に来てくれー。」


 1階からワイアットの呼ぶ声が聞こえてくる。アミルは、それに答え返事をする。


「はーい。今、行くーー。」


 大きく返事をし、階段を下りていく。ダイニングに向かうと、テーブルには、ワイアットとソニア。その向かいには、貴族の男性と男の子が座っていた。


「えっと、お初にお目にかかります。アミル・ヘイズと申します。」

(貴族への挨拶なんて分かんないけど、こんな感じでいいのかな?)


 アミルは、頭を下げながら、ぎこちなく挨拶をする。


「がーはっはーー!なかなか、礼儀正しい子じゃないか!ワイアット!」


 貴族の男性が、身を乗り出してワイアットの肩を叩き、感心している。


「あぁ。俺たちの自慢の息子だからな。」


 ワイアットが返事を返すが、貴族を相手に敬語を使っていない。こんなこと、大問題である。


「とっ父さん!!言葉遣いに気を付けないと。申し訳ありません。」


 アミルは、ワイアットが不敬を働いたと思い、ワイアットに注意を。貴族に謝罪をする。すると貴族の男性が立ち上がり、アミルの前に立つ。そして、アミルの頭を撫でる。


「だーはっはっーー。アミル君は、ホントにいい子だな。でも、心配いらないよ。君のお父さんとは、昔からの友人だから気難しい敬語なんて必要ない。」


 貴族の男は、ワイアットが友人であるため、あのような言葉遣いでも問題なかったようだ。


「アミルには、説明してなかったな。ガルトは、昔一緒に冒険した冒険仲間だよ。」


 ワイアットも、すまないといった表情でアミルに説明する。


「改めてよろしく。アミル君。私は、ガルト・スレイガル。このスレイガルの町を統治している者だ。そして、この子が私の息子でレイデルトと言うんだ。アミル君と同じで7歳だから、仲良くしてやってくれ。」


 コートを着た貴族の男は、ガルト・スレイガル。ガルトは、元は平民の産まれだったが剣術に長け、その剣術を鍛えるため武者修行をしていた時、山賊に襲われていた王族を助けた。その功績を称えられ爵位を与えられた。そして現在は、スレイガルの統治者にまで上り詰めた。


「こちらこそ、よろしくお願いします。ガルト様、レイデルト様。」


 アミルは、再び頭を下げる。すると、ガルトの息子、レイデルトが席から立ち上がり、アミルの下に駆け寄る。


「アミル。よろしく。僕は、レイデルト。同い年の子とは、初めて会ったんだ。だから、その・・僕と友達になってくれないかな?」


 レイデルトは、気恥ずかしそうに少しモジモジしながら、アミルに手を差し出して握手を求める。


(相当、勇気だしたんだな。手が震えてるよこの子。それに、モジモジして可愛い!この子見てると、甥っ子を思い出してしまう。)

「僕にも、同い年の友達はいません。だから、よろしくお願いします。レイデルト様。」

 

 アミルは、レイデルトの手を握る。すると、レイデルトの表情は、一層明るくなった。もう片方の手も添え、両手でアミルの手をブンブンと振る。その手は、手汗で・・・濡れていた。


「ホントに!!ははっ!嬉しいよ。でも、友達なんだから、敬語はやめてほしいんだ。普通に接してもらいたい。」


 レイデルトが求めていたのは、対等に話し合える友人だった。貴族という立場上、敬語を使われることが多い。年下、同い年、時には年上にも敬語を使われるため、息苦しさがあったのだ。


「分かったよ。レイデルト。」

(まぁ、この歳の子には必要だよな。対等な友達って。)


 アミルは、レイデルトの境遇をなんとなく察する。


「じゃあさ、もう一つお願いがあるんだけどいい?」


 レイデルトは、またも不安そうにしながら、アミルを見る。立て続けにお願いをするのが気まずいらしい。


「僕にできることなら!」


 アミルの返事に、レイデルトの表情は、また明るくなる。


「僕のことは、レイって呼んでほしいんだ!僕と仲のいい人たちは、そう呼んでくれるから。それに、レイデルトじゃ、長いし!」


 アミルに断る理由なんてない。微笑みながら、レイデルトの頼みを聞く。


「分かったよ。レイ。」


 愛称を呼ばれレイデルトは、満面の笑みを浮かべ、ガルトの近くに寄る。


「父様!初めて、友達ができました。」


 レイデルトの笑顔を見て、ガルトも笑いながら、頭を撫でる。


「だっはっはーー。良かったな~。レイデルト。友人は、絶対大切にするんだぞ。友人は、自分を支えてくれる。俺とワイアットの関係みたいに。」


 ガルトは、笑った後に真剣な声でレイデルトに伝える。友人の大切さを。


「分かりました。父様。」


 レイデルトは、軽く頭を下げると、再びアミルに駆け寄る。


「アミル!外で何かして、遊ばない?」

「僕は、いいけど・・」


 レイデルトは、公爵の子供だ。親の目が届かないとこで遊んでもいいのかと気になり、ガルトの様子を伺う。


「あ~構わんよ。アミル君、遊んでやってくれ。レイデルトは、ずっと家の敷地内でしか、遊んだことがないんだ。」


 ガルトは、ニッと笑いアミルとレイデルトにサムズアップをしている。


「よしっ!決まりだね。行こう。アミル!」

「うん。レイ。」


 そう言って二人は、外に飛び出した。


 家の中に残されたワイアット、ソニア、ガルトは、三人で会話をする。お茶を一口飲むとワイアットが口を開いた。


「で、ガルト。数年、会えなかったのは。何か理由が?」


 ワイアットとガルトは、ここ数年、会っていなかった。しかし今日、ワイアットが町で買い物をしている時にガルトと偶然出会い、話をしている間にワイアットの家に来ることとなった。ガルトは、目をつぶって過去数年のことを思い出しながら、ワイアットの問いに答える。


「特に変わったことは、していなかったが、強いて言うなら、息子に剣を教えていたかな。」


 ワイアットは、顎に手をあてがう。


「お前のところも、剣を教えていたのか。いや、お前のところは、教えなきゃいけないの方が正しいか。」


 ガルトは、うんうんと頷いている。


「あぁ。我が家の男は、神定武器が剣だからな。早めに教えておいて損はないだろう。」


 〈神定武器〉この世界の子供は、10歳の年の終わりに教会で、神によって決められた武器の啓示を受ける。そして、この世界の人間は生涯、その啓示で決められた武器しか戦闘で扱うことができない。もしも、他の武器を戦闘で使おうとすると、神罰が下る。


「そうか。俺もアミルに剣を教えたんだけど。家は、貴族でもないし、一族で定められた武器もないから。もし、剣じゃなかったらどうしよう。」


 ワイアットは、神定武器のことを思い出し、不安になる。貴族や5代続けて同じ武器の家系は、親と同じ武器になる可能性が高い。しかし、そうでない家系は、完全にランダムである。


「そうねぇ。あんなに一生懸命、剣を覚えたのにもし、他の武器だったらと思うと心配ね。」


 ワイアットが不安になっているのを見て、ソニアも不安になってしまう。そんな二人を見て、ガルトは溜息をついた。


「だよなぁ。俺のとこも、絶対に剣とも限らんからな。もし、違ったらと思うと不安になってしまう。」


 三人とも親という立場で話し合えるため、色々とぶっちゃける。


「そういえば、レイデルトにどの剣術を教えたんだ?」


 ガルトは、手元のお茶を一口飲み、一つ息をつく。


「帝国剣術の玄武だ。」


 それを聞いて、ワイアットが勢いよくガタっと立ち上がる。


「帝国剣術だと!!しかも、玄武か。また、凄いものを教えたな。」


 〈帝国剣術・玄武〉は、四帝国の一つイリアノースで編み出された剣術である。神獣の玄武、亀の守りと蛇の変則的な攻撃方法が特徴的な剣術。剣を逆手で持ち構え、前方で守りの姿勢をとりながら、戦う。


 ガルトは、ワイアットに落ち着くように両手をヒラヒラさせている。


「まぁ、落ち着けよ。俺だって、最初は、驚いたよ。なんせ、たった2年で基本をマスターしちまったからな。」


 帝国剣術は、剣術の中でも特に会得するのが難しいとされる剣術の一つである。基礎をマスターするだけでも15年。応用も含めれば、25年ほど掛かると言われている。


「帝国剣術をたった2年で。言い方は、悪いがその成長速度は、異常だな。」


 古い友人だからこそ、こういった一見失礼に思える発言もできる。ガルトは、手元にあるコップの水面を見ながら、静かに微笑む。


「確かに異常だな。でも、誇りに思ってるよ。」


 ガルトの表情を見て、ワイアットも微笑む。ワイアット自身もアミルのことを誇りに思っていたから、親近感が湧いたのだ。


「ふっ、そうだな。」


 少しの間、沈黙した後にガルトが思い出したように、ワイアットに聞く。


「そういえば。アミル君には、何を教えたんだ?」


 それを聞いて、ワイアットがニマニマする。


「極東剣術だ。」


 ガルトは、少し間を置くと大声を上げる。


「はぁぁぁ!!極東剣術だとぉー。俺もだがお前も大概だな。」


 〈極東剣術〉簡単に言えば居合のことである。特徴的なのは、7つの居合7つの属性があるということ。会得するには、15年の修行が必要とされている。しかしアミルは、3ヶ月で会得、マスターした。


 ワイアットは、少し手を拡げ、何を言ってるんだかと首を傾げる。


「そうか?お前よりは、ましだと思うがな。」


 ガルトは、確かにと笑う。


「全く、お互いとんでもない親だな!」


 ガルトとワイアットは、お互い静かに笑う。すると突然、家の扉が勢いよく開く。


「父さん、ワイアットさん。アミルが・・・」


 扉をあけたのは、レイデルトだった。




《種族》人間《個体名》アミル・ヘイズ《・・・・》不明《Lv》20《HP》122《MP》100《攻撃力》125《防御力》80《知力》80《抵抗力》50《素早さ》103《スキル》極東剣術・極、探索、能力特化、感覚特化、解析、マーキング、ストレージ、偽装、ステータス

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