第四話 初めての魔法
スキルの獲得から数ヶ月後、季節は、秋になろうとしていた。あれからアミルは、他のスキルを獲得するために、両親に内緒で西の森に来ていた。
「スキルを得るには、イメージをすること。そのイメージ次第では、どんなスキルでも獲得できるということが分かった。さて今日は、何、覚えようかな。」
アミルは、家にあったスキルが記載されている本を開く。この本には、全てのスキルが記載されているわけではないが、強化から補助のスキルなど約100種類のスキルが記載されている。
「おっ!ストレージか~。このスキル、覚えとけば色んな物、持ち運ばなくてもよくなるな。」
アミルが今回、目を付けたスキルは、〈ストレージ〉。
〈ストレージ〉は、物や生物を自分の作り出した亜空間に保管することのできるスキルである。
「なるほどな~。亜空間に保管か~。どんな、イメージにすればいいかな?とりあえず、クローゼットのイメージにしてみるか。ストレージ!」
アミルがスキルの名前を唱え、手をかざす。すると、手をかざした先に光る切れ目が現れる。
「おっ!久しぶりに、一発成功だ。せっかくだし、何か入れてみるか。何か手頃な物は・・・。これで、いっか」
アミルは、ストレージが成功しているのか確かめるため、近くにあった拳ほどの石を入れてみる。石を握った手を切れ目に入れると、切れ目の中に手が消えた。そして、切れ目の中で石を手放し、手を引き抜く。見事に石だけ消えていた。
「よし!入れることはできた。次は、取り出しだな。」
アミルは、再び切れ目の中に手を入れる。しかし、中はただの空洞になっており、手に石の当たる感覚もない。
「あれ?さっき、入れた石どこいった?」
その後、数分間〈ストレージ〉の中をまさぐっても石は見つからなかった。
「取り出せないんじゃ、使い物にならんなー。どうしたものか。」
アミルは、近くにあった大きな木に腰掛け、休憩をしながら、方法を考える。
「やっべー。な~んにも、思いつかん。」
アミルは、空を見上げながら、少しだけ諦めていた。アミルに心地の良い風が吹き付ける。このまま、眠ろうかとも考えていた。ふと、家から持って来た本に目を通す。
「スキルの基本は、イメージ。・・・・あっ、もしかして」
アミルは、ある方法を思いつき、再び切れ目に手を入れる。そして、手を引き抜くとアミルの手には、先ほど入れた石が握られていた。
「やっぱり、取り出すのもイメージか。」
アミルが見たのは、本の最初のページに書いてある【はじめに】の部分だ。そこには、(スキルを覚える上で最も重要な事は、イメージをすることである。そのイメージが明確であればあるほど、覚えるスピードは、早くなる。)と書いてあった。
「ふぅ~。とりあえず、スキルは一つ覚えれたし、今日はこのくらいにして、帰ろうかな。」
時間でいうと13時頃、アミルは、西の森を後にし、家に帰る。
「ただいまー。」
「お帰りー。アミル。今、お掃除してるから待っててね~。」
アミルが家の扉を開けて、帰宅したことを告げる。ソニアは、すぐに返事を返してくれた。この時間ソニアは、家の掃除をしている。今は、2階の掃除をしているようだ。ワイアットは、今、町に出払っているため、家にはいない。
(2階って、ちょっと広いよな。俺がいつも、遊んでいられるのは、二人の支えがあるからなんだよな。この状況だから、理解できることなんだよな。よしっ!手伝おう。)
アミルは、少し物思いにふける。それは、前世のことを思い出してしまったからだ。前世では、大学に通うために県外で一人暮らしをしていた。感謝はしていたが、正直に伝えることはできなかった。だからできることはしようと思った。
「母さん、手伝いに来たよ~。」
アミルが二階に上がり、ソニアが掃除をしている部屋に行く。ソニアは、少し疲れた顔をしていたが、すぐに笑顔でアミルを受け入れた。
「ありがとう。アミル。じゃあ、そっちの方を雑巾掛けしてくれる?」
ソニアが近くにあるバケツから雑巾を取り出し、絞ってアミルに渡す。
「分かった!任せて。」
アミルは、ソニアから雑巾を受け取り、支持された場所の掃除に取り掛かる。
「今日は、どうだった?何か新しいスキルは、使えるようになった?」
二人が黙々と掃除していると、ソニアが午前中に何をしていたか、アミルに尋ねる。
「そうだった!見ててよ。母さん。」
「な~に~?」
「ストレージ」
スキルを唱えアミルは、ソニアの目の前で持っていた雑巾を〈ストレージ〉の中に入れて見せた。
「えっ!えっ!えーーー!!どうなってるの?雑巾が消えちゃったわ。」
ソニアは、雑巾が何処に消えたのか、アミルの近くを探しまわる。しかし、見つかるはずもない。
「母さん今、出すから。ちょ、ちょっと、服の中まで探さないで。」
ソニアは、消えた雑巾を探すあまりに、アミルの服の中にまで手を入れていた。普通の6歳児と母親なら、こんなことをしても問題ないように感じるが、アミルは中身が20歳の健全な青年であるため、まんざらでもなかった。
「ストレージ」
アミルは、再びスキルを唱え、切れ目に手を入れ、雑巾を取り出す。
「凄い!今度は、何もないところから雑巾が出てきたわ!!それにまた、新しいスキル覚えたのね。」
ソニアは、目を輝かせている。アミルが次々に新しいスキルを身に付けて成長しているのがよっぽど嬉しいのだろう。
「うん。この本のおかげだよ!」
アミルがストレージから、スキルの本を取り出して、ソニアに見せる。
「ねぇ、アミル。このスキルは、何でも入れれるの?」
ソニアは、ニヤニヤしながらアミルを見る。その笑みにアミルは少し、警戒する。
「う、うん。何でも入れれると思うよ。」
「そう。そうなのね。ふふん。アミル~、実はね、もうバケツの水が汚れちゃってね。新しい水、汲んできてくれない?」
そう言って、持って来たバケツの中には、汚れた水が半分ほど入っていた。重量は、3kgほどだろうか。ソニアは、毎日このバケツを持ち運びながら、家中を掃除している。
「分かった。任せて!!」
アミルは、元気良く返事をし、ストレージの中にバケツを入れる。アミルは、ソニアの役に立てるのが嬉しかった。少しでも早く、持ってくるために軽く走った。しかし、それが良くなかった。ちょうど、階段を降り始めた2段目あたりで、足を滑らせてしまった。
「あっ」(ヤバい!この高さから、落ちたら最悪、死ぬ!!何か、スキルは・・ダメだ!焦ってイメージが作れない。)
アミルは、せめて頭へのダメージを少なくするために、咄嗟に両手で頭を覆う。階段から落ちると思い、恐怖心で目をつぶる。しかし、アミルの体は、階段には打ち付けられず、滑り台のように滑り落ちた。
「なっ。何が起こった?」
アミルが目を開けると、そこに自分が落ちてきた階段はなく、綺麗な滑り台が目の前にあった。
「何だ、これ?冷たっ!!」
その、滑り台に触れてみると、それは冷たく、滑らかだった。触った手には、氷が溶けて水滴が付いている。
「階段が氷に滑り台になってる。」
その、滑り台をよく見ると、氷の中に階段が薄っすらと見える。自分が階段から落ちる瞬間の1秒にも満たない時間で、こんなことができるのは、一つしか思いつかなかった。
「魔法?でも一体、誰が?」
アミルがスキルと思わなかったのは、スキルの特性にあった。スキルは、誰かのイメージがないと存在することができない。つまり、スキルだった場合、そのスキルを使った使用者がいないとおかしいのだ。しかし魔法は、単体で存在することができ、条件を満たすことで発動する魔法があるからである。そのため、アミルは魔法しかないと考えた。次の問題は、この魔法を唱えた人物が誰かということだ。
(ソニアは、掃除していた部屋に今もいるし、ワイアットは出掛けているからそもそも家にいない。考えられるのは、階段から落ちる場合にのみ発動するトラップのような、魔法だということか・・・。まぁ、良いか。助かったんだし。)
どんな、仕掛けがあったにしても助かったことにアミルは、安心する。
「はぁ~~、助かって良かった~~。誰だか知らないけど、ありがとう。」
アミルは、大きく息を吐きながら、胸を撫で下ろす。とにかく、助かったことに感謝したかったため、そこにいるはずの無い物に感謝する。そして、アミルは、ソニアに言われた通りにバケツの水を入れ替え、再びソニアのいる部屋に向かった。
《種族》人間《個体名》アミル・ヘイズ《・・・・》不明《Lv》15《HP》98《MP》90《攻撃力》105《防御力》73《知力》80《抵抗力》50《素早さ》90《スキル》極東剣術、探索、能力特化、感覚特化、解析、マーキング、ストレージ