第二話 アミル(0歳)の長い一日
春の中頃、アミル誕生から一週間後の朝方、ソニアも出産の疲労から回復していた。
「ん~~♪ん~ん~ん~~~♪」
ソニアが白いワンピースを着て、身支度をしている。出産の時に下ろされ、汗ばんでいた髪は、今は後ろで結ばれ、美しいポニーテールとなっている。ソニアは、身支度を終わらせ、アミルのいるベッドを笑顔で覗き込んでいる。
(お~。これは、これは、我が母上ではありませんか。髪を結ぶだけで随分と印象が変わるもんですな~。やっぱり、美人だな。20代前半くらいかな。全然、10代って言われても不思議じゃないけど。同年代だったら、間違いなく惚れてるな。)
そんな、ソニアを見ているとアミルは、思わず両手を挙げて、抱っこをねだるような恰好になる。ソニアは、そんなアミルを見てニコっと笑い、抱き上げる。
「どうしたんでちゅか?ふふ。アミルは、本当に可愛いわね。あっ、そうだ!今ね、お父さんが外でお仕事してるから。一緒に応援しに行きましょうね。」
「あうあーーー!」
アミルが元気良く返事を返し、ソニアもいっそう笑顔になる。
(ワイアットの仕事か。それは、興味あるな。ワイアットは、体格が良かったし、力仕事でもしてるんだろうか?というか、何気に初めての外だな。)
ソニアに抱かれながら、初めての外出をする。家の外には、野菜を育てている畑がある。普段ワイアットは、畑を耕したり、野菜や窓際から見える紫の花に水やりをしている。つまりは、畑仕事をして自給自足している。主な収入源は、作った野菜を問屋に売ったりして収入を得ている。
「ふう~。後は、サクラメロンの種を植えれば今日の仕事は、終わりだな。ん?おう!二人とも。もう、ちょっとで終わるよ。」
ワイアットが、首に掛けたタオルで額の汗を拭いながら、振り返るとソニアとアミルが見守っていた。
「あら?今日はもう、終わりなの?せっかく、アミルと応援にきたのに。残念。」
「あんえん。(残念)」
ソニアは、まだワイアットが畑を耕していると思っていたようだ。しかし、ワイアットは、1秒でも早く我が子との時間を作りたかったため、畑作業を急いで進めたようだ。
「うん。アミルと早く遊んであげたいからな。今日は、サクラメロンの種を植えれば、もう終わりだよ。今、植えてる野菜たちも水やりが必要なのが4つくらいだし、しばらくは力仕事もそんなにないよ。」
ワイアットが現在、育てている野菜は、10種類あり、その内の6種は、光合成で成長に必要な養分を作り出す。そのため、水やりをする必要がほとんどない。
「そうなのね。じゃあ、種植えを応援するわね。アミルも一緒に応援しましょうね~。頑張れ!頑張れ!あなた!!」
「あうあえ。あうあえ~。(頑張れ。頑張れ~)」
ソニアがアミルを上下に揺らしながら、ワイアットを応援する。それに合わせて、アミルも手を振りながら応援している。
「や、やめてくれよ。ソニア、アミルまで。種植えくらいで。照れくさいじゃないか。」
ワイアットは、ソニアとアミルの応援に顔を赤らめて、照れてしまう。しかし、その中には、嬉しさと幸せでたまらないという感情も、入り混じっている。その応援に応えるようにワイアットは、種植えの作業に取り掛かる。土に指の第一関節ほどの窪みを作り、そこに種を入れ、優しく土を被せていく。応援のおかげか5分ほどで種植えを終わらせた。
「よしっ!今日のとこは、こんなもんかな?お待たせ。ソニア、アミル終わったよ!!」
「お疲れ様、あなた。すぐ、お昼ご飯作るから早く汗、流して来てね。」
「ありがとう。でも、君は回復したばかりだろう?無理しないで。しばらくの間、家事もご飯も俺がするから、任せてくれ。」
これから、ソニアは、子供の世話でストレスも増えてくる。ワイアットは、そんな、ソニアのストレスや負担を少しでも、減らすために気をつかう。
(ワイアットは、優男だな~。顔もいいし、優しいなんて、女性の理想的な男性じゃないか!俺もなるべく、この二人にストレスを与えないようにしなくちゃな。)
ワイアットに感化されて、アミルもそう心に誓う。
「ありがとう。あなた、でも無理はしないでね。畑仕事もあるし、明後日は、狩りにも行かなきゃ、いけないんだから。」
「はぁ~。そうだった。明後日は、狩りの日か~。最近は、獲物の数も少なくなってきたし、イノシシか鹿でも獲れればいいんだけど。」
ワイアットとソニアが互いを気遣いながら、他愛ない話をする。そして、徐々にワイアットから汗の匂いが充満しだす。
「あなた、そろそろ汗を流してきて。少し匂ってるから。」
「あえうあいーー(汗臭い)」
ソニアとアミルが鼻を抑えながら、ワイアットに忠告する。
「あぁ。すまない。アミルもごめんな。じゃあ、行ってくるよ。」
そう言うとワイアットは、棚からバスタオルを取り出し、家の奥にある風呂場に向かう。
「はー。臭かったでちゅね~アミル。」
「あういうあっあ(悪臭だった)」
「ふふ。そうよね~~。」
ソニアは、ダイニングにあるテーブルの席に着きながら、伝わっているのか、伝わっていないのか分からない会話をアミルと一緒に、笑顔で楽しんでいる。
(本当によく、笑う人だな。笑顔が眩しすぎるよ、母さん。それによく、抱いてくれる。おかげでこの家の間取りも頭に入ってきた。でも、やっぱり外国に似た家だからかな?小さいけど暖炉もあるし、壁に釣り竿や斧まで掛かってある。)
ソニアに抱き抱えられながら、部屋の様子を確認していると。バタンっと、遠くから扉を閉まる音がする。ワイアットが風呂から上がり、服に袖を通しながら、ソニアに話しかける。
「ふぃ~。さっぱりしたー。じゃあ、ソニア、何が食べたい。といっても簡単なものしか作
れないけどな。」
ワイアットがキッチンの前に立ち、ソニアに昼食の希望を聞く。
「う~ん。あっ!パスタが食べたいわ。あと、アミルのミルクも作ってくれる?」
「分かった。任せてくれ。」
そう言って、ワイアットは、麺を茹ではじめる。茹でている間に香り辛子やニンニクを刻んで油で炒める。ワイアットは、ペペロンチーノを作っているようだ。炒められた、ニンニクと香り辛子の香ばしい匂いが部屋に広がる。
「うん。やっぱり、この時期の香り辛子は、特にいい香りがするわね。」
ワイアットが育てている野菜には、この時期に味や香りが増す物が多い。香り辛子は、その一つだ。
「ああ。形は、悪いものだったけどね。香りは、変わらないし、おいしいはずだよ。」
ワイアットが皿に、ペペロンチーノを盛り付け、テーブルに並べる。微かに湯気が立ち上げ、それに乗って食欲をそそる香りが、ソニアとアミルの鼻孔をくすぐる。アミルは、勿論、赤ん坊なのでパスタなど食べれるはずもない。
(うわ~~。めっちゃ、いい匂いする。これ絶対、美味いやつだ。食いたい!でも、俺が食えるというか飲めるのは、ミルクだけ・・・。う~~~。)
美味しそうな匂いにアミルの口から涎が溢れ、垂らしてしまった。
(あっ。やべ!)
「あらあら。どうしたのアミル?そんなに、お腹空いてたのね。ごめんね。気づけなくて。今、ミルクあげるからね~。」
ソニアが哺乳瓶を持つ。人肌程度に暖められたミルクがアミルの口に運ばれる。その味は、ほんのり甘かった。
(うっぷぅ~。ミルクって以外と腹に溜まるんだな。まぁ、赤ん坊の体ってこともあるんだろうけど。ふわ~、眠くなってきたな。特にやることもないし、この眠気にしたがっておこう。)
アミルは、空腹を満たすと静かに眠りにつく。
「あら、寝ちゃったわ。うふふ。可愛い。ゆっくり眠りなさい。チュ。」
アミルが眠ったことに気付いたソニアは、アミルの額に優しくキスをした。
アミルは、夢を見る。その夢は、前世のものだ。
(はぁ~。今日の講義も面白くなかったな。大体、なんで皆、後ろの席にしか座らないんだ。前の方に座ってるのなんて俺合わせても10人くらいだったし。はぁ、こんなこと考えてるから大学で友達ができないのかな?)
一人の青年が、大学の帰路についている。青年に周りの音は、まったく聞こえていない。青年は、音量を最大限に上げて、音楽をきいているから。青年は、講義での出来事を思い返している。興味のない講義、前列に座らない学生、出席だけ取って帰る学生、そんな人たちに対して、心の中で愚痴る。
「あれ、あの車なんか、おかしくないか。」
「運転手、寝てるぞ!!おい!君たち逃げるんだ!!ダメだ!あいつ、イヤホンしてる!!おい!おいっ!」
大学の校門に居た人たちが必死な呼びかけをする。しかし、青年には、何も聞こえていない。そして、青年は、迫ってくる車に気付くことなく、轢かれ20mほど引きずられたあげく死亡した。その20mの間に車は、青年を合わせ計6人の命を奪った。
「あうあおあいうえあああ。(なんか、怖い夢だったな。)」
アミルは、日が落ちるくらいまで寝ていた。妙に、リアルな悪夢からアミルは、目を覚ます。アミルは、ベッドに寝かされており、体は夢のせいで服が濡れるほど、冷や汗をかいている。
「うぇぇ~~。」
(汗、気持ちわり~~。どうしよう。自分で風呂なんて行けないし、呼んだらきてくれるかな?)
「あ~あ~!」
アミルが今、出せる最大限の声量で両親を呼んでみる。その呼び声は、ソニアに聞こえたらしく、遠くの方で返事が聞こえる。
「は~い。あら、起きたのね。あらあら、すごい、汗でちゅよ。タオル一枚だったけど暑かったのかしら?もう、夕方だし、一緒にお風呂入っちゃいましょうね~。」
ソニアが汗だくのアミルを抱えて、お風呂場に向かう。しかし、アミルは、必死に暴れて抵抗する。なぜなら、赤ん坊なのは間違いないがアミルは、中身が20歳の青年だ。アミルからすれば、少し年上のお姉さんと一緒に風呂に入るようなものだからだ。恥ずかしさというよりは、この先自分が成長した後の、気まずさに耐えるのが嫌だったのだ。
「アミル。そんなに、暴れないで。」
(うおーーー。確かにソニアは、母親だが俺からしたら姉に近い存在でもある。それに、ソニアは美人だ。いや、美少女ともいえるくらい若くて綺麗だ。こんな、綺麗な人に風呂に入れてもらえるなんて、夢のようなものだけど、新しい性癖に目覚めてしまいそうで危険だ。とにかく、このビッグイベントもったいないが回避しなければ・・・ふん!ふんっ!!)
アミルがソニアの腕で足を屈伸運動させて、必死に抵抗する。しかし、所詮は、赤ん坊。赤ん坊の力で大人の力に勝てるわけもなく。アミルは、服を脱がされ、強制的にソニアと聖域(風呂)に入ることとなった。
(あ~。拝啓、前世の母上様。僕は今、綺麗なお姉さんにお風呂に入らせて、もらってます。勘違いしてほしくないのは、決してバブみプレイをしているわけではありません。ですが、そういったプレイに目覚めてしまうのも時間の問題かもしれません。敬具、ソニアの胸は、最高でした。)
アミルは、風呂に入れてもらっている間、せめてもの罪滅ぼしとして、ソニアの裸を見ないように目を瞑っていた。しかし、手では様々な感触は楽しんだ。
「あ~。さっぱりしたね。アミル。おとなしくて偉かったわよ。いい子いい子。」
ソニアは、仰向けのアミルの体を丁寧に拭いていく。
(あっ。ソニアさん、そこはダメです。おぉぅ。そんなとこまで。)
「あら?ふふふ、そんなに体拭かれるの気持ちいいんでちゅか~。アミルのために、ふわふわに洗濯してるからねぇ~。」
ソニアがアミルの世話をしている間、ワイアットは、夕食の準備をしている。ソニアの体を気遣い、栄養バランスを考えながら夕食を作っている。
「よしっ。なかなか、旨そうにできたな。ん~?もうちょっとしたら、ソニアたちを呼びにいこうかな。」
ソニアは、アミルの体を拭き終わり、服を着せる。その服は、白くふわふわしており、とてもシンプルな赤ちゃん服である。
「まぁ、可愛い~。やっぱり、この服も似合うわね。それにしても、ア~ミ~ル~。ママ、お腹空いてきちゃった。」
空腹を訴えながら、アミルに頬ずりをする。
(そういえば、俺もお腹空いてきたな。)
「ういあ~~(空いた~~)。」
アミルもそれに同意する。すると、ダイニングの方からワイアット呼び声が聞こえてくる。
「お~い。そろそろ、ご飯にしようー!」
「は~~い。」
それを聞いてソニアは、返事をしてアミルを抱え、ゆっくりと立ち上がるとダイニングに向かった。
「わー!すごく美味しそうね。あなた、ありがとう。」
ソニアが食卓に着く。テーブルの上には、優しい香りのお茶、5種類の野菜のサラダ、さっぱりした味付けのステーキ(3種類の味変用ソース付き)、温かいスープが並べられている。
「喜んでもらえて、良かったよ。でも、少し量が多いかもしれないから、無理しないで食べれるだけ食べな。」
ソニアは、回復したとはいえ出産後であるため、ワイアットも普段より気をつかっている。本当に優しい人物である。
「ありがとう。でも、せっかくあなたが作ってくれたんですもの全部食べるわ。」
ソニアもせっかく、ワイアットが自分のために作ってくれた手料理を、残したくなかった。
「じゃあ、食べようか?」
「ええ、そうね。いただきましょう。」
「「いただきます。」」
ソニアは、アミルを抱えながら器用に夕食を食べる。ワイアットもソニアの食べる姿を少し眺めた後に、食べ始める。
「美味しいわ。あなた。」
「そ、そうかい?喜んでもらえて良かった。久しぶりに料理なんてしたから、ちょっと心配だったんだ。」
アミルが産まれるまでヘイズ家は、ソニアが家事全般、ワイアットが畑仕事、育てた野菜の売却、獣の狩りなど、役割を分断して過ごしていた。そのため、ワイアットが料理を作る機会は、ほとんどない。そのため、ワイアットも少し自信がなかったようだ。
(あぁ~。また、美味そうなもの食ってる。いいな~。早く、生え揃わねぇかなぁ。そういえば、いつもだったらテーブルの上に俺のミルクもあるんだけど・・・あっ!俺のミルクって言っても下ネタじゃないからね。って、誰に説明してんだか。まともに喋れない以上、一人語りが絶えねぇな。)
アミルも相当、暇なのだろう。何せ、精神は20歳なのに体が赤ん坊だからだ。ついに、心の中で一人語りを始めてしまう。そんなことをしていると、ワイアットが口を開く。
「そういえば、今日はついに、あの日だな。」
「えぇ。アミルは、受け入れてくれるかしら?」
「きっと、大丈夫だよ。」
ワイアットがソニアと、何やら話している。どうやら、二人にとって今日は、特別な日らしい。実に楽しそうに話している。
「じゃあ、アミル。アミルもご飯にしようねぇ。」
「あうえあいあーー(待ってました。)」
そう言って、ソニアとアミルが短い会話をするとソニアは、カーディガンを前後逆にして羽織る。そして、カーディガンの中にアミルを入れる。ソニアは、カーディガンの中で胸を片方、出す。アミルの目の前に白く、形の良い美しい胸が現れた。ちなみにソニアは、Eカップほどの美巨乳の持ち主である。
「さぁ、アミル今日は、直接飲んでみましょうね~。」
(ちょっと、待てぇぇぇい!!なっ何がどうなってるんだ?おっ、俺の目の前におっおっぱ。いや、エベレストの頂きが見える。)
ワイアットとソニアが話していたあの日とは、ソニアがアミルに直接、授乳を行う日であった。今までは、市販の粉ミルクかソニアが事前に搾乳したミルクを与えていた。だが、ソニア自身も母乳の出が安定してきたため、今日からは粉ミルクを止め、直接、授乳することを決めていたのだ。
「あら?アミル、飲まないの?」
「うあーーーーーーーーーーー(うわーーーーーーーーーーーーー)」
(頂き、頂きが!!俺の眼前にーーーー!風呂以外にこんな障害があるとは思わなかった。俺の中で天使と悪魔が争っているーー![飲んじゃいなよ。こんなチャンス、二度とないぜ~][飲むのですよ。飲まないと死にますよ。]あれ?どっちも悪魔じゃね?)
アミルがまたも今度は、さらに人格を増やして脳内会議をする。
(いや。しかし、こんな機会、人生の間で数年しか経験することができない。それに、こんな風に意識がある状態で母乳プレイができるなんて最高のシチュエーションでは?・・・・・・・・あれ?俺、どんどん性癖、歪んでね?)
一週間ではあるが、アミルは散々甘やかされながら育てられていたため若干の幼児退行を起こしている・・・のかもしれない。
「あら?飲まないわね。あっ!アミルは、おっぱい位置が分からないのかな?ほら、ここよ。」
ソニアは、そう言って大きな胸のトップをアミルの口に当て、位置を教える。
(うぉほん!ここまでされたら仕方ない。ソッ、ソニアさん。いや、お母さん失礼して頂きます。)
こうしてアミルは、心を殺しながらソニアの母乳を飲んだ。
「あっ、ワイアット!飲んでくれたわ。」
「本当かい?それは、良かったね!」
ソニアは、アミルが母乳を飲んでくれたことに、安心している。というのも前々から、粉ミルクや搾乳した母乳ではなく、直接、飲んでもらいたいと考えていた。それも、出産後、安定して母乳が出なかったため、ずっと我慢していたのだ。
(あ~~、背徳の味がするよ。なんか、腹もいっぱいになってきたし、眠くなってきた。)
そして、アミルの長い長い一日が終わり、静かに眠りについた。
《種族》人間《個体名》アミル・ヘイズ《・・・・》不明《Lv》1《HP》10《MP》10《攻撃力》5《防御力》5《知力》50《抵抗力》5《素早さ》5