第一話 顔合わせ
(狭い。暗い。今、どこにいるんだ?)
しかし、さっきまで大きな樹と会話をしていた世界とは違うように感じた。というのもどこからともなく複数人の声が聞こえるからだ。
「ふん~~~!!」
何かを踏ん張っているようなとても力強い女性の声が聞こえてくる。
(ん~、何をそんなに踏ん張ってるんだ?)
この暗い世界で特にやることもないので、聞こえてくる声が何をしているのか、妄想することにした。
(あっ!もしかして、ウンコか!分かるぜ~お嬢さん俺も前世では、便秘ぎみだったからな~。でも、怖いことに踏ん張り過ぎると頭の血管が切れるらしいぜい。だから無理は、良くないですよ。)
踏ん張っている女性に同情していると今度は、男性の声が聞こえてくる。
「頑張れ!!ソニア、もう少しだよ!!!」
踏ん張っている女性は、ソニアという名前のようだ。だがそれよりも気になることがあった。
(この男は、何を応援しているんだ!!女性がトイレで踏ん張ってるのをそんな大声で応援することあるか?というか何で「もう少しだよ」ってまるで見ているかのような声掛けができるんだ?)
一瞬で様々な疑問が思い浮かんでくる。自分なりにこの二人の状況を整理しようとした時、一つの答えに辿り着いた。
(分かってしまった。いや、分かりたくなかったがもう、これしか考えられない。この二人がしているのは、スカ○ロプレイだ。)
自分の前世での記憶を辿りながら様々な思考を巡らせた結果に行き着いた。最もしっくりくる答え。それがスカ○ロプレイだ。
(なっなんて、二人だ!前世での俺の性癖は、確かに健全と言えるような性癖ではなかった。そして、数多のエロサイトをサーフィンして俺が避け続けていたジャンルの一つがスカ○ロだ!しかし、この二人はそれをしている・・・・・負けた!!なんて上級者なんだ!!)
ここまでのプレイをしている二人に感心のようなものをしていると今度は、とても必死な中年女性の声が聞こえてきた。
「はい!!もっといきんで!!!もう少しで頭が出てきますよ!!」
次の瞬間、今まで真っ暗だった視界に眩しい光が差し込み、目の前に中年女性が現れる。他に体格のいい、イケメン黒髪の男性が安堵した表情で涙を流しながら立っている。さらに、大量の汗をかいたプラチナブロンドの美しい髪の女性が嬉しそうな、表情でベッドの上で横になっていた。
黒髪の男性が、横たわっている女性の手を両手で握りしめ声を震わせている。
「う~。ソニア、産んでくれてありがとう。これから、二人でこの子を育てていこう。」
男は、涙を流しながら横たわっている女性。ソニアというらしいがその人に感謝をしていた。
「ええ。あなた元気いっぱいな子に育てましょうね。」
ソニアも堪えていたのか男に返答した瞬間涙を溢れさせながら、男の手を握り返し眩しい笑顔を浮かべた。
「奥様、旦那様、本当におめでとうございます。元気な男の子でございますよ。」
中年の女性が俺の顔の近くで涙目ながらソニアと男に話しかけている。
(というか、この三人の会話を合わせて考えてみると、俺ってこのイケメンと美女の子供なのでは?俺って本当に転生したんだな。そして、出産という神聖とも言える出来事を俺は、スカ○ロプレイだと思っていたのか。言葉を喋れるようになったら、両親に真っ先に謝罪しよう。これが転生して真っ先にする俺のクエストだ!!そして、この中年女性は誰だ?侍女ってとこかな?)
脳内で、様々な考察&謝罪の算段を立てていると、三人がかなり心配した面持ちで赤ん坊を眺めている。
「この子、泣かないわ!!」
ソニアがその一言を言った瞬間、場の空気が凍りついてしまった。
(ヤバい。このままでは病院に連れていかれかねない。どこにも異常がないのに病院なんて嫌だ!だけど、見た目が赤ん坊でも中身は、二十歳の成人だ。それなのに、演技だといえ泣きたくもないのに泣く真似をするのは嫌だ!!)
そんなことを考えている間にどんどん両親と侍女の顔は、深刻な表情になっていく。
(くっそ~。分かった。今から泣くからそんな心配そうな顔しないでくれ。よし泣くぞ。いくぞ!!)
「ゥオギャー!オギャー!!」
その泣き声は、実に魂の籠ったものであった。精神年齢二十歳の男性が泣いているとは到底思えない程、見事な泣き声であった。
(うおぅーーー!苦痛でしかねぇーー!でも、心配させる訳にはいかない。聞け!!聞くがいい!!俺の魂の泣き声を~~~!)
両親と侍女がいる部屋に俺の作り泣き声がこだまする。その瞬間に三人の表情が一気に明るくなった。
「良かった~。ちゃんと泣いてくれた。」
三人が同時に安堵し、ハモりながら呟く。
侍女が泣いてる赤ん坊(演技)を母親であるソニアに手渡す。ソニアは、赤ん坊を受け取り優しく抱き抱える。
「生まれてきてくれて、ありがとうね。私たちの天使。」
ソニアは、そう言って赤ん坊の頬にキスをして頬ずりをした後、優しい笑顔を向ける。
(こんな、綺麗で可愛い人の子供に産まれてきたのか。嬉しい。勿論嬉しいのだができれば同年代の幼馴染でいてほしかった。)
赤ん坊は、苦虫を潰したような渋い顔をしながら悔しさをさらけ出していた。そんな、赤ん坊の様子を見ていたソニアは、クスクスと笑いながら男の方を見ながら話を振る。
「そういえば、この子の名前はどうしましょうか?私が考えていたのは女の子用の名前だし。あなたは、考えてきてくれた?この子の名前。」
ソニアは、困った顔をしながらもその表情は柔らかく、男に問いかける。問いかけられた男は、「待ってました」と言わんばかりに自身満々に胸にドンッと手を当てた。
「任せてくれ!ソニア!この、ワイアット・ヘイズこの子にふさわしい名前を考えてきたよ。約束だったからね。」
そう言うと男は、皆のいる部屋から退室した。そして、ここに来てようやく赤ん坊は、男の名前を知ることができた。
(やっと、この世界の父親と母親の名前を知ることができた。父親がワイアット・ヘイズ。母親がソニア・ヘイズかな?外国方式だったらヘイズが苗字だからソニア・ヘイズであってるよな?)
しかし、ここで赤ん坊にある疑問が産まれる。
(おれは、この世界の言語は知らないはずなのにどうして聞きとれているんだ?もちろん喋ることはできないけど意味は、理解できる。もしかして、この世界では日本語を使ってたりするのか?いや、そもそも名前の付け方が違うし、文化と言われればそれまでだけど、聞き取れるのは転生ボーナスかな?でも、ラシルは、そんな特別待遇はないって言ってたし・・・あっ、中身が20歳だからか。)
そんなことを考えていると、部屋の扉がゆっくりと開く。そこには、ワイアットがびっしりと文字の書かれたA4ほどの紙を持ってゆっくりとソニアと赤ん坊に近づき、ベッドの近くに置いてある椅子に腰掛けた。
そして、紙に書かれた名前を一つ一つ読み上げていく。
「じゃあ、ソニアどんどん読み上げていくから気になるのがあったら止めてくれ。」
自分の子供への名前の付け方としては、少々雑に思うがワイアットが紙に書いた名前はおよそ百以上。そのどれもがワイアットが真剣に考えた名前たちだ。もう、一度言う!真剣に考えた名前たちだ。
「分かったわ、あなた。どれもあなたが真剣に考えてくれた名前なのね。」
ソニアは、楽しみにしながら耳を傾ける。
(これで、この世界での俺の名前が決まるのか。どうせならカッコイイ名前がいいけど。まぁ、へんな名前じゃなければなんでもいいか。さぁ、俺の名前は何になるんだ?)
赤ん坊もワクワクと期待しながら、ワイアットの考えた名前に耳を傾ける。
「じゃあ、どんどん言っていくからなぁ!アルカディア、アダム、アバドン・・・」
ワイアットが次々に我が子に付ける名前の候補を読み上げていく。しかし、読み上げていくにつれてソニアと侍女のワイアットを見る目が冷たくなっていった。それは、赤ん坊も一緒だった。
(俺の父親、名前付けるセンスねぇーーーーー!!いや、無いととかそういう話じゃない。見てみろ!ソニアと侍女の目を!!すわってきてるじゃねぇか!!)
しかし、ワイアットはそんな眼差しに気付かずに名前の候補を次々に読み上げていく。
「セバスチャン、カルマ、ノア・・・。ふぅ、ソニアどうだった。気に入った名前はあったかい?」
なぜだか分からないがワイアットは、自信ありげにソニアに聞く。それほど、自分の考えた名前に自身があったのだろう。しかし、なんの奇跡か分からないが名前のどれもが、神様や架空の場所などの名前であった。日本に産まれていれば、ワイアットは確実に中二病を患っていただろう。
「さぁ、あなたこの子の名前を一緒に考えましょうか?いえ考えましょう。」
ソニアは、目をすわらせたまま、ワイアットが考えてきた名前を聞いていなかったように、少し冷たく強制する。
「旦那様、私も奥様と一緒に思案したほうがよろしいかと思います。」
ソニアだけでなく、侍女までもがワイアットにそう提案する。それを聞いたワイアットが腕組みをし、顎に手を当てながら少し考える。
「ソニアとエレナさんがそう言うなら、そうするよ。一緒に考えよう。とは言っても俺が考え付く名前は、今言ったやつだしなぁ。ソニアが考えていた名前は、どんな名前だい?」
(おっ。自分の意見を強制せずに一緒に考えることを提案してる。ワイアットは、良い人のような気がするな。)
赤ん坊は、ソニアに抱き抱えられながら腕組みのような形をとり、ワイアットの良い人さに感心していた。
「そうねぇ。私が考えていたのは、女の子用の名前だけど・・・。女の子だったら、アスタニアって名付けようと思っていたわ。」
ワイアットの壊滅的なネーミングセンスに比べて、ソニアは至って普通のネーミングセンスだった。
「アスタニアか。いい名前だね。でも、女性名だからな・・。じゃあ、俺の考えた名前とソニアが考えた名前を少し取って名付けるのはどうかな?」
ワイアットは、微笑みながらソニアにそう提案する。
「それは、良い案ね。なんだか、私とあなたの思いが詰まってるみたいで嬉しいわ。」
ソニアは、満足気にワイアットへ笑みを向ける。そして、ワイアットが持って来た我が子の名前候補が綴られた紙を見て、一つ一つに目を通していく。
「じゃあ、あなた。あなたが考えてくれた候補からは、この名前をもらうわね。」
ソニアが紙をベッドの端にワイアットが見えやすいように置く。そして、一つの名前を指さす。
「この、名前が気に入ってくれたのか?いい名前だよね。俺も気に入っているよ。じゃあ、どう名前をもじろうか?」
ワイアットがソニアの指さした名前を見ながら、ふむふむといった様子でいる。そして、また腕を組みながら、我が子の名前を考えている。そして、先に名前を決めたのはソニアだった。
「アミルというのは、どうかしら?」
ソニアが自分の考えていた名前とワイアットの考えていた名前を組み合わせてアミルという名前を提案した。
「アミル。アミル・ヘイズか。良いと思う。良い名前だと思うよ!!」
「うふふ。気に入ってくれて、良かったわ。じゃあこの子の名前は、アミルに決まりね。この子も気に入ってくれるかしら?」
「大丈夫!きっと、気に入ってくれるさ。君が考えた名前なんだから。」
「それは、違うわ。あなたが考えた名前も入ってるのよ。だから、一緒考えた名前よ。」
ソニアとワイアットが笑いながら、実に楽しそうに話をしている。子供の名前が決まり、二人とも実に嬉しいのだろう。
(うわっ!!いつのまにか、寝てた。俺の名前は、決まったのかな?あら?寝てる間に楽しそうな雰囲気になったな。良い夫婦ですなぁ~。)
赤ん坊の名前が決まり、ワイアットと楽し気に話していた時にソニアの腕が少し揺れて、赤ん坊が目を覚ました。
「あっ!起こしちゃったわね。あなたの名前が決まったところよ。うふ。あなたの名前は、これからアミルよ。」
ソニアがアミルに向かって笑顔で名前を教える。
「これからよろしくね(な)!アミル!!」
ソニアとワイアットが笑顔でアミルの顔を覗きながら、名前を教える。
(この世界での俺の名前は、アミル・ヘイズ。うん、気に入った。少し女性名っぽい気がしないでもないがこの、二人が一緒に考えてくれた名前だ。この名前から始まるんだ。俺の異世界生活が。こちらこそ、よろしく父さん、母さん。)
《種族》人間 《個体名》アミル・ヘイズ 《・・・・》不明 《Lv》1 《HP》10 《MP》10
《攻撃力》5 《防御力》5 《知力》50 《抵抗力》5 《素早さ》5