第十六話 神定式
女性神官に教えてもらった通りに、廊下を進んで行く。アミル以外にも受付を済ませて式場に向かう子供たちの姿があった。
廊下は非常に長く、数百メートルはあるだろう。廊下には、数十メートルおきに人間一人で開けるのが、不可能に思えるほど大きな扉が左右にあった。
そして、目の前には、先に歩いている子供たちが、一つの部屋に入っていくのが見える。その扉の前には、先ほどの女性神官と同じ服を着ている神官が子供たちの用紙を確認しているのが見える。
(あそこの部屋か。)
他の子供たちに続いて、アミルもその部屋に向かう。大きな扉の前には、男性の神官が二人体制で子供たちの用紙の確認をしていた。
「はい、確認できました。それでは、中に入ったら好きな席に座って下さい。」
目の前に青髪細見イケメン神官が、対応しているのが見える。
(うわ~、イケメンだな~~。・・・え?・この人、神官なの?どっちかっていうと戦士とか盗賊の頭領なんだけど)
こんな事を思ってしまったのは、もう一人が2mほどの身長にハゲ頭、筋骨隆々の色黒神官だったからだ。
(この人は、筋肉神官と名付けよう。)
「それでは、用紙を拝見させて頂けますか?」
アミルを担当してくれたのは、筋肉神官だった。その声は、見た目からは想像もできないほど優しい声だった。何なら、一緒に居るイケメン神官より優しい声な気がする。
「・・・あっ、はい。宜しくお願いします。」
(思ってた声と違う!!)
想像では、野太い声だと思っていたため、想定外の声に少し間が空いて筋肉神官に返事をしてしまった。
「はい。それでは、ご自身のお名前を教えて下さい。」
(あ~~。また、脅かしちゃったかな~~。俺は、こんな見た目なんだから、もっと腰を低くして、子供たちと同じ目線で対応しなきゃダメだろ!!あ~~、アミル君か。ゴメンね。脅かしちゃって、驚いたよね。俺がエルマーさんみたいに細見で髪もあったら、子供たちを脅かさないで済むのに!)
この筋肉神官、小心者である!
「はい。アミル・ヘイズです。」
筋肉神官が、心の中で必死に反省しているのをよそに、アミルは、自分の名前を答える。
「はい、合っていますね。それでは、中で式が始めるまで、待機していて下さい。席は、自由ですので、お好きな所に座って大丈夫です。何かありましたら、中にも神官がいますので、その者に言って下さい。」
筋肉神官は、丁寧に説明をすると、アミルの用紙を返した。
(は~~。また長々と説明してしまった。エルマーさんには、席の事だけ説明すればいいって言われてるのに。は~~~。)
「ありがとうございます!」
(!!ア・アミル君。こんな俺にお礼を言ってくれるなんて、今までは、子供たちを怯えさせてばっかりだったけど、俺がやってきた事は正しかったのか・・・こちらこそ、ありがとう。アミル君!)
こんな事を、思われているとはつゆ知らず、アミルは、筋肉神官から用紙を受け取ると一礼して、神定式が行われる部屋に入った。部屋に入るまでに、後ろからずっと視線を感じていたが、気のせいだろう。
(それにしても、あの筋肉神官、なんで、途中で露骨に落ち込んでたんだろ?)
部屋の中は、体育館より少し狭いほどの広さで壁には、式用の白い布が覆われていた。壁の近くには、壁一面に対して、4人の神官が待機している。部屋の中央には、100以上の肘掛け付きの椅子が1m置きに並べられており、アミルが入室した際には、すでに半分以上の席が埋まってしまっていた。
(何処に座ろうかな。出来れば、隣に人がいない、中心の方がいいんだけど。)
人の心理なのか、こういった自由席の時、なるべく隣に人がいない席を探してしまう。アミル自身もそうだ。どうせ、式が始まる頃になれば、どこの席であっても隣に人が座っているのに、不思議なものである。
そして、中心部分にアミルがこだわったのも理由がある。こういった式というのは、話が長いのが相場である。なのでなるべく、中心部分に座り面倒な長話の部分は、眠ってサボってしまおうと考えていた。
しかし、この作戦を実行するにあたって弊害も存在する。それが壁際の神官たちだ。恐らく。この神官たちは、眠っている子供がいれば、起こすという役目も背負っているはずだ。そのため、目に付きやすい、端の方では、駄目なのだ。
(・・・くっそ~~皆、考えてる事は一緒か・・・)
一通り探したが、そんな席は見当たらなかった!今、席に座っている子供たちのほとんどが、一つ飛ばしにバランス良く座っているため、アミルが理想としていた席は、一つも無かった。
(仕方ない。・・・端に座るか。)
中央に座れないのであれば、することは一つ、人があまり座っていない端の席に座ること。眠る事はできないが、自由退室になった際にいち早く退室することができる。アミルは、後方左端の席に着くことにした。
「ふぅ・・・」
(今思えば、馬車降りてから、一回も休憩してなかったな。)
教会についてから、かれこれ1時間ほどが経過しようとしていた。列に並んでいただけにしても、ずっと立ちっぱなしでは、疲労も溜まってしまう。
「ねぇ、神様からどんな武器、授かれるかなぁ?」
「さぁね。でも、きっと、私たちにピッタリな武器よ。」
「なぁなぁ、俺この前さ新しいスキル覚えたんだ~。」
「え!マジ!お前それで何個目のスキルだよ。」
「へっへ~。3個目~。いいだろ~。」
「羨ましいなぁ~。それで何てスキル?」
「え~~どうしようかな~」
隣や前方の席から、楽しそうな話し声が聞こえてくる。皆、友達と一緒に来ているようだ。内地に住んでいる子供たちなのだろう。しかし、アミルの家はスレイガルの領地内ではあるが、中心地から少し離れているため、親しい友達はレイデルトしかいない。
(いいなぁ。皆、友達がいて俺にも友達は、いるっちゃいるけど立場上、中々、会うこともできないし。悩ましいよな~。)
(・・・というかこれは、イベント発生前の静けさ、なのでは?ゲームやアニメなんかじゃ、こんな式が始まる前って隣に座った女の子から「ねぇねぇ、君も一人?良かった私もなんだ~」みたいなヒロイン遭遇イベントがあるはずだ。)
「あ、あの?」
(きたきたきたきたーーーー!!イベント発生!!)
「どうしました?」
心躍らせながら、声を掛けられた方を向くと、そこには、気の強そうな青髪の女の子と茶髪の優しそうな女の子が立っていた。
「そこ・・通りたいんだけど、いい?」
アミルが期待していたような、イベントではなかった。ただ、アミルが邪魔だっただけだった。アミルが現在、座っている席は、端の席だ。つまり、内側の席に座ろうとしている人にとってとても邪魔である!
「あ、すいません。」
少しテンションの下がったアミルは、足を抱えて体育座りの状態になり二人に道を開けた
。
(そうだよな~。こんなもんだよな~。はぁぁぁぁぁぁっっっっっっっずぅぅぅぅぅぅ!!!)
ヒロイン遭遇イベントでは、なかったことに落ち込んだと同時に、あんな妄想をしたことの気恥ずかしさのあまり、両手で顔を隠してしまう。隣に座った二人から危ない物を見る目で見られている気がするが、そんなことより、この気恥ずかしさの方が僅かに勝った。
アミルが気恥ずかしさに打ちひしがれている間にあれ程、空白だった席は、9割方埋まっていた。
「皆さん、大変長らくお待たせいたしました。これより、神定式を始めます。」
(ん?この声は・・・)
澄んだ女性の声が、部屋中に拡がった。それも聞いたことのある声だ。アミルは、気になり、自分の座高を伸ばせるだけ伸ばした。壇上の上に立ち式の始まりを告げた声の主は、、式の受付をしていた女性神官だった。
そして、いよいよ神定式が始まる。




